72 / 74
70:チェスの対戦相手
しおりを挟む
パルモス伯爵を無事に処理したという報告をきいて俺は重い肩の荷物をおろした。
プセアラン王国の介入も留意していたが、あちらの国はそれどころではないらしく、伯爵の刑は着実に実行へと向かっている。
俺は自国で、政務官を選抜して自らの体制を確立し、レティシアを迎え入れるための準備を万全に整えていた。
「ジュリアの刑罰が決まったようです」
ブラッドの報告に耳を傾けながら書類を処理する。
「王太子のはからいで死罪にはなりませんでしたが、最果ての監獄島への流刑が決定しました」
監獄島とは通称ではあるが、名が表す通りの島だ。各国の犯罪者の流刑地として有名な島は国際機関の管轄の孤島である。
「気にくわないが、仕方ない。彼女から全てを奪った女が何が目的だったのか聞き出さなければならない」
「またフーリエ王国に行くんですかぁー?」
「ティジを迎える最終手続きだのついでだ」
事が順調に運んでいるのに安心はできなかった。
かつて、まわりが洗脳されたかのようにレティシアへの憎悪にそまり彼女を悪とした光景を覚えているからだ。
今までのことを全てなかったことにできる力があるかもしれないと警戒するべきだ。
「この問題が片付けば、残っていた隊をフーリエから撤収させる」
「やっとですか。トニーにはたっぷり休みを与えてくださいね。もちろん私にも」
「国家の慶事になるのだから、それなりに恩賞を与えてやる」
レティシアとの結婚式の日取りは教会と最良の日を決めてすでにヨーセアン公爵らにも通達済みだ。
浮かれすぎて足元を救われたあの気持ちを二度と味わうことがないために、不安要素は完全に摘み取らなければならない。
チェス盤の駒はすべて無くしたはずなのに、顔も知らない対戦相手が俺を不安にさせた。
「バティ」
久しぶりに会うレティシアは少し痩せていて、これ以上軽くなったら俺の手をすり抜けて風に飛ばされてしまうのではないかと心配になる。
「会いたかったです、ティジ。こんなにやつれてしまって。もっとはやく迎えにこれたらよかったのに」
レティシアの小さな手を握ってその熱を確かめる。
彼女がいきている。それだけで自然と笑みをこぼして、少し涙ぐんでしまう。
「お兄さまとはたくさんお話もして、お友達ともお別れの挨拶はしたの。ちゃんとあなたの手をとる準備はしたの」
「ティジ!」
嬉しさのあまり思わず抱きつきそうになったが、ぐっとこらえてだらしなく笑うことにした。
だがこの嬉しさで忘れてはいけない。
「ティジ。実は、ジュリアと話がしたいと思っています」
「え……?」
レティシアは血の気のひいた顔で俺を見た。握っていた手の力は抜けて不安そうな顔をさせてしまった。
「誤解しないでください。彼女の背後関係や目的について知るべきだと思ったんです。かつての俺があなたを救えなかった時のように、皆が洗脳されたようにあなたを殺そうとした。あれだけは避けなければいけない」
「強制力……」
「そうです。あなたがそう呼ぶものが、まだ起きていない。彼女なら何か知っているかもしれないし、防ぐ方法だってわかるかもしれない」
「でも。もし、あなたが……」
レティシアの言葉の続きは容易に想像できる。
もし俺がその強制力とやらに縛られたら、彼女をみかぎるのだろうと。
そんなことはないと言いたいが、そう言ったところで彼女の不安はのぞかれない。
「一緒に行きましょう。あなたと俺の因縁のようなものでもある。それを彼女は知っているかもしれない。あなたと一緒ならきっと大丈夫です」
根拠もない自信だ。だが、実際に以前の俺はまわりが洗脳状態のようになっていても、変わらず彼女の騎士であった。
だから大丈夫。
この思いが全てから守ってくれるはずだから。
「……わかった。この手をはなさないでね」
「はい!」
頼まれたってもうこの手をはなしたりはしないのに。
プセアラン王国の介入も留意していたが、あちらの国はそれどころではないらしく、伯爵の刑は着実に実行へと向かっている。
俺は自国で、政務官を選抜して自らの体制を確立し、レティシアを迎え入れるための準備を万全に整えていた。
「ジュリアの刑罰が決まったようです」
ブラッドの報告に耳を傾けながら書類を処理する。
「王太子のはからいで死罪にはなりませんでしたが、最果ての監獄島への流刑が決定しました」
監獄島とは通称ではあるが、名が表す通りの島だ。各国の犯罪者の流刑地として有名な島は国際機関の管轄の孤島である。
「気にくわないが、仕方ない。彼女から全てを奪った女が何が目的だったのか聞き出さなければならない」
「またフーリエ王国に行くんですかぁー?」
「ティジを迎える最終手続きだのついでだ」
事が順調に運んでいるのに安心はできなかった。
かつて、まわりが洗脳されたかのようにレティシアへの憎悪にそまり彼女を悪とした光景を覚えているからだ。
今までのことを全てなかったことにできる力があるかもしれないと警戒するべきだ。
「この問題が片付けば、残っていた隊をフーリエから撤収させる」
「やっとですか。トニーにはたっぷり休みを与えてくださいね。もちろん私にも」
「国家の慶事になるのだから、それなりに恩賞を与えてやる」
レティシアとの結婚式の日取りは教会と最良の日を決めてすでにヨーセアン公爵らにも通達済みだ。
浮かれすぎて足元を救われたあの気持ちを二度と味わうことがないために、不安要素は完全に摘み取らなければならない。
チェス盤の駒はすべて無くしたはずなのに、顔も知らない対戦相手が俺を不安にさせた。
「バティ」
久しぶりに会うレティシアは少し痩せていて、これ以上軽くなったら俺の手をすり抜けて風に飛ばされてしまうのではないかと心配になる。
「会いたかったです、ティジ。こんなにやつれてしまって。もっとはやく迎えにこれたらよかったのに」
レティシアの小さな手を握ってその熱を確かめる。
彼女がいきている。それだけで自然と笑みをこぼして、少し涙ぐんでしまう。
「お兄さまとはたくさんお話もして、お友達ともお別れの挨拶はしたの。ちゃんとあなたの手をとる準備はしたの」
「ティジ!」
嬉しさのあまり思わず抱きつきそうになったが、ぐっとこらえてだらしなく笑うことにした。
だがこの嬉しさで忘れてはいけない。
「ティジ。実は、ジュリアと話がしたいと思っています」
「え……?」
レティシアは血の気のひいた顔で俺を見た。握っていた手の力は抜けて不安そうな顔をさせてしまった。
「誤解しないでください。彼女の背後関係や目的について知るべきだと思ったんです。かつての俺があなたを救えなかった時のように、皆が洗脳されたようにあなたを殺そうとした。あれだけは避けなければいけない」
「強制力……」
「そうです。あなたがそう呼ぶものが、まだ起きていない。彼女なら何か知っているかもしれないし、防ぐ方法だってわかるかもしれない」
「でも。もし、あなたが……」
レティシアの言葉の続きは容易に想像できる。
もし俺がその強制力とやらに縛られたら、彼女をみかぎるのだろうと。
そんなことはないと言いたいが、そう言ったところで彼女の不安はのぞかれない。
「一緒に行きましょう。あなたと俺の因縁のようなものでもある。それを彼女は知っているかもしれない。あなたと一緒ならきっと大丈夫です」
根拠もない自信だ。だが、実際に以前の俺はまわりが洗脳状態のようになっていても、変わらず彼女の騎士であった。
だから大丈夫。
この思いが全てから守ってくれるはずだから。
「……わかった。この手をはなさないでね」
「はい!」
頼まれたってもうこの手をはなしたりはしないのに。
応援ありがとうございます!
21
お気に入りに追加
60
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる