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余命2年
42.凸凹
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「ええ。レイと僕は参加を見送る予定です」
(そうよね。舞踏会への参加は難しい……わよね)
レイはいつもの理由で。
ビルは実家であるキャボット家の面々や、婚約の件で揉めたリリェバリ家の人間との接触を避けたいのだろう。
ビルは今や『救国の英雄』であり、『救国の勇者・ユーリの師』でもある。
そのためか両家はビルに取り入ろうと躍起になっているようだ。彼の苦労が偲ばれる。
「分かりました。わたくしの方でよしなにしておきましょう」
「ありがとう」
「いいのよ! 貴方とレイのためですもの♡♡♡」
「うん。レイにもよ~く言っておくね」
「ぜひ♡♡♡」
何かしらな見返りがあるのだろう。求められているもの、事柄にもよるが、それにしても公爵家の、それも現女王の姪が仲立ちを務めてくれるとは。何とも頼もしい限りだ。
「ああ~、リリアーナ。俺もパスすっから、上手いこと言っておいてくれや」
「……は?」
一変してリリィの顔が怒気に染まる。これには流石のジュリオも気圧されたのか、小さく咳払いをした。
「明後日、論文の締め切りでさ。それで――い゛っ!?」
「きゃっ!?」
「なっ、何だ!?」
「地震か!?」
突如、何の前触れもなくフロート車が前後左右に揺れた。バランスを崩したエレノアを、ユーリがそっと抱き留める。
「あっ、ありがとう。助かりました」
「いえ」
ユーリの胸を押して離れようとしたが――阻まれてしまう。他でもない彼の腕によって。
まだ一波乱あると見てのことか。それとも。
「ユーリ?」
悪戯っぽく笑いかけると、罰が悪そうに目をそらした。『便乗』と見て間違いないだろう。
胸の奥が擽ったい。エレノアは愛おしさのなすままにユーリの胸に頬を擦り付けた。
彼のやや駆け足な鼓動を耳で、肌で感じる。
(わたくしの鼓動は、貴方にはどう伝わっているのかしら?)
この高鳴りがきちんと伝わりますように。エレノアはそんな願いを胸に一層強くユーリを抱き締めた。
「っ! ……っ、……」
ユーリは破顔しかけて――表情を引き締めた。
エレノアはその変化に気付くことなく、多幸感に身を委ねる。
「~~っ、にすんだよバカメガネ!!」
(バカ……? ああ! そうだったわ)
ふと思い出す。リリィとジュリオが口論していたことを。
ユーリの腕の中から振り返って見てみると、ジュリオが足を抱えて蹲っているのが見えた。
どうやらリリィに足を踏まれたらしい。ジュリオは非常に恨めし気だが、当のリリィは無表情で。
「一つお尋ねしますわ」
「~~っ、何だよ!!」
「貴方には、オースティンの入婿になる自覚がありまして?」
抑揚もなく問いかけた。溢れんばかりの怒りや苛立ちを抑え込んでいる。そんな印象を受けた。
ジュリオを含めた周囲一帯に緊張が走る。
「……あるに決まってんだろ」
ジュリオが返した。顔を俯かせているため表情は確認出来ない。
ただ、その声は不貞腐れたように小さく、それでいて沈んでいて。
「なら四の五の言わずに参加なさい。自身に課せられた役割をきちんと――」
「恥かくだろ! ~~っお前がっ!」
「えっ……?」
「ジュリオ様……」
リリィことリリアーナは三大勇者一族・オースティン公爵家の次女。姉のシャルロットが殉職したことで、現在は『嫡女』の立場にある。
一方のジュリオは三大賢者一族・セーラム侯爵家の四男。
身分の差はあれど、ジュリオの実家であるセーラムは『魔術の柱』と評される程の多大な功績を持つ名家。
ジュリオ自身も付与術師 兼 魔術研究員として一流の評価を受けている。公爵家の入婿となるのには不足はないだろう。
(気にしておられるのは……『見栄え』ね)
リリィは女豹を彷彿とさせるような長身の美女。
対するジュリオは実年齢は27であるものの、15の少年と見紛う程のあどけない顔立ち。加えてリリィよりも一回り以上小柄な体型をしている。
ジュリオが160センチ、リリィが170センチ……といった具合でその差は実に20センチ。
見た目の上ではどうしても不釣り合いに見えてしまうのだ。
(自身は勿論、リリィが嗤われるのも耐えがたいと……そうお考えなのね)
俯くジュリオの肩が小刻みに震えている。
こればかりは本人の努力ではどうにもならない。十二分に分かっているからこそ悔しくて仕方がないのだろうと思う。
「ジュリオ……」
ユーリを始めとした仲間達も胸を痛めているようだ。必死になってかける言葉を探しているようだが……どうにも見つからないらしい。
「はんっ! 何を今更」
そんな中でリリィが口火を切った。ジュリオの根深い割れ物のような憂いを、床に思いっきり叩きつけるように。
「その程度の嘲笑や侮蔑でこのわたくしが怯むとでも?」
(リリィ……?)
強気だが何処か悲し気でもあった。
――貴方は違うの?
そんな悲し気な問いかけが聞こえてくるようだ。
(同じ思いであると信じて疑わなかった。……リリィの目には、ジュリオ様の気遣いや劣等感が『不審』と映ったのかもしれないわね)
「そりゃ……まぁ……そうかもだけど……。いや……でも……」
ジュリオが一人問答を始める。その声は徐々にだが、弾みを取り戻しつつあるような気がした。
呼応するようにリリィの表情も晴れやかなものに変化していく。
「あれで結構お熱かったりするんですよ?」
耳打ちしてくれたのはミラだった。エレノアは変わらずユーリの腕の中だ。
ユーリが不満げに喉を鳴らすが、ミラは構わず続ける。
「所謂『両片思い』ってヤツです」
「ふふっ、あらあらそうなの~」
「リリィはジュリオさんの無邪気だけど芯のあるところが好きで~、ジュリオさんはリリィの物怖じしない……けど、ちょっと危なっかしいところが好きみたいです♡」
「またそんなテキトーなこと言って……」
「二人を酔わせて直接聞きました~! 創作じゃなくて事実です~」
「……左様で」
ユーリは呆れ顔で深い溜息をついた。
どうしてそうも他人の恋愛に興味津々なのか。理解に苦しむ。そんな声が聞こえてくるようだ。
「ゴチャゴチャ言ってないで、とにかく参加なさい。いいわね?」
「……分かったよ。でも、絶対! ぜ~~~ったい踊らないからな!!!」
「バカね。そんなの無理に決まってるでしょ」
「ぐっ!? そこはその……っ、いつもみてーに何とかしろよ!!」
「無理よ」
「おっ、踊る方がもっと無理だっつーの!!」
「どういうこと?」
「~~っ、皆まで言わせんな! 身長差! お前みたいな巨女を俺が……っ、俺が持ち上げられるわけ――」
「貴方が女役を務めればいい。それで済む話でしょう」
「……はっ? ………………はぁ!?」
「ぶっ!?」
「ははっ、その手があったか」
仲間達を始め、周囲の騎士達までもが控えめに笑い出す。ただ、悪意は滲んでいない。何とも微笑まし気な笑いだ。
「安心なさい。女装をしろとまでは言わないから」
「~~~ざっっっけんな! 服装の問題じゃねえ! お前が俺のこっ、……腰に手をあててクルクルひらひら回るだぁ!? そんなんますますバカにされるに決まってんだろーが!!!」
「いーじゃん! いーじゃん! その調子でぶっ壊しちゃいなよ! ツマンナイ固定概念なんて、二人の愛でババーンとさ♡♡♡」
「ミラ……」
賛同を得られるとは思ってもみなかったのだろう。リリィは嬉しそうに頬を綻ばせた。
けれど、ジュリオはまだ納得していないようだ。不満げに唸り声を上げている。
「他人事だと思って――」
「勿論アタシらも協力するよ! ねえ、ルイ!」
「え゛っ!? あっ……いや……その……出来る? ……かな?」
「あっ……」
ルイスは気性こそ女性並に柔和であるものの、その肉体は屈強。2メートル近い大男だ。
150センチ前後の小柄なミラが彼を持ち上げるのはほぼ不可能と言っていいだろう。
「……ごめんね。私の図体が無駄に大きいばかりに……」
「っ!? 良いって! 良いって! 代わりにエレノア様に――」
「いや、もっと無理だろ」
「はぁ!? ノリ悪すぎ!! 空気読んでよ――」
「ごめんなさい、ミラ。やっぱりお力になれそうにないわ」
「エレノア様……」
「情けない話なのだけれど、その……それ以前の問題なのよ」
「はい?」
「わたくしは……その……ダンスも不得手で……」
エレノアは運動全般が不得手だ。ダンスも例外ではない。反応速度は非常に鈍く、リズム感覚も皆無に等しい。
十二分に自覚のあった彼女は、厳格な聖教一族・カーライルの令嬢であることをいいことに、舞踏会からは距離を置いていた。
しかしながら、勇者であり公爵家の嫡男でもあるクリストフの婚約者となってからは状況が一変。言い訳が立たなくなり、やむを得ず参加するように。
以後は筆舌に尽くし難い失敗を重ねるようになる。
(クリストフ様の足を踏むのは勿論、盛大に転んだり、頭が真っ白になって動けなくなったり……ユーリをリードするなんて夢のまた夢だわ)
思い返すだけで胃が痛くなる。叶うことならユーリと踊るのも避けたいが、立場上難しいと言わざるを得ないだろう。
「はぁ~……」
「うぅ゛……っ」
ルイスと共にエレノアの頭も時を経るごとに沈んでいく。
「ふふっ、そこはユーリの腕の見せ所ですよ。ねっ?」
光明を齎してくれたのはビルだった。彼に促されてユーリが力強く頷く。その表情に緊張の色はなく静かなる自信が漂う。
「俺に身を委ねてください。貴方もちゃんと楽しめるように、しっかりとリードをさせていただきますので」
雨雲を彷彿とさせるようなどんよりとした不安が、太陽を思わせるような光に照らされて右に左に散っていく。
「ええ、……ええ! ぜひ、お願いするわ!」
エレノアの返しを受けてユーリは笑った。挑発的でもあり、悪戯っぽくもあるあの目で。
(あんなに憂鬱で仕方がなかったのに。貴方って本当にすごい――)
「ぎゃっーーー!!?」
「おっ! あはははっ!! イイ感じイイ感じー!」
城内の広場中にジュリオの野太い悲鳴が響き渡る。
見れば降車したリリィがジュリオを抱き上げて、くるくると回っていた。
皮肉にも付与術師の証である空色のローブが花を添えている。
ジュリオからしてみれば不本意であることこの上ないだろう。
「あの分だと追随する必要はないんじゃないかな?」
「ですね~。余計なお世話だったな~」
「そんなことないよ。ミラの気遣いには本当に頭が下がる思いだ」
「きゃっ♡ もうルイったら♡♡♡」
「おーーーろせっ!!!」
「ふふっ、嫌よ♪」
「はぁ!? ったく、この……っ」
楽し気で嬉しそうな表情のリリィを目の当たりにしてか、ジュリオの表情も緩んでいく。
(『両片思い』……ミラの言った通りであるようね)
甘酸っぱい二人を遠目から愛でつつ、エレノアは再びユーリと微笑み合った。今夜は楽しい舞踏会になりそうだ。
(そうよね。舞踏会への参加は難しい……わよね)
レイはいつもの理由で。
ビルは実家であるキャボット家の面々や、婚約の件で揉めたリリェバリ家の人間との接触を避けたいのだろう。
ビルは今や『救国の英雄』であり、『救国の勇者・ユーリの師』でもある。
そのためか両家はビルに取り入ろうと躍起になっているようだ。彼の苦労が偲ばれる。
「分かりました。わたくしの方でよしなにしておきましょう」
「ありがとう」
「いいのよ! 貴方とレイのためですもの♡♡♡」
「うん。レイにもよ~く言っておくね」
「ぜひ♡♡♡」
何かしらな見返りがあるのだろう。求められているもの、事柄にもよるが、それにしても公爵家の、それも現女王の姪が仲立ちを務めてくれるとは。何とも頼もしい限りだ。
「ああ~、リリアーナ。俺もパスすっから、上手いこと言っておいてくれや」
「……は?」
一変してリリィの顔が怒気に染まる。これには流石のジュリオも気圧されたのか、小さく咳払いをした。
「明後日、論文の締め切りでさ。それで――い゛っ!?」
「きゃっ!?」
「なっ、何だ!?」
「地震か!?」
突如、何の前触れもなくフロート車が前後左右に揺れた。バランスを崩したエレノアを、ユーリがそっと抱き留める。
「あっ、ありがとう。助かりました」
「いえ」
ユーリの胸を押して離れようとしたが――阻まれてしまう。他でもない彼の腕によって。
まだ一波乱あると見てのことか。それとも。
「ユーリ?」
悪戯っぽく笑いかけると、罰が悪そうに目をそらした。『便乗』と見て間違いないだろう。
胸の奥が擽ったい。エレノアは愛おしさのなすままにユーリの胸に頬を擦り付けた。
彼のやや駆け足な鼓動を耳で、肌で感じる。
(わたくしの鼓動は、貴方にはどう伝わっているのかしら?)
この高鳴りがきちんと伝わりますように。エレノアはそんな願いを胸に一層強くユーリを抱き締めた。
「っ! ……っ、……」
ユーリは破顔しかけて――表情を引き締めた。
エレノアはその変化に気付くことなく、多幸感に身を委ねる。
「~~っ、にすんだよバカメガネ!!」
(バカ……? ああ! そうだったわ)
ふと思い出す。リリィとジュリオが口論していたことを。
ユーリの腕の中から振り返って見てみると、ジュリオが足を抱えて蹲っているのが見えた。
どうやらリリィに足を踏まれたらしい。ジュリオは非常に恨めし気だが、当のリリィは無表情で。
「一つお尋ねしますわ」
「~~っ、何だよ!!」
「貴方には、オースティンの入婿になる自覚がありまして?」
抑揚もなく問いかけた。溢れんばかりの怒りや苛立ちを抑え込んでいる。そんな印象を受けた。
ジュリオを含めた周囲一帯に緊張が走る。
「……あるに決まってんだろ」
ジュリオが返した。顔を俯かせているため表情は確認出来ない。
ただ、その声は不貞腐れたように小さく、それでいて沈んでいて。
「なら四の五の言わずに参加なさい。自身に課せられた役割をきちんと――」
「恥かくだろ! ~~っお前がっ!」
「えっ……?」
「ジュリオ様……」
リリィことリリアーナは三大勇者一族・オースティン公爵家の次女。姉のシャルロットが殉職したことで、現在は『嫡女』の立場にある。
一方のジュリオは三大賢者一族・セーラム侯爵家の四男。
身分の差はあれど、ジュリオの実家であるセーラムは『魔術の柱』と評される程の多大な功績を持つ名家。
ジュリオ自身も付与術師 兼 魔術研究員として一流の評価を受けている。公爵家の入婿となるのには不足はないだろう。
(気にしておられるのは……『見栄え』ね)
リリィは女豹を彷彿とさせるような長身の美女。
対するジュリオは実年齢は27であるものの、15の少年と見紛う程のあどけない顔立ち。加えてリリィよりも一回り以上小柄な体型をしている。
ジュリオが160センチ、リリィが170センチ……といった具合でその差は実に20センチ。
見た目の上ではどうしても不釣り合いに見えてしまうのだ。
(自身は勿論、リリィが嗤われるのも耐えがたいと……そうお考えなのね)
俯くジュリオの肩が小刻みに震えている。
こればかりは本人の努力ではどうにもならない。十二分に分かっているからこそ悔しくて仕方がないのだろうと思う。
「ジュリオ……」
ユーリを始めとした仲間達も胸を痛めているようだ。必死になってかける言葉を探しているようだが……どうにも見つからないらしい。
「はんっ! 何を今更」
そんな中でリリィが口火を切った。ジュリオの根深い割れ物のような憂いを、床に思いっきり叩きつけるように。
「その程度の嘲笑や侮蔑でこのわたくしが怯むとでも?」
(リリィ……?)
強気だが何処か悲し気でもあった。
――貴方は違うの?
そんな悲し気な問いかけが聞こえてくるようだ。
(同じ思いであると信じて疑わなかった。……リリィの目には、ジュリオ様の気遣いや劣等感が『不審』と映ったのかもしれないわね)
「そりゃ……まぁ……そうかもだけど……。いや……でも……」
ジュリオが一人問答を始める。その声は徐々にだが、弾みを取り戻しつつあるような気がした。
呼応するようにリリィの表情も晴れやかなものに変化していく。
「あれで結構お熱かったりするんですよ?」
耳打ちしてくれたのはミラだった。エレノアは変わらずユーリの腕の中だ。
ユーリが不満げに喉を鳴らすが、ミラは構わず続ける。
「所謂『両片思い』ってヤツです」
「ふふっ、あらあらそうなの~」
「リリィはジュリオさんの無邪気だけど芯のあるところが好きで~、ジュリオさんはリリィの物怖じしない……けど、ちょっと危なっかしいところが好きみたいです♡」
「またそんなテキトーなこと言って……」
「二人を酔わせて直接聞きました~! 創作じゃなくて事実です~」
「……左様で」
ユーリは呆れ顔で深い溜息をついた。
どうしてそうも他人の恋愛に興味津々なのか。理解に苦しむ。そんな声が聞こえてくるようだ。
「ゴチャゴチャ言ってないで、とにかく参加なさい。いいわね?」
「……分かったよ。でも、絶対! ぜ~~~ったい踊らないからな!!!」
「バカね。そんなの無理に決まってるでしょ」
「ぐっ!? そこはその……っ、いつもみてーに何とかしろよ!!」
「無理よ」
「おっ、踊る方がもっと無理だっつーの!!」
「どういうこと?」
「~~っ、皆まで言わせんな! 身長差! お前みたいな巨女を俺が……っ、俺が持ち上げられるわけ――」
「貴方が女役を務めればいい。それで済む話でしょう」
「……はっ? ………………はぁ!?」
「ぶっ!?」
「ははっ、その手があったか」
仲間達を始め、周囲の騎士達までもが控えめに笑い出す。ただ、悪意は滲んでいない。何とも微笑まし気な笑いだ。
「安心なさい。女装をしろとまでは言わないから」
「~~~ざっっっけんな! 服装の問題じゃねえ! お前が俺のこっ、……腰に手をあててクルクルひらひら回るだぁ!? そんなんますますバカにされるに決まってんだろーが!!!」
「いーじゃん! いーじゃん! その調子でぶっ壊しちゃいなよ! ツマンナイ固定概念なんて、二人の愛でババーンとさ♡♡♡」
「ミラ……」
賛同を得られるとは思ってもみなかったのだろう。リリィは嬉しそうに頬を綻ばせた。
けれど、ジュリオはまだ納得していないようだ。不満げに唸り声を上げている。
「他人事だと思って――」
「勿論アタシらも協力するよ! ねえ、ルイ!」
「え゛っ!? あっ……いや……その……出来る? ……かな?」
「あっ……」
ルイスは気性こそ女性並に柔和であるものの、その肉体は屈強。2メートル近い大男だ。
150センチ前後の小柄なミラが彼を持ち上げるのはほぼ不可能と言っていいだろう。
「……ごめんね。私の図体が無駄に大きいばかりに……」
「っ!? 良いって! 良いって! 代わりにエレノア様に――」
「いや、もっと無理だろ」
「はぁ!? ノリ悪すぎ!! 空気読んでよ――」
「ごめんなさい、ミラ。やっぱりお力になれそうにないわ」
「エレノア様……」
「情けない話なのだけれど、その……それ以前の問題なのよ」
「はい?」
「わたくしは……その……ダンスも不得手で……」
エレノアは運動全般が不得手だ。ダンスも例外ではない。反応速度は非常に鈍く、リズム感覚も皆無に等しい。
十二分に自覚のあった彼女は、厳格な聖教一族・カーライルの令嬢であることをいいことに、舞踏会からは距離を置いていた。
しかしながら、勇者であり公爵家の嫡男でもあるクリストフの婚約者となってからは状況が一変。言い訳が立たなくなり、やむを得ず参加するように。
以後は筆舌に尽くし難い失敗を重ねるようになる。
(クリストフ様の足を踏むのは勿論、盛大に転んだり、頭が真っ白になって動けなくなったり……ユーリをリードするなんて夢のまた夢だわ)
思い返すだけで胃が痛くなる。叶うことならユーリと踊るのも避けたいが、立場上難しいと言わざるを得ないだろう。
「はぁ~……」
「うぅ゛……っ」
ルイスと共にエレノアの頭も時を経るごとに沈んでいく。
「ふふっ、そこはユーリの腕の見せ所ですよ。ねっ?」
光明を齎してくれたのはビルだった。彼に促されてユーリが力強く頷く。その表情に緊張の色はなく静かなる自信が漂う。
「俺に身を委ねてください。貴方もちゃんと楽しめるように、しっかりとリードをさせていただきますので」
雨雲を彷彿とさせるようなどんよりとした不安が、太陽を思わせるような光に照らされて右に左に散っていく。
「ええ、……ええ! ぜひ、お願いするわ!」
エレノアの返しを受けてユーリは笑った。挑発的でもあり、悪戯っぽくもあるあの目で。
(あんなに憂鬱で仕方がなかったのに。貴方って本当にすごい――)
「ぎゃっーーー!!?」
「おっ! あはははっ!! イイ感じイイ感じー!」
城内の広場中にジュリオの野太い悲鳴が響き渡る。
見れば降車したリリィがジュリオを抱き上げて、くるくると回っていた。
皮肉にも付与術師の証である空色のローブが花を添えている。
ジュリオからしてみれば不本意であることこの上ないだろう。
「あの分だと追随する必要はないんじゃないかな?」
「ですね~。余計なお世話だったな~」
「そんなことないよ。ミラの気遣いには本当に頭が下がる思いだ」
「きゃっ♡ もうルイったら♡♡♡」
「おーーーろせっ!!!」
「ふふっ、嫌よ♪」
「はぁ!? ったく、この……っ」
楽し気で嬉しそうな表情のリリィを目の当たりにしてか、ジュリオの表情も緩んでいく。
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