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そのセグを解明せよ
後編②
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花梨が昏睡状態に陥り、浅田の人間がやってきてから三日目。彼らは朝昼晩と花梨の様子を確認しては部屋を出て行くという不気味な行動を取っていた。
「あなた、今夜は自分の部屋で休みなさい」
その日も夜を迎えた頃、和子がコーヒーを持って部屋に現れた。
「ずっと泊まり込んでいるようだし、私がみてあげるわ」
笑ってはいるが、その言葉が信用出来るとは思えなかった。
「お気持ちは有り難いのですが、花梨の側にいてあげたいので」
「そう。まあいいわ、好きにしなさい。これは私からの差し入れよ」
今すぐ飲めと言わんばかりに手渡されたコーヒーカップ。そんな気分ではなかったけれど、飲まないと出て行ってもらえそうになかったので、麻百合は少し飲むことにした。疲れているからなのか、舌が痺れるような感覚がした。しばらく雑談につきあわされているうちに、強烈な眠気が襲ってきた。
「どうしたの? あなた、やっぱり疲れているのよ。ゆっくり休みなさい」
なに、これ、絶対、おかしい。
そう思いながらも、全身の力が抜けていき、麻百合は崩れ落ちた。
「そのまま、永遠に眠ってしまいなさい」
気がつけば、閉じ込められた箱のような場所で麻百合はもがいていた。
どうしてこうなったのか、わからない。何度となく壁を叩き、必死に声を出そうとするけれど、声にならない。
そのうち、壁がどんどん迫ってきた。このままでは押し潰されてしまう。
怖い。誰か、助けて。
あんなに死にたいと思っていたのに、いざ死を目の前にすると、無様でも生きようとする。
そのとき、ふと脳裏にある人物が浮かんだ。みっともなく溢れ出した涙を拭うこともせず、麻百合はすぐさま叫んだ。
助けてよ、柳!?
「……り、しっ……しろ、……ゆ、り!?」
誰かに強く抱きしめられたような気がした。その後、ふわりと抱き上げられる。こんなことが前にもあった気がするのに、よく思い出せない。
そうこうするうちに、車の音がして心地良い揺れが伝わってきた。自分はどこにいて、何をしているのだろう。
「もう少しだけ、我慢しろよ」
これは夢だろうか、柳の声が聞こえる。髪を撫でる手が彼のものであるかのように。やがて記憶が蘇る。
(まあ、その格好で歩けばそうなるか)
浅田家の裏山に間違って入り込み、動けなくなった麻百合を抱き上げたこと。
(あんた、笑えるじゃん)
そう言って、初めて笑顔を見せたこと。
(本当に自意識過剰だよな、麻百合は)
無防備な笑顔を見せられるうちに、胸がときめくようになっていたこと。
(帰れって、言ってんだろ)
体を震わせながら涙を流し、麻百合の唇に触れたこと。
そっか、私、好きになってたんだ、あいつのこと。
自覚した途端、涙が溢れた。誰も好きにならないと誓ったはずなのに、よりよって、花梨の恋人である柳に惹かれていたなんて。
「レイ、麻百合が泣いてる。もっとスピード上げろ!」
「うるせえ。泣かしてんのはてめえだろうが」
ごめんね、花梨、私、嘘ついてた。
溢れ出る涙を拭うことも出来ず、麻百合は深い眠りへと誘われていった。
「あなた、今夜は自分の部屋で休みなさい」
その日も夜を迎えた頃、和子がコーヒーを持って部屋に現れた。
「ずっと泊まり込んでいるようだし、私がみてあげるわ」
笑ってはいるが、その言葉が信用出来るとは思えなかった。
「お気持ちは有り難いのですが、花梨の側にいてあげたいので」
「そう。まあいいわ、好きにしなさい。これは私からの差し入れよ」
今すぐ飲めと言わんばかりに手渡されたコーヒーカップ。そんな気分ではなかったけれど、飲まないと出て行ってもらえそうになかったので、麻百合は少し飲むことにした。疲れているからなのか、舌が痺れるような感覚がした。しばらく雑談につきあわされているうちに、強烈な眠気が襲ってきた。
「どうしたの? あなた、やっぱり疲れているのよ。ゆっくり休みなさい」
なに、これ、絶対、おかしい。
そう思いながらも、全身の力が抜けていき、麻百合は崩れ落ちた。
「そのまま、永遠に眠ってしまいなさい」
気がつけば、閉じ込められた箱のような場所で麻百合はもがいていた。
どうしてこうなったのか、わからない。何度となく壁を叩き、必死に声を出そうとするけれど、声にならない。
そのうち、壁がどんどん迫ってきた。このままでは押し潰されてしまう。
怖い。誰か、助けて。
あんなに死にたいと思っていたのに、いざ死を目の前にすると、無様でも生きようとする。
そのとき、ふと脳裏にある人物が浮かんだ。みっともなく溢れ出した涙を拭うこともせず、麻百合はすぐさま叫んだ。
助けてよ、柳!?
「……り、しっ……しろ、……ゆ、り!?」
誰かに強く抱きしめられたような気がした。その後、ふわりと抱き上げられる。こんなことが前にもあった気がするのに、よく思い出せない。
そうこうするうちに、車の音がして心地良い揺れが伝わってきた。自分はどこにいて、何をしているのだろう。
「もう少しだけ、我慢しろよ」
これは夢だろうか、柳の声が聞こえる。髪を撫でる手が彼のものであるかのように。やがて記憶が蘇る。
(まあ、その格好で歩けばそうなるか)
浅田家の裏山に間違って入り込み、動けなくなった麻百合を抱き上げたこと。
(あんた、笑えるじゃん)
そう言って、初めて笑顔を見せたこと。
(本当に自意識過剰だよな、麻百合は)
無防備な笑顔を見せられるうちに、胸がときめくようになっていたこと。
(帰れって、言ってんだろ)
体を震わせながら涙を流し、麻百合の唇に触れたこと。
そっか、私、好きになってたんだ、あいつのこと。
自覚した途端、涙が溢れた。誰も好きにならないと誓ったはずなのに、よりよって、花梨の恋人である柳に惹かれていたなんて。
「レイ、麻百合が泣いてる。もっとスピード上げろ!」
「うるせえ。泣かしてんのはてめえだろうが」
ごめんね、花梨、私、嘘ついてた。
溢れ出る涙を拭うことも出来ず、麻百合は深い眠りへと誘われていった。
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