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28:フリートヘルムの死
王は磁器の焼成を成功させたアヒムらに、染付の複製を命じた。
アヒムはそれ以来、工房にあらわれることは滅多になく、王命のために研究を主導するのはヨーゼフとなっていた。
あまり賢くないジークもわかっていた。王はそう簡単にアヒムを手放しはしないということを。
白い黄金とまで呼ばれる磁器生産の利益を独占するためにも、機密を漏らさないようにと、幽閉されていないジークやフリートヘルムまで監視がついている。磁器製造の要であるアヒムを手放すわけがなかった。
厳重な注意のもと、王は王立ラニス磁器工場を設立し、そこに磁器製造の独占権を与えた。染付複製のために工場でできるいくつかの磁器が工房にあげられた。
しかし、アヒムにはそんなことは関係がなかった。王の磁器製造以外でのアヒムへの異様な執着に疲れ果てていた。
ずっと酒を飲み、酩酊状態を維持して、思考を放棄した。それが一番楽だったのだ。
「アヒム」
アヒムの小さな世界である部屋の外から、ジークが呼びかけた。その声はどこか浮かない。
「フリート親父が死んだ」
その言葉に一瞬で酔いがさめたアヒムは、足がもつれながらも扉をあけた。
「どういうこと……」
久しぶりに見るジークの顔は悲し気で、受け入れがたい現実を物語っている。
「フリートヘルムさんが死んだなんて。お葬式はいつ。最後を見送りたいよ」
力なく地面に座り込んで、ジークの足にすがりついた。
「約束したんだ。骨壺は僕の磁器だって。僕の分身、僕の子供。それに入れてずっと、ずっと」
もうとっくに情緒がいかれているアヒムはポロポロと涙をこぼしながら嗤っていた。
「フリートヘルムさんに会いたい。会いに行かなきゃ」
アヒムは思い立ったように、立ち上がって扉の外から出た。フリートヘルムは彼にとって小さな世界を抜け出してまで会いに行きたいと思うほどの人物であった。
「アヒム、待てよ!」
ペタペタと裸足で己の格好も気にすることなく走り出すアヒムをジークは静止するよう声をかけたが意味はない。
どうせ監視の兵士に止められるだろうが、彼の格好は目に毒だ。シャツだけしか着ていない、淫らな格好でフラフラと走っている。
「アヒム」
低い声がアヒムの動きをピタリと止めた。
刷り込まれた恐怖にアヒムの足はふるえるが、顔には笑みを浮かべている。なんともちぐはぐだ。
「余の許可もなくどこへ行くのだ?」
「へいか、フリートヘルムさんが死んだの。会いに行かなきゃ」
まるで子どものような舌足らずな言葉で、アヒムは王に話した。
「外に行くというのか?」
「フリートヘルムさんに会いたいの。お願い、へいか」
「駄目だ」
王の無慈悲な言葉にアヒムは跪いた。ポロポロと涙を流しながら、誘惑するような笑みを浮かべている。
「お願い。お願いします。フリートヘルムに会いたい」
「ならぬ。すでに死者だというのに、そなたの口から他の男の名がでるだけで腸が煮えくりかえるのだ。その口を閉じろ」
王の命令に逆らうことができずに、アヒムはこれ以上何も言えなかった。
アヒムはただその場に泣き崩れてるだけしかできなかった。
「オスヴァルト、アヒムを連れていけ」
「はい。アヒム殿、行こう」
オスヴァルトはアヒムを抱き起こして、彼を部屋へと連れていった。
ジークはこの騒々しい出来事を見ていることしかできなかった。
その後、アヒムはしばらく大人しくしており、大層な事を起こそうなど周りは露とも思わなかった。
だが今思えば、フリートヘルムの死後、残っていた良心が、心が完全に無くなったのだろう。
アヒムはそれ以来、工房にあらわれることは滅多になく、王命のために研究を主導するのはヨーゼフとなっていた。
あまり賢くないジークもわかっていた。王はそう簡単にアヒムを手放しはしないということを。
白い黄金とまで呼ばれる磁器生産の利益を独占するためにも、機密を漏らさないようにと、幽閉されていないジークやフリートヘルムまで監視がついている。磁器製造の要であるアヒムを手放すわけがなかった。
厳重な注意のもと、王は王立ラニス磁器工場を設立し、そこに磁器製造の独占権を与えた。染付複製のために工場でできるいくつかの磁器が工房にあげられた。
しかし、アヒムにはそんなことは関係がなかった。王の磁器製造以外でのアヒムへの異様な執着に疲れ果てていた。
ずっと酒を飲み、酩酊状態を維持して、思考を放棄した。それが一番楽だったのだ。
「アヒム」
アヒムの小さな世界である部屋の外から、ジークが呼びかけた。その声はどこか浮かない。
「フリート親父が死んだ」
その言葉に一瞬で酔いがさめたアヒムは、足がもつれながらも扉をあけた。
「どういうこと……」
久しぶりに見るジークの顔は悲し気で、受け入れがたい現実を物語っている。
「フリートヘルムさんが死んだなんて。お葬式はいつ。最後を見送りたいよ」
力なく地面に座り込んで、ジークの足にすがりついた。
「約束したんだ。骨壺は僕の磁器だって。僕の分身、僕の子供。それに入れてずっと、ずっと」
もうとっくに情緒がいかれているアヒムはポロポロと涙をこぼしながら嗤っていた。
「フリートヘルムさんに会いたい。会いに行かなきゃ」
アヒムは思い立ったように、立ち上がって扉の外から出た。フリートヘルムは彼にとって小さな世界を抜け出してまで会いに行きたいと思うほどの人物であった。
「アヒム、待てよ!」
ペタペタと裸足で己の格好も気にすることなく走り出すアヒムをジークは静止するよう声をかけたが意味はない。
どうせ監視の兵士に止められるだろうが、彼の格好は目に毒だ。シャツだけしか着ていない、淫らな格好でフラフラと走っている。
「アヒム」
低い声がアヒムの動きをピタリと止めた。
刷り込まれた恐怖にアヒムの足はふるえるが、顔には笑みを浮かべている。なんともちぐはぐだ。
「余の許可もなくどこへ行くのだ?」
「へいか、フリートヘルムさんが死んだの。会いに行かなきゃ」
まるで子どものような舌足らずな言葉で、アヒムは王に話した。
「外に行くというのか?」
「フリートヘルムさんに会いたいの。お願い、へいか」
「駄目だ」
王の無慈悲な言葉にアヒムは跪いた。ポロポロと涙を流しながら、誘惑するような笑みを浮かべている。
「お願い。お願いします。フリートヘルムに会いたい」
「ならぬ。すでに死者だというのに、そなたの口から他の男の名がでるだけで腸が煮えくりかえるのだ。その口を閉じろ」
王の命令に逆らうことができずに、アヒムはこれ以上何も言えなかった。
アヒムはただその場に泣き崩れてるだけしかできなかった。
「オスヴァルト、アヒムを連れていけ」
「はい。アヒム殿、行こう」
オスヴァルトはアヒムを抱き起こして、彼を部屋へと連れていった。
ジークはこの騒々しい出来事を見ていることしかできなかった。
その後、アヒムはしばらく大人しくしており、大層な事を起こそうなど周りは露とも思わなかった。
だが今思えば、フリートヘルムの死後、残っていた良心が、心が完全に無くなったのだろう。
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