キミとネコと暮らしたい ~不器用なキミと、淫らな僕に愛されて~【完結】

降矢菖蒲

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三章:不器用なキミと、淫らな僕に愛されて

19.種明かし

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「レイ……殿……?」

幻……?
でも、このレイ殿はウィルに対してどこか反抗的だ。
何と言うかそう……歪んでいない。僕の知っているレイ殿だ。
もしかして、彼は僕が生み出した幻……?

「全部聞かせてもらったぜ。なるほどな。アンタは俺の『恋敵』だったってわけだ」
「恋敵? よく言うぜ。ビルのこと、疑いまくってたくせに」
「うっせえ。年取るとな、その……色々と臆病になんだよ」

頬が緩む。
恋敵、年を取ると臆病になる……か。
絶妙なワードチョイスだ。
僕の妄想力も、割と捨てたもんじゃないのかもしれない。

「いいから、テメェはとっとと消えろ。コイツは俺のもんだ」
「は? 調子に乗んなよ。アンタは所詮ただの竿。消えるのはアンタの方だ」
「っ! レイ殿!!」

再びあの人型の魔物が現れた。
僕は体勢を立て直して、レイ殿を背後に回らせる。
直後、腰に重みを感じた。
剣だ。ホルダーに刺さった状態でそこにある。

「へぇ?」

驚くウィル。
僕はそんな彼を他所に剣を抜いた。
それと同時に、魔物も剣を抜いて。

「ぐっ!!!」

激しくぶつかり合う。
魔物の一撃は凄まじく重たかった。
腕が痺れ、膝が軋む。
力の差は歴然だ。
理解した瞬間、甘い死の香りが漂い始める。
だけど、僕はもう屈したりしない。

僕の後ろにはレイ殿がいる。
彼は守って死にたい人じゃない。
なんだ。

だから、負けられない。
絶対に勝つ。

「はあぁあああ!!!!」

魔物の剣を弾いた。
ヤツがバランスを崩す。

横に伸びたヤツの腕。
僕はその腕を下から斬り上げる。

ヤツの右腕が、ヤツの剣と共に激しく回転しながら飛んでいく。
魔物の目はその右腕へ。
僕はその隙を逃さずに、魔物の首に刃を向けた。

「かっ……はっ……!?」

手応えあり。
刃に伝わってくる。
硬い骨と、しなやかな筋肉の感触が。
それらを横に真っ二つにして、ヤツの首を落とす。
ゴトリと生々しい音を立てて、首が床に転がった。

一呼吸遅れてヤツの膝が落ちる。
それと同時に、右腕、首の順で紫色の血が噴き出した。

僕はシールドを張って身を守る。
血は僕の体を汚すことなく、さらさらと流れ落ちていく。

「……かっ、勝った……」

みっともないぐらい気の抜けた声だった。
苦笑しつつほっと息をつくと、レイ殿が駆け寄ってくる。

「ウィリアム! 無事か???」
「ええ。レイ殿は?」
「この通り無傷だ。お前のお陰だよ」

微笑み合う。
胸が熱くなる……一方で、もどかしくて堪らなくなってきた。
それはレイ殿も同じみたいで、気まずそうに目を逸らす。

「……ったく、マジかよ」

ウィルが笑った。
呆れたように。困ったように。
あの魔物が倒されるとは、夢にも思っていなかったみたいだ。

ウィルは言っていた。
あの魔物=僕の『希死願望』を具現化したものであると。
もしかしたら、あれは本当だったのかもしれない。

僕はちゃんと死ではなく、未来レイ殿を選ぶことが出来たんだ。

「勝手な奴だな」
「ごめん。っ!」

突き飛ばされて、またレイ殿に抱き留められる。

「ウィル――」

彼は笑っていた。
ほっとしたように。
それでいて、どこか寂しそうな顔で。

「あっ! わっ!!」

飛ばされていく。レイ殿と共に。遠く彼方へ。
ウィルの姿がどんどん小さくなっていく。

「ウィル、待って――」
「お前なんか嫌いだ!! 大っ嫌いだ!!!」

ウィルが叫んだ。
言葉とは裏腹に、とても爽やかな物言いだった。
夏の青空を思わせるような、搾りたてのレモネードを思わせるような、そんな爽やかさで。

「くっ……」

僕とレイ殿の体が光に包まれていく。
僕が生み出したレイ殿は、最後の最後まで僕のことをぎゅっと抱き締め続けてくれていた。

「ウィリアム!! ウィリアム!!」
「ん……?」

瞼を持ち上げる。
すると、視界いっぱいにレイ殿のお顔が広がった。
僕と目が合うなり、黒い瞳がじんわりと蕩け出す。

心配してくれてたんだ。
レイ殿には悪いけど、凄く嬉しい。

目の前にいるレイ殿は、薄茶色のローブ姿だ。
だけど、頭は馴染みの坊主頭で。
あれ? ターバン、してたよね……?

ちらちらと周囲を見回す。あった。
レイ殿から見て右斜め前方。
二メートルほど離れたところに落ちていた。
……投げ捨てたのかな?
何かこう……物凄くイライラして?

「ほっほっほ、安心せい。コヤツは本物のレイじゃよ」

褐色肌の老人が声をかけてくる。
催眠術師のナジームさんだ。
先生は白くて長い顎鬚を弄りながら、穏やかに笑いながら続ける。

「因みに、最後の方に出てきたレイも本物じゃよ」
「えっ!?」
「っ! おい!! ジジイ――」
「とはいっても、実際にコヤツがお前さんの意識に入っていたわけではない。あれはお前さんの記憶を参考に、儂が生成したイメージじゃ。もっとも、口にしていた言葉は、実際にコヤツが口にしていた言葉じゃがな」
「ばっ!? テメエ!!!」
「じゃあ、『恋敵』とか『コイツは俺のもんだ』っていうのも?」
「ああ。コヤツが言っておったことじゃ」

これまでで一番大きな舌打ちが鳴り響いた。
どうやら事実らしい。

その真意をぜひとも掘り下げたいところではあるけど、それは後だ。
先生がお帰りになる前に、これだけはきちんと確認しておかないと。

「先生。あの……ウィルは? ウィルはどうなったんでしょうか?」
「安心せい。何も消えたわけではない。彼は変わらず君の中にいるよ」
「っ! そうですか」
「また表に出てくるようなことは?」

酷く煩わしげな調子でレイ殿が訊ねる。
先生はそんなレイ殿を前にして、やれやれと肩を竦めた。
呆れているみたいだ。

「ウィリアム君とお前さん次第じゃな」
「というと?」
「彼の使命は、ウィリアム君に『真実の愛』を与えることじゃから」
「えっ? 自死を促すことではなく?」
「それならば、さっさとウィルが代行してしまえばいいだけのこと。誘導などと、そんな七面倒臭い手段に出る必要もなかろうて」
「あ……そっか……」
「彼は試しておったのじゃよ。お前さんとレイを。その愛が、『真実の愛』たり得るものであるのかどうか……とな」

じゃあ、最後のも?
あの愛の告白もフリだったのかな?

「ウィリアム君」
「はい」
「ウィルは君が生み出した『最高の味方』じゃ。故に彼は、常に君のことを案じておる。精々安心させてやることじゃ。この男を上手く使っての」
「あ゛?」
「何じゃ? 不服か?」
「……知るかよ」
「ほっほっほ、まあ良い。もう二度と呼ばれることがないよう祈っておるぞ」

先生が立ち上がる。
僕は慌てて立ち上がって礼をした。

「ありがとうございました」
「お幸せに」
「っ、はい!」

レイ殿がまた舌打ちをした。
照れ隠しだ。もう考えなくても分かる。
それが何だかこそばゆくて。
パタンと扉が閉まった後で、僕は堪らず咳払いをした。

よし。ここからはお待ちかねの追及タイムだ。
波打つ唇をきゅっと引き結んで、レイ殿に向き直る。

「あの……その……じゃあ、僕とウィルのやり取りは、ほぼ全部お聞きになっていた、ということですよね?」

レイ殿はちらっと僕を一瞥して、深く、それはもう深く溜息をついた。
これは期待が持てそうだ。
体が勝手に揺れ出す。
ははっ、我ながら浮かれてるな。

「ああ。あの爺さんが逐一してた。お前がゼフに犯されて、アーサーにフェラさせられてるところまでぜ~んぶな」
「いや、あれは幻ですから」
「……関係ねえよ」
「えっ? あっ……」

ソファに押し倒された。
やわらかなベルベッドに包まれる。
だけど、その極上の肌触りを楽しむ余裕は……ない。

レイ殿が見下ろしてきている。
じとーっとした、嫉妬と怒りに満ち満ちた眼差しで。


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