剣と銃がついたデカイ武器を振り回す女の子は好きですか！？

30話：横浜衛士防衛戦①

　デストロイヤー襲来を受けて真昼の周りは慌ただしくなる。

「衛士の皆さん、横浜衛士訓練校に戻ります！　トラックに乗ってください！」

　防衛隊に誘導されてそれぞれトラックに乗り込む。

「真昼さん、貴方はこちらに」

　真昼は別のコンテナ車に案内される。その中には新型Ｂ型兵装とパワーアシストアタッチメントUCタイプが積み込まれていた。当然、シールド戦術機も存在している。
　車が動き出す。
　真昼はパワーアシストアタッチメントを装備すると、新型Ｂ型兵装を左手に装着する。そしてストライクイーグルを右手に持つ。視界に立体映像が表示されて新型Ｂ型兵装の説明が書かれている。


「B型兵装の説明は……超超攻撃特化」

　Ｂ型兵装は戦術機に過剰に魔力を流し込んでオーバーヒートさせ、通常では考えられない攻撃力を実現させる戦術機だ。リングカートリッジシステムを採用しており、指輪（リング）に魔力を貯めておき、それを戦闘中に魔力クリスタルに流し込んで使用する。そのための魔力クリスタルコアに取り付ける装置のことをTYPE・BUSTER……俗にB型兵装。

「防御を捨て去り攻撃にすべての魔力を割くため、ラージ級でも一撃で屠るほどの攻撃力を誇るが、敵の攻撃が当たれば一撃で戦闘不能に陥り、またオーバーヒート後にリブートの時間が必要なため、この時間も無防備となる。運用には注意が必要……被弾すれば即死……上等！」

　「デュエル年代」が標準で使っていたが、あまりにも被害が大きいため現在では禁忌指定を受けている。 B型兵装をレギオンで運用するには、戦場で強制再起動を行うことが現実的な手段のため、再起動手順を知っているアーセナルが隊内に必須となる。
　車が停止する。窓から見る限り横浜衛士訓練校はまだ遠い。

「何があったんですか？」
「防御結界がビームを弾いたときに、余波で道が溶けて無くなっているんです」

　真昼はコンテナ車から出ると先頭に出る。そこは地面がごっそり抉れて車での移動は不可能だった。
　他の面々も車から下車して様子を見にくる。

「これは酷いですわね」
「こ、こんな火力じゃあ横浜衛士訓練校が蒸発しちゃいますよ！？」
「第二射が来るぞ！！」

　ギガント級デストロイヤーから光が放たれた。それは再び横浜衛士訓練校を襲う。防御結界は粉々に砕け散る。しかし複数の衛士がヘリオスフィアなどのスキルを全力発動して威力を減衰させる。
　アールヴヘイムの面々が全力で攻撃を繰り出して減衰したビームを相殺する。

「何だあのデストロイヤー」
「魔力を直接攻撃に使ってる」
「そんなことをしたらあっという間に魔力がなくなっちゃうのに……」

　結梨が呟く。

「あれがデストロイヤー？」
「そう。それも極めて強力な」
「デストロイヤーは魔力に操られることはあっても自ら魔力を操ることはないはず」
「なら、あのデストロイヤーやっつければ、みんなから衛士だって認めてもらえるんだね」
「そうなるけど」
「なら、やらなくちゃね。結梨は人間だって証明する為に！！」

　結梨は海に飛び出すと駆け出した。

「あれ縮地だ！　梅のスキル」
「結梨ちゃん、海の上を走ってます！」
「見りゃ分かるけど……梅だってそんなのしたことないぞ！」
「フェイズトランセンデンス……わしの技を組み合わせたのじゃ」
「それってデュアルスキル！？　スキルを2つ持っているなんて！」
「じゃがすぐに魔力を使い果たして終わりじゃぞ！」

　真昼も駆け出していた。ラプラスを発動する。複数のシールド戦術機を展開させながら、それに乗って空中を移動する。背後からシノアの声がする。

「真昼お姉様！！」
「何！？」
「結梨をお願いします！！」
「任せて！　生きてデストロイヤーも倒して必ず連れて帰ってくるよ！」

　シールド戦術機による高速飛行で結梨に追いつき、シールド戦術機の一部を結梨の周りに展開させる。
　デストロイヤーによる迎撃をそれで防ぐのだ。デストロイヤーは弾幕を張って接近を阻止しようとしている。
　真昼は結梨と並走しながら語りかける。

「私が攻撃を防ぐ！　結梨ちゃんはこれでトドメを刺して！」

　真昼は装着していた新型Ｂ型兵装を投げ渡す。
　真昼の目から血が流れる。精神直結型のシールド戦術機は使用するだけで負荷がかかるのだ。真昼は薬を取り出し首に注射する。それでフィードバックを抑えるのだ。だが、もちろんこの薬にも副作用がある。乱用して良いものではない。
　沿岸部で観察していた二水は言う。

「何か変です！　デストロイヤーの魔力とネストの魔力が呼び合って……まるでネストの魔力を吸い取っているみたいな！」
「ネストから魔力を供給されているのだとしたら……無尽蔵に魔力を使えるということだけど……まさか……そんな事が」

　真昼はストライクイーグルをシューティングモードに切り替えて、デストロイヤーの周りにある子機を撃ち落とす。結梨は飛び上がり、紫のストライクイーグルで子機を切り裂いていく。
　デストロイヤーからレーザーが放たれて真昼の脇腹を貫通する。しかし歯を食いしばって痛みを押し殺して戦い続ける。いつも人にやらせていることだ。

　自分ができなくてどうすると言うのだ。
　この戦いは横浜衛士訓練校の全生徒の命がかかっている。負けるわけにはいかない。
　全ての子機が破壊されて、本体の大型砲台デストロイヤーが無防備になる。

「今だ！！」
「私は人間だ！！　デストロイヤーから生まれたかもしれない！　だけど人間であることを選んだんだ！　衛士であることを選んだんだ！　だから、消えてええええ！！」

　結梨は莫大な魔力がチャージされた新型Ｂ型兵装のトリガーを引き絞る。結梨の魔力も合わさって強烈な閃光を発しながら魔力の奔流が炸裂する。それは大型砲台デストロイヤーを真っ二つに切り裂き、大爆発を引き起こした。
　凄まじい光と高温が真昼と結梨を襲う。シールド戦術機を壁にして軽減する。その中に結梨を引き込もうと手を伸ばす。

「結梨ちゃん！！」
「真昼！！」

　お互いに手を伸ばして、しかしその手は離れていく。真昼は自らが傷つくのを顧みず、腕を伸ばして結梨の手を掴んだ。そして自分の方向へ引き寄せて抱き締める。
　そして光は全てを巻き込んで熱と風を巻き起こして吹き飛ばした。
　真昼はコンクリートに叩きつけられたような衝撃を受けながら、自分がまだ海にいる事に気づいた。
　一瞬意識が飛んでいた。
　結梨の手は掴んでいる。体に打ちつけられる波に争いながら陸に向かって泳いでいく。戦術機を手放し、重いパワーアシストアタッチメントも外す。シールド戦術機を操作する気力もない。制御を失ったシールド戦術機は落下する。

　何分、何時間泳いだか覚えていない。だが、砂浜には衛士達が集まり、今まさに捜索出ようとしているところだった。

「あと、あと少しだからね結梨ちゃん」

　結梨からの返事はない。意識を失っているようで力なく真昼に引かれるままになっている。

「結梨ちゃん、私ね、結梨ちゃんの事を人間として見てなかったの」

　泳ぐ。

「デストロイヤー細胞から作り出された実験体って思ってた」

　泳ぐ。

「好き嫌いとかじゃなくて、感情を傾けるのを嫌がっていた。だって、まるで本当に人間だったんだもん。見た目はもちろん、思考が本当に人間だった。感情移入して無用な罪悪感を抱くのが嫌だった」

　泳ぐ。

「さっき言ってたよね。こうやって生まれてきたわけじゃないのにって。悩んでたのよね。その時思ったんだ。結梨ちゃんは当たり前みたいに自分のことで悩む存在なんだって」

　泳ぐ。

「結梨ちゃんを研究する事で人類を進化させると確信している。研究はするべきって意見は変わらない。だけど、やっぱり私は結梨ちゃんが酷い目に合うのは嫌だなって思うようになったの」

　泳ぐ。

「だから守ってあげる。居場所を作ってあげる。安心して暮らせるように頑張ってみるよ。実験はすることになるだろうけど、酷いものは拒否できるように取引する。私は幸運のクローバーって呼ばれるくらい凄い衛士で絶望的な戦況を何度もひっくり返した英雄の衛士なんだよ。凄いでしょ。だから結梨ちゃんのこともなんとかできるよ。だって私は世界が誇る衛士なんだから」

　砂浜に着いた。
　レギオンメンバーが駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか！　お姉様！」
「うん、大丈夫。約束通り、デストロイヤーを倒して、結梨も連れて帰ってきたよ」

　真昼は誇らしげに手を掲げる。結梨の腕もそれにつられて持ち上がる。
　すると、シノアは痛ましそうな顔で梨璃を抱きしめた。
　愛花が言い辛そうに、しかし残酷な現実を突きつける。

「真昼様。それは結梨ちゃんではありません。それは結梨ちゃんの腕です」

　そう言われて、梨璃は自分の掴んでいる物体に目を向ける。そこには細い腕があった。しかし肩から先が無かった。ぶらん、と腕だけが真昼に吊るされて宙に浮いている。

「ああ、あああっ」
「真昼お姉様は頑張りました。あのギガント級デストロイヤーを倒してくれました。ありがとうございます。多くの命が救われました。みんな貴方に感謝しています」
「や、約束。約束したのに！　生きて！　連れて帰ってくるって！！」
「あんな見たことないデストロイヤー相手に二人で挑んで撃破できただけでも奇跡です。真昼お姉様が生きていて良かった」
「必死にやったんだよ？　その結果がこれなんだよ！！　何が幸運のクローバーだ！　役立たず！　私の役立たず！」
「貴方は最善を貫き通しました。がんばりました。それはみんな認めています。落ち着いてください。大丈夫、大丈夫ですから」
「あああっ！！」
「真昼、落ち着け！」
「あああっ！！　ああああ！！」
「真昼！？　錯乱している！！　治療が必要だ！　傷が深い！！　強引にでも病院へ輸送しろ！！」

　その日、人間であろうとした命は儚くも消え去り、残された腕は貴重なサンプルとしてGE.HE.NA.が回収して研究施設へ輸送された。