【AI小説】VRMMOでボクのトロッコスキルは問題があるスキルでした。

鳥山正人

文字の大きさ
5 / 10

5話

しおりを挟む
 旧鉱山が閉山されてから、ボクの足は新しい採掘場のルートを覚え始めていた。

(結局、エナジーチャージの値段どうしたらいいのかわかんないな。とりあえず鉱石採取しながら考えよう)

 たどり着いたのはミルド岩層。街から少し離れた段丘地帯に、階段状に掘られた採掘ポイントが並んでいる場所だ。遠くからでも、ツルハシの音と人の声が重なっているのがわかる。

「……人、多いな」

 段丘の縁に立った瞬間、思わずため息が出た。

 岩場のあちこちに、プレイヤーがびっしり張り付いている。ひとつの岩を二人、三人で殴っていたり、復活待ちのポイントの前で順番待ちまでしていたりする。

「ロコット、足踏まれるなよ」

「ワン」

 ロコットは返事をしながら、ボクのぴったり横についた。旧鉱山のときみたいに、自由に走り回れる空間じゃない。人の間を縫うように歩きながら、ボクはあの静かな廃鉱山を少しだけ恋しく思う。

(クズ鉱石しか出なかったけど、あそこはあそこで良かったんだよな)

 空いていて、ロコットと並んでゆっくりツルハシを振れた。誰にも邪魔されない、散歩の延長みたいな場所だった。

 今のミルド岩層は、どう見てもスローライフとは程遠い。採掘ポイントの前に立って、タイミングを見計らってツルハシを振るう。ほんの少しでも遅れれば、さっきまで空いていた岩もすぐに誰かに占領される。

「……やりづらいな」

 空いている端のほうの岩を見つけて、ツルハシを構える。ロコットは岩とボクの顔を交互に見て、なんとなく様子をうかがっている。

 カン、と一撃。岩の耐久力ゲージが、ほんの少しだけ減る。もう一撃、もう一撃。やっと砕けたと思ったら、出てきたのは見慣れたクズ鉱石だった。

(やっぱり、効率はそんなによくないか)

 そんなことを考えていると、少し離れた場所からひそひそ声が聞こえてくる。

「そういえばさ、旧鉱山の閉山最終日の話、聞いた?」

「オクトパスブルーが採れたってやつだろ」

 ボクの手が、ほんのわずかに止まる。

「誰も行かないから閉山したはずなのにさ、最終日のログに“採取”の記録があったらしいぞ」

「誰が掘ったかはわからないってやつな。オーナーも閉山して権限なくなったから、ログ追えなかったって」

「だからさ、“オクトパスブルーが採れた事実だけが本当”って噂だけ広まってる」

「いいよなぁ、その正体不明のラッキー野郎」

 ボクはツルハシをもう一度振り下ろした。岩が少しだけ欠け、粉が足元に散る。

(……あれって、本当にそんな貴重だったのか)

 手元のスマホの中には、あの日入手したオクトパスブルーの文字が今も光っている。

(まあ、もう使ってトレード不可だし、気にする必要もないか)

 ボクにとっては、ロコットが導いてくれた道標みたいなものだ。

「よし、もう少し掘るか」

 ツルハシを握り直し、別の岩に移動しようとしたとき、ふと思いついてスマホ型デバイスを開いた。アイテム欄には、昨日までに作ったエナジーチャージがぎっしり詰まっている。

 青いカプセル。説明にはこうある。

『武器に魔力を一撃分だけ付与し、物理攻撃・魔法攻撃の威力を上昇させる消耗アイテムです』

(攻撃の威力を上げる、か)

 ボクはツルハシを握り直し、画面と交互に見比べる。

(昔やってたゲームでも、こういうアイテムはあったよな。剣に使うのが普通で、たまにネタでツルハシに使ってる人がいたっけ)

 ネタ扱い。チャット欄で笑われていたプレイヤーの名前だけ、ぼんやりと記憶に残っている。

(でも、このゲームはどうなんだろう。ツルハシも“武器”扱いだよな)

 ステータス欄に表示されているツルハシのカテゴリには、たしかに「採掘道具/鈍器」と書かれていた。

「ロコット、ちょっと試してみるか」

「ワン?」

 ボクはエナジーチャージのアイコンをタップし、「使用対象:採掘用ツルハシ」を選ぶ。次の瞬間、手元のツルハシの先端がふわりと青く光った。

 金属の表面に薄い魔力の膜が張り付いたみたいに、光がじわじわと広がっていく。ロコットが目を丸くして、その光を追いかけるように頭を動かした。

「さて、どうなるかな」

 試しに、近くの岩に向かってツルハシを振り下ろす。カン、と響いた音はさっきと同じはずなのに、手に伝わる感触は明らかに違う。硬い壁に当たっていたはずの手応えが、妙に柔らかく感じる。

 岩の耐久ゲージが、一撃で半分以上も削れていた。

「おお……」

 もう一度、力を込めて振るう。今度は、岩があっさりと砕け散った。中から、クズ鉱石と一緒に、少し質の良さそうな鉱石が二つ転がり出る。

[ミルドアイアン鉱石を入手しました]

「出たな、やっと」

 ボクは拾い上げた鉱石をスマホで確認しながら、思わず笑ってしまった。ロコットは砕けた岩の欠片をクンクンと嗅ぎ、尻尾を大きく振っている。

「ツルハシにエナジーチャージ、ありだな」

 再びエナジーチャージを使用する。青い光がツルハシの縁をなぞり、採掘ダメージが一時的に上がる。画面の隅に、淡いアイコンが表示された。

 今度は別の岩を殴る。一撃。砕ける。次の岩へ。一撃。砕ける。さっきまでのちまちました作業が嘘みたいに、テンポよく岩が壊れていく。

(これは気持ちいいな)

 ミルド岩層の喧噪が、少しだけ遠くなる。目の前の岩とツルハシの感触、それからロコットの足音だけに意識が集中していく。

「ロコット、どうだ。これでまた、前みたいにサクサク掘れるぞ」

「ワンッ」

 嬉しそうに吠えたロコットは、砕けた岩の欠片を避けながらボクの横を走る。青く光るツルハシの軌跡と、茶色の尻尾の揺れが、妙にしっくりと並んでいた。

 しばらく夢中で掘っていると、隣の岩場から視線を感じた。ちらりと見ると、近くのプレイヤーがボクのツルハシをじっと見つめている。

 その視線の意味を考える前に、ボクはもう一つ岩を砕いた。ミルドアイアン鉱石がコロンと転がり出る。

 隣のプレイヤーが、小声でつぶやいた。

「なぁ……あれって、エナジーチャージだよな」

「だよな。青いエフェクト、完全にそうだろ」

「でもさ……なんで採掘で使ってんの?」

 もう一人が呆れたような声を出す。

「採掘に使うバカはいないだろ。エナジーチャージより鉱石のほうが安いんだから」

「だよな。普通、狩りで使うか、売るかだろ」

「売れば儲かるのに……アイツ、何も知らない初心者なんじゃね」

「初心者って怖いよな。原価計算とかしないで突っ込めるの、ある意味才能だわ」

 笑いを含んだ声が、岩の影で小さく弾ける。

 ボクの耳にも届いてはいたけれど、内容を細かく追うほどの余裕はなかった。目の前の岩が、一撃で砕けるその感触のほうが、今はずっと大事だった。

(たしかに、鉱石のほうが安いのかもしれないけどな)

 ボクはツルハシを軽く振って、青い光の残滓を眺める。

(でも、ボクはMPを気にせず作れるし、倉庫のクズ鉱石は山ほどある。だったら、ここで使って何が悪いんだろう)

 ロコットが足元に寄ってきて、鼻先でボクの手をつついた。褒めてほしい子どもみたいな仕草に笑ってしまう。

「大丈夫だよ、ロコット。ボクたちはボクたちのペースでやればいい」

「ワン」

 ツルハシを構え直し、もう一度、一番近い岩に向けて振り下ろす。カン、と澄んだ音がして、岩が素直に砕け落ちる。

 周囲のプレイヤーが何を思おうと、何を言おうと、関係ない。ボクはロコットと一緒に、気持ちよくツルハシを振れる場所を探して、そのための工夫をしているだけだ。

 画面の隅では、エナジーチャージの残り個数がゆっくり減っていく。でも、倉庫にはまだまだ予備がある。作ろうと思えば、いくらでも作れる。

(売って大儲けするより、こうやって使ってしまうほうが、ボクには合ってる)

 そう思うと、心の中のざわつきがすっと収まっていく。

 ミルド岩層の喧噪の中で、ボクとロコットだけが別のリズムで動いているみたいだった。青く光るツルハシが岩を砕き、鉱石が足元に転がる。そのたびにロコットが小さく吠える。

 いずれ、この選択がどこかで波紋を生むのかもしれない。経済とか、相場とか、そういうものに影響が出るのかもしれない。

 けれど今はただ、目の前の岩と、隣にいるロコットと、青い火花の具合がちょうどいい。それだけで十分だった。

 ボクはまたひとつ岩を砕き、ロコットの頭を軽く撫でた。  
 青いバカと呼ばれても構わないと思えるくらいには、この世界でのスローライフが、少しずつ形になってきている気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~

eringi
ファンタジー
「たかが雑草を抜くだけのスキルなんて、勇者パーティには不要だ!」 王立アカデミーを首席で卒業したものの、発現したスキルが『草むしり』だった少年・ノエル。 彼は幼馴染の勇者に見下され、パーティから追放されてしまう。 失意のノエルは、人里離れた「魔の森」で静かに暮らすことを決意する。 しかし彼は知らなかった。彼のスキル『草むしり』は、対象を「不要な雑草」と認識すれば、たとえドラゴンであろうと古代兵器であろうと、根こそぎ引っこ抜いて消滅させる即死チートだったのだ。 「あれ? この森の雑草、ずいぶん頑丈だな(ドラゴンを引っこ抜きながら)」 ノエルが庭の手入れをするだけで、Sランク魔物が次々と「除草」され、やがて森は伝説の聖域へと生まれ変わっていく。 その実力に惹かれ、森の精霊(美女)や、亡国の女騎士、魔王の娘までもが彼の「庭」に集まり、いつしかハーレム状態に。 一方、ノエルを追放した勇者たちは、ダンジョンの茨や毒草の処理ができずに進行不能となり、さらにはノエルが密かに「除草」していた強力な魔物たちに囲まれ、絶望の淵に立たされていた。 「ノエル! 戻ってきてくれ!」 「いや、いま家庭菜園が忙しいんで」 これは、ただ庭いじりをしているだけの少年が、無自覚に世界最強に至る物語。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

転生辺境の雑用兵、知らぬ間に世界最強になっていた件 〜追放されたけど美女たちに囲まれて安寧生活〜

eringi
ファンタジー
辺境軍の雑用兵として転生した青年・レオン。異世界に転生したのに、剣も魔法も地味でパッとしない日々。ところが彼の“地味な努力”が、実は世界の理をゆるがすほどの能力だと気づく者が次々と現れる。貴族令嬢、魔族の姫、神官少女──気づけばハーレム状態に。追放された元仲間が破滅していく流れの中、本人だけは「俺、そんな強いかな?」と首をかしげる。無自覚最強×ざまぁ×追放後スローライフ×英雄伝説が交錯する、異世界逆転ストーリー。

処理中です...