キミとネコと暮らしたい ~不器用なキミと、淫らな僕に愛されて~【完結】

降矢菖蒲

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二章:二人の僕を抱くキミ

10.未熟な僕らと成熟したキミ

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見えてきた。
――氷のドームだ。

あの中にユーリがいる。
小さな体を一層縮こまらせて、寒さと孤独に震えているはずだ。

「チッ……ミノタウロスだ。全部で10体。家を囲ってやがる」
「っ!」
「俺が注意を引きつける。その隙にお前が――おい!!」

空飛ぶレイ殿を追い越して、氷のドームの前へ。

レイ殿の予告通り、ミノタウロスがいた。
牛の頭を持つ人型の魔物。背丈は僕の2倍だ。
ドームを破壊しようと、殴ったり、頭から突っ込んだりしている。

あの中にはユーリが。

怒りと殺意で、頭がいっぱいになる。
ダメだ。落ち着け。剣が乱れる。
先生から貰った数少ない教えを反芻して、構えた。

「「「っ! ……???」」」

魔物の胸を、次から次へと突いていく。

全部で10体。――これで全部だ。
筋肉と骨の隙間に差し込んだサーベルを、音もなく引き抜く。

「「「がっ!? ……はっ……」」」

魔物達が膝を折って、崩れ落ちていく。
いずれもさしたる抵抗もなく死んでいった。

「心臓を一突きか。見事なもんだ」

レイ殿が合流する。
ひらりと地上に降りて、死骸を確認し始めた。

「おまけに、ほぼ無血ときたもんだ」
「子供の前ですから」
「おいおい。ちと過保護が過ぎるんじゃねえか? アイツは曲がりなりにも、自警団でキャリアを積んできてるんだ。そこいらのガキとはワケが――」
「お手数ですが、死骸の処理をお願いします」
「~~っ、お前、ちょいちょいシカトかますよな」

小屋の出入口付近の氷を切り刻んでいく。
慎重に。ドームを崩さないように。

「あの巨体でもヒビ1つ入らなかった氷をサクサクと……。はっ、頼もしいったらないね~」

背後でメキメキッと何かが砕ける音がした。
濃い土の香りがする。

振り返ると、少し離れたところに大穴が開いていた。
あの中に死骸を埋めるつもりなんだろう。

『よろしくお願いします』
心の中で再度お願いをして、氷を削り続ける。

「っ! よしっ」

開通した。
ドアノブを掴んで、ぐっと奥に押し込む。

「ユーリ!! あっ……」

リビングには毛布の塊が。
暖炉の前でカタカタと小さく震えている。

「ユーリっ……、ごめん……ごめんね」

後ろからそっと抱き締めた。瞬間――。

「っ!!! 離せ!!!」

暴れ出した。
混乱しているのかな。
抱擁を解くべきか悩んでいると、毛布がはらりと落ちた。
煌々と燃える暖炉の火が、紅色の髪を淡く照らす。

「離せって……言ってるだろ……」
「ユーリ……」

勢いよく鼻を啜る彼を、一層強く抱き締める。

触れた頬は冷たくなっていた。
冷気のせいじゃない。涙のせいだ。

彼は泣いていたんだ。
ずっと独りで。

「嫌なこと、思い出させちゃったね」
「~~っ、うるせえ!! アンタに何が……っ」

ユーリがボロボロと涙を流し始めた。
目尻にキスをしかけて――止める。

この子は弟じゃない。
他所よその子だ。

けど、……じゃあ、どうしたら?
どうやって励ましたらいいんだろう?
代案が浮かばず、ユーリを抱き締めたまま途方に暮れる。

思えば僕は、身内以外の子供と接したことがなかった。
弟子を貰った経験もない。
先生を真似ようにも、ろくに指導も受けてないし。

『どうしよう』
漏れかけた不安を、ぐっと呑み込む。

今更になって自覚した。
僕には圧倒的に経験が不足している。

こんな僕に務まるのかな。
この子の、『救国の勇者』の先生なんて。

「いーからほっとけよ!! この――」
「バーカ。踊らされてんじゃねえよ」

口火を切ったのは、レイ殿だった。
手触りのよさそうな黒い坊主頭を掻きながら、僕とユーリを見下ろしている。

「どっ、どういう意味だよ!」
「言葉の通りだ。ったく、ヤツの思惑にまんまと乗せられやがって」
「ヤツ?」
「魔王だよ。聖女エレノア様をさらった、あの魔物だ」
「っ!!!」

ユーリが目を見張る。
凄い。レイ殿の言葉、ちゃんと届いてるんだ。

僕はユーリを抱き締めたまま、レイ殿に全神経を集中させた。
同じ指導者として、彼から学ぶべきことが沢山ある。
そう確信してのことだ。

「あの魔物の狙いはお前の『自滅』だ。このまま俺とウィリアムがさじを投げたら、テメェはどうなると思う」
「そっ、それは……」
「テメェは親や仲間のかたきも取れねえまま、いた女も助けられねえまま、魔物に食われてそれで終いだ」
「…………」

ユーリは反論しなかった。
けれど、納得もしていないみたいだ。
全身のこわばりが、それを物語っている。

まだ、足りない。あと一歩。

「俺達はお前の家族でもなければ、仲間でもねえ。仇が同じなだけの、ただの他人だ」
「ただの……他人……」
「そうだ。だから、俺らはお前を鍛える。自分らの仇を取るためにな」
「…………」
「使えるもんは何でも使え。お前はただ目的を果たすことだけ、考えてりゃいい」
「ん……」

ユーリは短く返事をした。
彼は何処かほっとしているようだった。

――凄いな、と改めて感服する。

貴方の優しさに救われている。
僕もそうだった。

貴方はとても上手にその優しさを隠す。
それもまた、貴方の優しさなのか。
それとも、単にそういう性分なのか。

どっちにしろ素敵だなと思う。

「分かったな」
「……おう」
「なら、とっとと寝ろ。背、伸びなくなるぞ――」
「~~っ! おい!!」
「あ?」
「ぜってー強くなってやるからな!!! 今に見てろよ、このハゲ!!!! ……と、えと……くっ、!!!」
「くっ、唇……?」
「ぶっ!? ははっ!!」

レイ殿が吹き出すように笑った。
そんなに分厚いかな……?
親指で感触を確かめていると、ユーリが駆け出した。

毛布を被ったまま走り去るその姿は、何だかお化けの仮装みたいで――思わず笑ってしまった。
同調するように、レイ殿が一層大きく笑う。

遠くで扉が閉まる音がした。
ユーリが書斎にこもったことで、僕らはまた2人きりになる。

「歩みを合わせる、ってことですよね?」

無粋だと思いつつも、訊ねてみた。
どうしても確かめておきたくて。

レイ殿は笑顔を引っ込めて、小さく頷く。

「死んだからって無理に塗り替える必要はねえ。今のアイツには、まだ……必要なもんだ」
「……そうですね」
「さ~て、俺らも寝るぞ」

大あくびをするレイ殿に続いて、僕もベッドへ。
間は2メートルほど。それなりに近い。
小声でも話すことが出来るだろう。

もう少しだけ話したいな、なんて思っていたら――レイ殿は僕に背を向けて、静かに寝息を立て始めた。

「……っ」

開きかけた口を噤んで、天井を見上げる。
これから僕がを、
――考えかけて、止めた。

もう寝よう。

そう決めて目を閉じる。
だけど、全然眠くならない。
もたついている間に朝を迎えて、結局一睡もすることが出来なかった。



――1週間後の午後。
僕は小屋の玄関で、レイ殿から見送りを受けていた。

「思いっきり発散して来いよ」
「……ええ」

レイ殿の顔は――見れなかった。

今夜、僕は……顔も名前も知らない男性とセックスをする。
そこに愛はない。
互いの義務に従って、体を重ねるんだ。

――あの日、レイ殿と僕がそうしたように。

「…………」

そう。同じだ。きっと出来る。
それで終わったら、同じようにそわそわして……寂しくなる。

あのひと と違って、僕は肌を合わせた相手には誰彼構わずを抱いてしまうんだと……そんな確信を得られるはずだ。

そうじゃないと困る。
だって、これから先もずっと……貴方と暮らしていくんだから。

「……とっとと行けよ。ガキにバレんだろうが」
「……はい。それじゃあ、いってきます」

僕は逃げるように小屋を出た。
目と鼻の奥が熱い。
きっと、ゴミが入ったんだ。

苦しい言い訳を重ねながら走り続ける。
『夜の蝶』が待つ館に向かって。


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