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32話:横浜衛士防衛戦③

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 横浜衛士訓練校周辺は飛来したデストロイヤーによって魔力の不活性化フィールドが展開されており、衛士の活動能力を著しく減少させていた。戦術機を起動させる事すらできない。

 飛来したデストロイヤー。
 仮称・特型ギガント級。
 長く突き出た九つの分厚い瞳。
 左右それぞれ50以上の小型衝角触腕(最大伸長約1200m)を収める前部副節。後部に中型衝角触腕(最大伸長約1000m)
 中央の主体節下部に大型衝角触腕(最大伸長約800m)を持つ。
 レーザーを発射する目を防護する保護皮膜も完備しているようである。
 主体節には魔力エネルギー生成ができる準ネスト器官が仕込まれており、青白く輝いている。
 魔力の不活性化フィールドは黒い波動して流れ出しており、空は暗黒に包まれていた。

 その中で真昼の魔力クリスタルと特型ギガント級のみが光を発している。

 仲間はいない。
 支援もない。
 物資もない。
 あるのは、この一振りの戦術機だけ。
 死んだお姉様の唯一の遺品だ。

『真昼、一人では勝てないよ。仲間を頼るんだ』
「でも、どうやって? この魔力不活性化フィールドで他の衛士は力を使えません」
『ラプラスは不可能を可能にする力だよ。不活性化させるなら、活性化させてやれば良い。それはボクがやる。真昼は仲間が助けてくれるまで生き残るんだ』
「助けてくれるでしょうか?」
『大丈夫。君のやってきたことを見てくれている人達は必ずいる。それに、衛士はどんな内部抗争があろうとデストロイヤー襲来の際には常に、常に一つだ』
「わかりました、一ノ瀬真昼! 仲間を信じて生き残ります!!」
『ラプラス』
「起動!」
『さぁ、箱の鍵を開ける時だ』

 その時、真昼から不思議なことが起こった。
 真昼の背中から、光り輝く翼が生えた。そして真昼の胸に光が収束していく。

「そこのデストロイヤー! 私は横浜衛士訓練校の幸運のクローバー! 一ノ瀬真昼! 貴方を倒す衛士だ!」

 真昼は特型デストロイヤーに向かって突撃を開始した。
 衛士の背中に翼のような輝きが現れることがある。これは魔力の保有量が非常に多く適正数値も高い衛士に特有の現象である。
 今真昼は自分と時雨二人分の魔力を使用している。
 いわばラプラス使用者二人による共鳴相乗完全覚醒だ。

 それは魔力を暖かな光に変えて周囲に放出する。魔力の不活性化フィールドと魔力の活性化フィールドが衝突して黒と桃色の光がぶつかり合う。そしてそれは横浜衛士訓練校から避難していた衛士達にも届く。
 エミーリアが光の波動を感じて叫ぶ。

「何なんじゃありゃ!」
「誰が戦ってる?」
「真昼さんです! 光の翼を生やして!」

 愛花が二水の顔を両手で挟んで目を覗き込む。

「二水スキル使ってらっしゃる?」
「あれ?そういえば使えてます!」
「魔力は使えないんじゃ……」
「動いた」

 胡蝶は戦術機に魔力を入力すると変形してシューティングモードに変形した。

「マギスフィア戦術、してみませんか?」
「真昼様の分はどうする? そもそもマギスフィア戦術している間、真昼様が一人で持つのか!?」
「そういえばシノアどうしたんだ?」
「え?」

 真昼は依然特型ギガント級デストロイヤーと死闘を繰り広げていた。絶え間ないビーム攻撃を避けながら、触角による鞭のようにしなる攻撃を躱す。そして隙を見て弾丸を打ち込み、斬撃を加えていく。

 大型のデストロイヤーを倒すにあたって鉄板なのは機動力を奪うことだ。つまり脚部を狙い、地面に叩き落として固定させる。しかし分厚い六本の足を地面に突き刺して体を固定して、20メートルの壁と見間違う大型触角と小型触角でからそうとしてくる相手にその戦略は不可能だった。

 触角の先からは溶解液を噴射してくるので、それを避けるのにも気を使う。一度、初見でその技を放たれて、左手が爛れてしまっている。だが痛みはない。恐らく、前は真昼を持ち帰った時に神経が焼かれたまま再生治療を受けて痛覚が死んでいたのだ。

「つ、強い」

 休憩する隙がない。常に極太レーザービームと小型触角と極太触角が攻撃を続けてくる。戦術機が溶かされたら終わりだ。触手には溶解液が詰まっているので切断する事はできない。
 真昼はただ近づいて本体を切り付けるか、攻撃を避けるしかできる事はなかった。
 小型触角が真昼の左手に突き刺さる。そのまま地面に叩きつけられて、大型触角が叩きつけられそうになる。潰される。

「しまっ」

 ドン! と真昼の左手が吹き飛ばされ、更に右手を掴まれて大型触角の範囲から脱出する。
 真昼は見上げるとそこには黒い髪を靡かせて真昼の使っていたのと同じストライクイーグルを握るシノアの姿があった。

「左手、ごめんなさい」
「いや、いいよ。もう駄目になってたし。助けてくれてありがとう」
「ここにくる途中に先輩型に横浜衛士訓練校全員でのマギスフィア戦術を提案してきました。それまで耐えてください」
「わかった。ありがとう。シノアちゃんは戻って。ここは私が」
「いえ、私を使ってください。アサルトバーサーカークで暴走します。それを真昼様のラプラスで操ってください」

 その提案は真昼にとって嫌なものだった。
 時雨の死を呼び起こす。

「時雨様は最後、ラプラスで支配されて特攻して死んだのは知っています。だけど今は状況が違います。逃げる為じゃない。勝って生き残るためにやるんです」
「……!」
「自己犠牲なんかじゃない。笑う為に戦っているんです! またみんなで葉風さんをコスプレさせるんです! 生きてて良かったって思うんです! だから強くなるんです! だから戦うんです! そこに真昼様がいなかったら意味がないんです! 私を使ってください! 勝って、また笑う為に!」
「……わかった、ありがとう」
「では行きます。アサルトバーサーク」

 シノアの髪が白く染まる。目は赤く発行して正気を失う。真昼はラプラスで支配して動きを制御する。通常は細かない制御はできない。しかし両者の合意の上、更に時雨の遺品であるラプラスの力、そして真昼本来のラプラスの力、二つのラプラスによって強化された支配能力は真昼とシノアの能力を飛躍的に向上させていた。

「まだ、いくよ!」

 真昼とシノアは特型ギガント級デストロイヤーに向かって飛びかかった。
 残された衛士達は急いで配置についていた。全生徒によるマギスフィア戦術は初めて実行される行為だ。
 しかもぶっつけ本番。

「真昼とシノアの分は」
「お二人なら戦ってます!」
「ならそこへ私達が魔力スフィアを届ければ!」

 光が打ち出される。それも一つだけではない。無数の光が各地で交差して輝いてある。魔力スフィアの輝きだ。

「皆さんも考えることは同じですわね!」
「わわわ! 横浜衛士訓練校全員での魔力スフィア戦術!!」
「魔力スフィア戦術ならぬマ魔力スフィア弾幕ですね」
「さぁ! 梅達もやるぞ!」
「はい!」

 真昼は戦っている中で、周囲で魔力スフィア戦術が始まっているのを確認していた。それも全部、シノアが上級生に提案してくれたから始まったことだ。
 私は姉妹誓約の姉らしいことは何もできていないのに、シノアは献身的に尽くしてくれる。馬鹿な子だ。私なんかのどこがそんなに良いのか。だけど、今はそれに感謝している。

 魔力スフィアが飛んでくる。それは九つある巨大な目玉をぶち抜いた。青い血が噴出する。次々に飛んでくる魔力スフィアが特型ギガント級デストロイヤーにダメージを与えていく。
 あれだけ苦戦した相手がボロボロになっていくのは爽快だった。
 目玉が、肩が、足が、腹が、触角が、破壊され、体液が噴出して、90メートル近い巨大が地面に倒れる。そして自分の体の中から溢れ出した溶解液で溶けていく。

 しかし特型ギガント級デストロイヤーもまだ抵抗している。レーザーと触手で破壊しようとしてくる。
 特型ギガント級デストロイヤーの弱点と思われる青く光るクリスタルを見つけた。真昼は慌てて近寄ってそれを破壊しようとする。足が溶解液で爛れるが気にしている暇はない。

「硬い! あと少しなのに!!」

 その時、特型デストロイヤーは悲鳴を上げた。甲高い音を響かせる。するとネストから再び何かが発射され、横浜衛士訓練校の沿岸部に着水した。それは大きな柱だった。そこからスモール級のデストロイヤーが大量に湧き出して戦域に侵入してくる。

「スモール級!? いくら雑魚のとは言え特型ギガント級デストロイヤーとの戦闘中にあれは!? この死に損ないが!」

 スモール級は雑魚だ。衛士とっては銃弾一発で撃破できる。しかしそれが万単位で攻めてくる上に、特型ギガント級デストロイヤーを倒さないといけないとなると状況は大きく変わってくる。他の衛士も超範囲ロング魔力スフィア戦術をする為の配置についており迎撃は困難だ。
 絶望。
 その言葉が過ぎった。
 その時だった。
 空を切り裂き、無数の光の弾幕がスモール級の群れを爆砕した。

『こちら横浜防衛隊、戦線に参戦ス。繰り返すこちら横浜防衛隊、戦線に参戦ス』
『アーマードコア部隊を投下! スモール級を戦域に近づかせるな!』
『真昼様! 一年前は富士山麓でお世話になりました! 今度はその借りを今返します!』
『こちら東京衛士訓練校! 横浜衛士訓練校の救援要請につき参戦します! 参ります!』
『同じく東京衛士訓練校、戦線に立ちます! 真昼様様の一年前の地獄の特訓のおかげで私も高城ちゃんも生きて進級できた! もう二度と衛士をやめろなんて言わせません!』
『クレスト社からの特別依頼だ! 人類の叡智の結晶を守り抜いた英雄と、娘を守って欲しいっていうね! 戦術機のカスタム代は全てタダ! 行くわよ!』

 空にはガンシップや輸送機、戦闘機が並びスモール級を迎撃すべく様々な戦力が結集している。次々に通信に入ってくる友軍信号はこれまでに真昼が最善を尽かした結果、生き延びてきた人々だった。

「はは、はははは!!」

 真昼は笑い出していた。
 その時に通信が入る。

『真昼様! 風間です! 今から最後の魔力スフィアをそちらへ向かわせますわ! 受け取ってくださいませ!』
「わかったよ! ありがとう風間ちゃん」

 魔力スフィアが遠くから飛んでくる。
 真昼は空中でそれをキャッチして、そしてその刃の矛先を青いクリスタルに向けた。

「これで! 終わりだ!!」

 光が爆ぜた。
 爆風が地表を舐め取り、全てを吹き飛ばす。
 特型ギガント級デストロイヤーは形状を固定できずにぐずぐずになって破裂した。
 真昼も爆風に煽られて地面を転がる。
 全身が悲鳴を上げていた。
 足も痛い。
 最後の力でシノアを操って安全な場所で眠らせる。

「やった、やったよ、時雨お姉様」
『おめでとう、真昼。これが君がやってきた果ての結末だ。今はゆっくりお休み。あとは僕がやっておくよ』
「はい、お姉様。お願い、します」

 真昼は意識を失い、眠りについた。
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