天使と死神は恋をする(追憶のquiet特別番外編)

makikasuga

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奇跡の結末①

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 夏休みが終わり、また忙しい日常が戻ってきた。

「シラサカ、なんで入力如きでPCが何回もフリーズすんだよ!?」
 レイはこの上なく不機嫌だった。始末屋に勝るとも劣らない殺気を出しまくり、周囲の人間を恐れさせている。
「報告書の入力なんかやりたくないよぉ。結果報告なら口頭でいいじゃん」
 大阪出張を終えたマキも、シラサカの隣で入力作業をしていた。
「うるせえぞ、マキ。それから、出張費の精算は今日中にやれ」
「えー、面倒くさい」
「自腹でいいなら勝手にしろ」
「それはやだ。てゆーか、報告書より、話したいことがいっぱいあるんだってば」
「報告書が先だって言ってんだろ。提出期限が迫ってる」
「じゃあ、これが終わったら今日は帰ってもいい?」
「ここは会社だ。定時まで働け。俺の仕事を回してやる」
「レイの鬼、悪魔! 夏休み終わってから、チョー機嫌悪いし」
 マキが両頬を膨らませて、文句を言えば、目の前にファイルが一冊追加された。
「それもやっとけ」
 仕事が増えるだけだと言うのに、マキは不服を訴え続ける。
「えー、僕、デスクワーク苦手なんだってば」
「仕方ねえよ、マキ。レイは据え膳食わずに失恋して、荒れまくってんだから」
「え、レイが据え膳食わずに失恋!?」
 周りの目があるため、シラサカは小声で言ったのだが、あまりの衝撃にマキはフロア内に響き渡る音量で叫んでしまった。
「そうか、そんなデスクワークがしたいのか。いいぜ、たっぷりさせてやる」
 マキとシラサカの前に書類が置かれ、山となっていく。さすがに二人の顔が青ざめた。
「嘘でしょ、こんなの無理だってば」
「レイ君、落ち着こうよ。さっきのは冗談だからさ」
「俺が帰ってくるまでに、全部やっとけよ!」
 不機嫌全開のまま、レイは上着と鞄を手に室内を後にした。

 余計な事ばっか言いやがって。

 だが、シラサカの言ったことは間違いではない。あの日、レイは桜にキスしかしなかったし、自分のことは忘れて幸せになるようにと言ったから。
 会社を出て、駅前のカフェに向かって歩く。苛立ちを紛らわすために出てきたが、一時間後に桜井と打合せの予定が入っていたので、少し早いが一人でのんびりするかと、店内に足を踏み入れる。どこに座るかと周囲を見渡すと、壁際の隅の席に桜井がいた。いるならちょうどいいと思ったが、向かい側に女性の後ろ姿が見える。

 いつのまに女作ったんだ、よし、顔を見てやろう。

 桜井に見つからないよう、そっと近づいてみれば、彼に向かいにいたのは桜だった。

 あいつら、つきあってんのかよ。

 単に向かいに座っているだけかもしれないが、今のレイには刺激が強すぎた。すぐさま店を出て、来た道を戻る。
 桜と顔を合わせたくない。まだ気持ちの整理が出来ていないから。このまま一人になれば、更に落ち込みそうだと思い、結局会社に戻ることにした。やはりと言うべきか、マキとシラサカが仕事をしている様子はなく、書類の山を前に楽しそうに話をしていた。

「おまえら、もう帰れ」
 彼らにこういった仕事が不向きなことはわかっていた。それでも側で楽しそうにされると、レイは面白くない。
「レイが定時まで仕事しろって言ったんじゃん」
「そうだな、俺が悪かった。帰っていいから」
 書類の山を引き取り、レイは自分の机のパソコンを立ち上げ、無心で入力作業を始めた。急におとなしくなったレイを見て、二人は焦り始めた。
「ごめん、レイ、僕、仕事する、ちゃんとするから!?」
「マキは出張で疲れてんだろ、ゆっくり休めよ」
「疲れてない、疲れてないよ!?」
 だったら働けと言いたい気持ちを抑えて、レイは笑った。
「えっと、レイ君、入力以外で俺に出来ることあったら……」
 レイが突然優しくなったことに危機感を覚えたシラサカ。てめえも帰れと言いたい気持ちを抑えて、レイはまた笑ってやった。
「じゃあ、今から作る書類、ナオに届けてきてくれないか?」
「えー、俺が?」
 仕事はないかと聞いてきたくせにと思いながらも、レイは態度を変えなかった。
「そうだよな。始末屋のリーダーにこんなこと頼むの、間違ってるよな、悪かった」
「いや、行かねえとは行ってねえし」
「はーい、だったら、僕が行ってくる!」
 ここぞとばかりマキが割って入れば、シラサカが焦り出す。
「サカさん、ナオのこと嫌いだもんね」
「今は嫌ってねえよ」
 シラサカとマキの争いを無視し、レイはマキがやりかけた報告書の入力をしていた。既に三分の二は終わっており、残りもすぐに終わった。他の資料と共に印刷し、透明のファイルに挟んで入れる。
 黙々と事務作業をしながらも、レイの脳裏には、あの日桜に告げたことが蘇っていた。

(俺は、君とはつきあえないから)
(どうして、ですか?)
(君を危険な目に遭わせたくないからだよ)
(私なら大丈夫ですから!?)
(磯田に拉致されて怖かっただろ。あんな思い、もう二度としたくないだろ)

 俺は、間違ってなんかねえ。

 レイは血と闇に染まりきっている。光の眩しさを羨み、手を伸ばしたところで、眩しさで切り刻まれるだけ。自分のものにする前に手放すべきだったのだ。
「どっちでもいいからさ、これを駅前のカフェにいるナオに届けてきてくれ」
 今はまだ胸が苦しいけれど、時間が経てば忘れていく。この決断も受け入れられるはず。

 それが桜のため、あの子が幸せになるためなんだから。
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