天使と死神は恋をする(追憶のquiet特別番外編)

makikasuga

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2days①

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 自分はレイという名前らしい。なんでもある組織の一員で、世間では顔向け出来ないことを仕事にしているそうだ。
 目が覚めてすぐ、青い目をした男(シラサカというらしい)が色々話してくれたが、それら全てはフィクションの世界の話としか思えず、気分の悪さも手伝って、もう一度眠ることにした。
 再び目を覚ますと、今度はヤクザとしか思えない強面の男が側にいた。この男は松田という名で医者らしく、自分を名前ではなく少年と呼び(実年齢は二十六歳らしい)、色々訊ねてきたが、彼の話もまるで理解出来なかった。
 松田曰わく、自分は記憶喪失で、名前から過去の出来事に至る全てを忘れているそうだ。言われてみれば、名前は勿論、今何歳で過去に何があったのか、全く思い出せなかった。数日前から高熱が続いていたらしく、その影響があってのことかもしれないので、体調回復を最優先するように言われ、再び眠りについた。
 次に目を覚ますと、誰も居なかった。自分が何者であるかを知るために、近くにあったデスクトップのパソコンを触ってみることにする。やがて、パスワードを入力する画面にたどり着いた。思いついた英数字を入力してみれば、呆気なく開いた。そこには膨大なファイルが保存されてあり、その中のいくつかを開いてみれば、シラサカという男がいったことが、全て真実であることがわかった。

 俺は、こんなことをして、生きてきたのか?

 自分が怖くなり、着替えを済ませて外に飛び出した。だが、ここがどこでどういう場所か全くわからず、恐怖は更に増した。

(何を言うかと思えば、やはり子供だな)

 脳裏に見知らぬ男の声が蘇る。体が震え、言い知れぬ恐怖に包み込まれる。

(人は殺すのではなく、バラすというのだよ、覚えておきたまえ)

 なんだ、これ、なんの記憶だよ。

 自分は誰かに支配されている。その相手は今も、自分を縛りつけている。自分から進んでのことなのか、それとも脅されてのことなのか、全くわからない。
 救いを求めたくても、自分が誰かわからないし、道行く人々も自分を知らない。熱が上がり、苦しくなって、どこをどう歩いたのかわからず、足下がふらついてその場に倒れた。

(大丈夫、ですか?)

 朦朧とした意識の中で、澄んだ声が耳に飛び込んできた。どこかで聞いたことがあるような、懐かしさを感じた。救急車を呼ぶという言葉を聞いて、咄嗟に腕を掴んで止めた。

 何もいらないから、放っておいて。

 ここで朽ち果てればいい。そうすれば、きっと自由になれる、はず……。

 はっとして意識が戻る。すぐさま起き上がれば、酷い眩暈と気持ち悪さに襲われ、咄嗟に両手で口元を押さえた。
「我慢するな。吐いちまえ」
 ステンレス製の膿盆をあてがわれ、逆流してきた液体を吐き出す。すぐにペットボトルに入った常温の水を手渡され、何度か口をゆすいだ後、飲み干せば、気分が落ち着いた。
「少し、楽になったようだな」
 膿盆やペットボトルを差し出したのは、白衣を着た松田だった。レイはこくんと頷いて、ベッドに横たわる。
「ここはどこですか? 今、何時ですか?」
「俺の診療所で、今は午前三時だ」
 路上で倒れた後、人の話し声で意識を取り戻した。誰かに拾われたらしく、後部座席に寝かされていた。車が停車したのを見計らって起き上がり、運転手と助手席にいた少女の顔を確認する。どちらも見覚えがなかった。
 運転手の男は桜井直人と名乗った。自分とは最近知り合ったばかりだと言っていた。強い眼差しが印象的で、シラサカに近い年齢に見えた。桜井がどこまで自分のことを知っているのかを訊ねようとすれば、シラサカに割って入られ、聞けなかった。よって、助手席にいた少女のことは、全くわからないままである。
「悪い夢でも見ていたのか、ずいぶんうなされていたぞ」
 夢というよりは、今までの出来事を振り返っていただけに過ぎない。
「俺は、ここにいて、いいんでしょうか?」
 質問の意味がわからないといったように、松田は首を傾げた。
「俺は、ハナムラって組織の人間で、人を殺す手伝いをしているみたいなんです」
「みたいってことは、記憶が戻ったわけじゃなさそうだな」
「部屋にあったパソコンの中のファイルを見ました。それで怖くなって、逃げ出しました。でも、外に出ても、自分が誰で、どこにいるかもわからなくて、ますます怖くなって……!?」
「自分のことがわからないんだ、怖くて当然だよ。そんなに自分を責めなくていい」
「でも、俺は、たくさんの人を殺したみたいで!?」
「少年が極悪人であっても、今は俺の患者だ」
 顔は怖いままだが、松田の言葉には温かさが感じられた。
「ついでにいえば、少年はずっと俺の患者だ。だから甘えていいんだぞ」
 松田の右手が、くしゃくしゃとレイの頭を撫で回す。前にもこんな風にされたことがあったような気がして、ふと涙が溢れた。
「すみません、突然泣いたりして……」
「誰にも言わないから、泣いていいぞ。俺が知る限り、少年は色んな事を我慢していた。こんなときだからこそ、吐き出せよ」
 松田の言葉に懐かしさとくすぐったさを感じながら、レイはひとしきり泣いた後、また眠りについたのだった。
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