20 / 23
奇跡の結末①
しおりを挟む
夏休みが終わり、また忙しい日常が戻ってきた。
「シラサカ、なんで入力如きでPCが何回もフリーズすんだよ!?」
レイはこの上なく不機嫌だった。始末屋に勝るとも劣らない殺気を出しまくり、周囲の人間を恐れさせている。
「報告書の入力なんかやりたくないよぉ。結果報告なら口頭でいいじゃん」
大阪出張を終えたマキも、シラサカの隣で入力作業をしていた。
「うるせえぞ、マキ。それから、出張費の精算は今日中にやれ」
「えー、面倒くさい」
「自腹でいいなら勝手にしろ」
「それはやだ。てゆーか、報告書より、話したいことがいっぱいあるんだってば」
「報告書が先だって言ってんだろ。提出期限が迫ってる」
「じゃあ、これが終わったら今日は帰ってもいい?」
「ここは会社だ。定時まで働け。俺の仕事を回してやる」
「レイの鬼、悪魔! 夏休み終わってから、チョー機嫌悪いし」
マキが両頬を膨らませて、文句を言えば、目の前にファイルが一冊追加された。
「それもやっとけ」
仕事が増えるだけだと言うのに、マキは不服を訴え続ける。
「えー、僕、デスクワーク苦手なんだってば」
「仕方ねえよ、マキ。レイは据え膳食わずに失恋して、荒れまくってんだから」
「え、レイが据え膳食わずに失恋!?」
周りの目があるため、シラサカは小声で言ったのだが、あまりの衝撃にマキはフロア内に響き渡る音量で叫んでしまった。
「そうか、そんなデスクワークがしたいのか。いいぜ、たっぷりさせてやる」
マキとシラサカの前に書類が置かれ、山となっていく。さすがに二人の顔が青ざめた。
「嘘でしょ、こんなの無理だってば」
「レイ君、落ち着こうよ。さっきのは冗談だからさ」
「俺が帰ってくるまでに、全部やっとけよ!」
不機嫌全開のまま、レイは上着と鞄を手に室内を後にした。
余計な事ばっか言いやがって。
だが、シラサカの言ったことは間違いではない。あの日、レイは桜にキスしかしなかったし、自分のことは忘れて幸せになるようにと言ったから。
会社を出て、駅前のカフェに向かって歩く。苛立ちを紛らわすために出てきたが、一時間後に桜井と打合せの予定が入っていたので、少し早いが一人でのんびりするかと、店内に足を踏み入れる。どこに座るかと周囲を見渡すと、壁際の隅の席に桜井がいた。いるならちょうどいいと思ったが、向かい側に女性の後ろ姿が見える。
いつのまに女作ったんだ、よし、顔を見てやろう。
桜井に見つからないよう、そっと近づいてみれば、彼に向かいにいたのは桜だった。
あいつら、つきあってんのかよ。
単に向かいに座っているだけかもしれないが、今のレイには刺激が強すぎた。すぐさま店を出て、来た道を戻る。
桜と顔を合わせたくない。まだ気持ちの整理が出来ていないから。このまま一人になれば、更に落ち込みそうだと思い、結局会社に戻ることにした。やはりと言うべきか、マキとシラサカが仕事をしている様子はなく、書類の山を前に楽しそうに話をしていた。
「おまえら、もう帰れ」
彼らにこういった仕事が不向きなことはわかっていた。それでも側で楽しそうにされると、レイは面白くない。
「レイが定時まで仕事しろって言ったんじゃん」
「そうだな、俺が悪かった。帰っていいから」
書類の山を引き取り、レイは自分の机のパソコンを立ち上げ、無心で入力作業を始めた。急におとなしくなったレイを見て、二人は焦り始めた。
「ごめん、レイ、僕、仕事する、ちゃんとするから!?」
「マキは出張で疲れてんだろ、ゆっくり休めよ」
「疲れてない、疲れてないよ!?」
だったら働けと言いたい気持ちを抑えて、レイは笑った。
「えっと、レイ君、入力以外で俺に出来ることあったら……」
レイが突然優しくなったことに危機感を覚えたシラサカ。てめえも帰れと言いたい気持ちを抑えて、レイはまた笑ってやった。
「じゃあ、今から作る書類、ナオに届けてきてくれないか?」
「えー、俺が?」
仕事はないかと聞いてきたくせにと思いながらも、レイは態度を変えなかった。
「そうだよな。始末屋のリーダーにこんなこと頼むの、間違ってるよな、悪かった」
「いや、行かねえとは行ってねえし」
「はーい、だったら、僕が行ってくる!」
ここぞとばかりマキが割って入れば、シラサカが焦り出す。
「サカさん、ナオのこと嫌いだもんね」
「今は嫌ってねえよ」
シラサカとマキの争いを無視し、レイはマキがやりかけた報告書の入力をしていた。既に三分の二は終わっており、残りもすぐに終わった。他の資料と共に印刷し、透明のファイルに挟んで入れる。
黙々と事務作業をしながらも、レイの脳裏には、あの日桜に告げたことが蘇っていた。
(俺は、君とはつきあえないから)
(どうして、ですか?)
(君を危険な目に遭わせたくないからだよ)
(私なら大丈夫ですから!?)
(磯田に拉致されて怖かっただろ。あんな思い、もう二度としたくないだろ)
俺は、間違ってなんかねえ。
レイは血と闇に染まりきっている。光の眩しさを羨み、手を伸ばしたところで、眩しさで切り刻まれるだけ。自分のものにする前に手放すべきだったのだ。
「どっちでもいいからさ、これを駅前のカフェにいるナオに届けてきてくれ」
今はまだ胸が苦しいけれど、時間が経てば忘れていく。この決断も受け入れられるはず。
それが桜のため、あの子が幸せになるためなんだから。
「シラサカ、なんで入力如きでPCが何回もフリーズすんだよ!?」
レイはこの上なく不機嫌だった。始末屋に勝るとも劣らない殺気を出しまくり、周囲の人間を恐れさせている。
「報告書の入力なんかやりたくないよぉ。結果報告なら口頭でいいじゃん」
大阪出張を終えたマキも、シラサカの隣で入力作業をしていた。
「うるせえぞ、マキ。それから、出張費の精算は今日中にやれ」
「えー、面倒くさい」
「自腹でいいなら勝手にしろ」
「それはやだ。てゆーか、報告書より、話したいことがいっぱいあるんだってば」
「報告書が先だって言ってんだろ。提出期限が迫ってる」
「じゃあ、これが終わったら今日は帰ってもいい?」
「ここは会社だ。定時まで働け。俺の仕事を回してやる」
「レイの鬼、悪魔! 夏休み終わってから、チョー機嫌悪いし」
マキが両頬を膨らませて、文句を言えば、目の前にファイルが一冊追加された。
「それもやっとけ」
仕事が増えるだけだと言うのに、マキは不服を訴え続ける。
「えー、僕、デスクワーク苦手なんだってば」
「仕方ねえよ、マキ。レイは据え膳食わずに失恋して、荒れまくってんだから」
「え、レイが据え膳食わずに失恋!?」
周りの目があるため、シラサカは小声で言ったのだが、あまりの衝撃にマキはフロア内に響き渡る音量で叫んでしまった。
「そうか、そんなデスクワークがしたいのか。いいぜ、たっぷりさせてやる」
マキとシラサカの前に書類が置かれ、山となっていく。さすがに二人の顔が青ざめた。
「嘘でしょ、こんなの無理だってば」
「レイ君、落ち着こうよ。さっきのは冗談だからさ」
「俺が帰ってくるまでに、全部やっとけよ!」
不機嫌全開のまま、レイは上着と鞄を手に室内を後にした。
余計な事ばっか言いやがって。
だが、シラサカの言ったことは間違いではない。あの日、レイは桜にキスしかしなかったし、自分のことは忘れて幸せになるようにと言ったから。
会社を出て、駅前のカフェに向かって歩く。苛立ちを紛らわすために出てきたが、一時間後に桜井と打合せの予定が入っていたので、少し早いが一人でのんびりするかと、店内に足を踏み入れる。どこに座るかと周囲を見渡すと、壁際の隅の席に桜井がいた。いるならちょうどいいと思ったが、向かい側に女性の後ろ姿が見える。
いつのまに女作ったんだ、よし、顔を見てやろう。
桜井に見つからないよう、そっと近づいてみれば、彼に向かいにいたのは桜だった。
あいつら、つきあってんのかよ。
単に向かいに座っているだけかもしれないが、今のレイには刺激が強すぎた。すぐさま店を出て、来た道を戻る。
桜と顔を合わせたくない。まだ気持ちの整理が出来ていないから。このまま一人になれば、更に落ち込みそうだと思い、結局会社に戻ることにした。やはりと言うべきか、マキとシラサカが仕事をしている様子はなく、書類の山を前に楽しそうに話をしていた。
「おまえら、もう帰れ」
彼らにこういった仕事が不向きなことはわかっていた。それでも側で楽しそうにされると、レイは面白くない。
「レイが定時まで仕事しろって言ったんじゃん」
「そうだな、俺が悪かった。帰っていいから」
書類の山を引き取り、レイは自分の机のパソコンを立ち上げ、無心で入力作業を始めた。急におとなしくなったレイを見て、二人は焦り始めた。
「ごめん、レイ、僕、仕事する、ちゃんとするから!?」
「マキは出張で疲れてんだろ、ゆっくり休めよ」
「疲れてない、疲れてないよ!?」
だったら働けと言いたい気持ちを抑えて、レイは笑った。
「えっと、レイ君、入力以外で俺に出来ることあったら……」
レイが突然優しくなったことに危機感を覚えたシラサカ。てめえも帰れと言いたい気持ちを抑えて、レイはまた笑ってやった。
「じゃあ、今から作る書類、ナオに届けてきてくれないか?」
「えー、俺が?」
仕事はないかと聞いてきたくせにと思いながらも、レイは態度を変えなかった。
「そうだよな。始末屋のリーダーにこんなこと頼むの、間違ってるよな、悪かった」
「いや、行かねえとは行ってねえし」
「はーい、だったら、僕が行ってくる!」
ここぞとばかりマキが割って入れば、シラサカが焦り出す。
「サカさん、ナオのこと嫌いだもんね」
「今は嫌ってねえよ」
シラサカとマキの争いを無視し、レイはマキがやりかけた報告書の入力をしていた。既に三分の二は終わっており、残りもすぐに終わった。他の資料と共に印刷し、透明のファイルに挟んで入れる。
黙々と事務作業をしながらも、レイの脳裏には、あの日桜に告げたことが蘇っていた。
(俺は、君とはつきあえないから)
(どうして、ですか?)
(君を危険な目に遭わせたくないからだよ)
(私なら大丈夫ですから!?)
(磯田に拉致されて怖かっただろ。あんな思い、もう二度としたくないだろ)
俺は、間違ってなんかねえ。
レイは血と闇に染まりきっている。光の眩しさを羨み、手を伸ばしたところで、眩しさで切り刻まれるだけ。自分のものにする前に手放すべきだったのだ。
「どっちでもいいからさ、これを駅前のカフェにいるナオに届けてきてくれ」
今はまだ胸が苦しいけれど、時間が経てば忘れていく。この決断も受け入れられるはず。
それが桜のため、あの子が幸せになるためなんだから。
0
あなたにおすすめの小説
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる
きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。
穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。
——あの日までは。
突如として王都を揺るがした
「王太子サフィル、重傷」の報せ。
駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる