禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)

文字の大きさ
9 / 13

9 : 邂逅

しおりを挟む
「猊下?」

水面に浮いていると、見知った顔があった。
カルロだ。

自分の今のあられもない姿を思い出して、あわてて体を起こして、隠すように腕で自分を抱き締めた。

「大丈夫ですか!」

「え、ええ。もちろん」

水に濡れた服は、ぴったりと体に密着し、胸の勃起した飾りを主張する。

はりつめた下肢を隠すように、小川に体を沈めた。

「あの、そのような所にいては風邪をひいてしまいます」

カルロは頬を赤く染めて顔を背けた。

こんな乱れた姿をみられたことへの羞恥と恐怖があった。

「猊下、ひとまず川から出ましょう。お手を」

カルロは視線をそらしながら手をさしのばす。だが、その手をとることを躊躇ってしまう。

結局、自力で水からでると、カルロは聖騎士の白いマントを被せてくれた。

アメデアは何を言えばいいのかわからずに、立ち尽くしていた。

「……どうしてここに」

「猊下の様子が気になったので。それよりもお加減が悪そうですが、えっと、お手伝いをしましょうか」

きっとカルロは善意からその言葉をかけたはずだ。

しかし、アメデアは数歩後ずさった。

性的な目で見られ、怯えたのだ。

今までなかったわけではないが、すでに性的搾取の対象である年齢を越え、リュアオスに純潔を誓ったために、あからさまな視線を受けることはなかった。

この体をリュアオス以外に触れることを想像すると吐き気さえ感じる。

「いや、あの。そういうつもりじゃ」

カルロが口ごもりながら何かを言おうとしていたが、アメデアの耳には入ってこない。

「アメデア!」

ふと目の前が眩しく輝き、腕を引かれる。そのまま、抱き締められる。

聞きなれた声とその体温は顔を見なくてもわかる。

「リュアオスさま」

安心したのもつかの間、リュアオスはアメデアの口をふさいだ。唇をこじあけ、舌を入れる。

「ん……んんっ」

なんども角度をかえて、口腔を舌で蹂躙する。

呼吸の仕方も忘れ、すっかり腰もぬけた。アメデアはすがるようにリュアオスにしがみつく。

「おい、そこの」

リュアオスはアメデアを隠すように抱きしめながら、カルロを睨んだ。

「とっとと失せろ」

突如現れた男とキスをして抱きしめあっているアメデアを見て、動転していたカルロは我に返る。

「お、俺は猊下の護衛騎士です」

カルロは真っ直ぐに見つめ返して言った。

彼の心意気は素晴らしいが、今日は暇を出しており、護衛は断っていた。だから、今のカルロは独断で勝手についてきたただの男でしかないのだ。

「つかえる神に刃向かうのか」

リュアオスは冷ややかな瞳を向けた。

尋常ではない圧力がカルロにのしかかる。植物の蔦がカルロに襲いかかろうとしていた。

「リュアオスさまっ! だめです。お願いです。愚かな私が悪いのです。どうか彼の失言に対してお目こぼしを」

アメデアはリュアオスの服にすがりつく指を震わせながら懇願した。

そのどこか怯えたような姿に胸をいため、カルロへの攻撃意欲が削がれた。

「聖騎士カルロ、命令です。今見たことは忘れ、すぐにここから立ち去りなさい」

アメデアの命令にカルロはぐっと言葉をこらえて、一礼して走り去った。

カルロもなんとなく気づいていた。突如あらわれた者が人ならざるものであると。

あの時のアメデアの艶やかな姿と先程の水に濡れたアメデアの姿が重なり、醜く歪んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

司祭様!掘らせてください!!

ミクリ21
BL
司祭が信者に掘られる話。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

趣味で乳首開発をしたらなぜか同僚(男)が近づいてきました

ねこみ
BL
タイトルそのまんまです。

処理中です...