余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。【改稿版/完結】

降矢菖蒲

文字の大きさ
22 / 34
余命二年

22.パレード

しおりを挟む
デッキに出ると思ったより高かった。
おそらく一般的な建物の二階相当。
横幅は、大人が四人並んで立てるぐらいね。

安全のためか、デッキの端から端まで金色の柵が設けられている。
その柵の至るところには白、ピンク、ベージュの秋薔薇が咲き誇っていた。
残念ながらハルジオンはない。
白薔薇がその代わりであるのかもしれない。

「エラ、前へ」
「ええ」

ユーリと共に先頭に立つ。
船でいうところの船首像のようなものは付いていなかった。
フロート車は一階部分を含め長方形に近い形をしている。
装飾が豊かな分、空から見たら一つのケーキのように見えるのかもしれない。

「エレノア様! お辛くなったら直ぐに仰ってくださいね」
「ありがとう、ミラ。頼りにしているわ」

わたくし達の後ろにミラ、ビル、ルイス様が。
更にその後ろに、他のパーティーメンバーの方々が続いた。
メイドのアンナは同乗していない。
彼女は深々と頭を下げて見送ってくれている。

「全部で十五名。こんなに乗って、ちゃんと動くのかしら――あっ……!」

車が動き出した。
操作してくれているのは一階にいらっしゃる方々だ。
驚くべきことに、この車には馬がついていない。
動力は魔力。この車は巨大な魔道具であるのだそうだ。

「凄い! 凄いわ!」
「この車は、新進気鋭の錬金術師マイケル・プレンダーガスト様が開発されたそうですよ」

ユーリがそれとなく解説してくれた。
それなりに詳しそうだ。
マイケル様について少し伺ってみようかしら。

「もしかして、他にも何か素晴らしい発明を?」
「『転移装置』を開発されました」
「まぁ! そんな夢のような道具を?」
「ええ。ウィンドルとラウンドベリーを繋いでいます。お陰で馬車でも一時間程で、王都と『常闇の森』とを行き来出来るようになりました」

移動魔法を扱えるユーリやレイ達なら、もっと早く行き来が出来るということね。
有事の際の対応力UPは勿論のこと、戦士の方々の拘束時間も減り、彼らの生活の質向上にも期待が持てる。
まさに世紀の大発明ね。

「マイケル様の探求心は未だ冷めることがなく、現在は人造人間ホムンクルスの研究に没頭されているのだそうですよ」
「叶うことなら、一度お会いしてみたいわ」
「残念ですが、それは難しいと思います。二十年近くパトロンを務めていらっしゃるミシェル様でさえ、数回程度しかお会いしたことがないそうなので」
「まぁ、お兄様ったら……。本当に何にも教えてくださらないのね」
「妹思いなのですよ」
「どうかしら?」

本心から怒っているわけじゃない。
これはちょっとした愚痴だ。
ユーリも真意を汲み取ってくれているようで、苦笑いを浮かべている。

「皆様、間もなく広場に出ます。ご準備ください」

デッキの左右前方に取り付けられた『伝声管』のような器具から指示が飛んできた。
一階の操縦席にいらっしゃる方の声であるらしい。
こちらの声も届くのかしら? 試してみたいけど、今はダメね。

百メートルほど先、金色の門の向こうに観衆が押し寄せているのが見える。
広場だけでも数万人。
ここから先、各通りにも多くの観衆がいらっしゃることを考えると十万……いえ、下手をすると百万人規模の人々の前に立つことになるのかもしれない。

つい臆病風に吹かれてしまいそうになるけれど、これは裏を返せばそれだけの数の人々が『光の勝利』を待ちわびていたということなのよね。
そう思うと自然と力が湧いてくる。励まなければ、と。

「「「ユーリー!!!」」」
「よくやったぞ、ユーリ!!」
「真の魔王もぶっ倒してくれよな!」
「おーーい! ユーリ! またウチの店に来てくれよ!」
「ウチの店にも来いよ! まけとくぜ!」

ユーリの人気は圧倒的だった。
尊敬よりも親しみの念を強く感じる。
言ってしまえば、小さな田舎のヒーローのような。
『庶民派勇者』いえ、『現代的な勇者』と称するべきね。

誇らしく思う反面、どうにも気になるのがクリストフ様の存在だ。
『古典的な勇者』である彼は……いえ、は、この調和を重んじる王国の現状をどうご覧になっているのかしら。

「お似合いね~」
「ええ、素敵だわ~♡」

しばらくして、わたくしとユーリに熱い視線が向けられていることに気付いた。
件の小説や舞台のファンの方々かしら?

「ユーリ! エレノア様! サービス、サービス!」
「~~っ、何言ってるんですか――」
「ミラ、教えて。わたくしは何をしたらいいの?」
「っ!? エラ――」
「ユーリの肩にこてん♡と頭を」
「いい加減に――っ!?」

ミラに指示されるまま、ユーリの肩に頭を乗せる。すると――。

「「「きゃーーーー!!!」」」

女性を中心に歓声が巻き起こった。
まさに割れんばかりの歓声だ。
こんなにも喜んでいただけるなんて。もっとサービスするべきかしら?

「エラ、徒に刺激しない方が――」
「チュー! チュー!」
「っ!!?」
「「「チュー! チュー!」」」

ミラのコールに皆が続く。
直後、ユーリが大きく舌打ちをした。
貴方は頑として応じないつもりね。
正直、わたくしも……出来ることなら避けたい。でも――。

「無視しましょう。応える必要は――っ!」

ユーリの白い頬を包んで、ゆっくりと顔を寄せていく。
ユーリは目を逸らしてNOを示したけど――最後にはぎゅっと目を瞑って応えてくれた。

「「「きゃーーーーーー!!!!」」」

唇が触れ合う。
温かくてやわらかな感触がした。
不思議なことに、大衆の中にあってもチュッと唇を吸い合う音は聞こえて。

「~~っ」

わたくしは堪らず、ユーリの肩に顔を埋めた。
歓声は鳴り止みそうにない。

「……エラ」
「……何?」
「ご協力には感謝します。でも、やっぱり俺はこんな形じゃなくて、もっと……大切にしたかった」
「ごめんなさいね。だけど、細やかでも恩返しがしたかったの。わたくし達がこうして結ばれたのは、応援くださった皆様のお陰だから」
「それは……ズルいです」
「ふふっ、ご納得いただけたようで何よりよ」

気を取り直して正面へ。
ユーリの腕を抱いて手を振っていく。
そうしているうちに、ゴールの城門が見えてきた。

「あっという間ね」
「もう一周しちゃいます~?」
「いいえ。その代わり、しかと胸に刻みます」

そっと瞼を閉じる。
この目で見た光景、感じた思いを心に刻み込むように。

後方で門が閉まる音がした。
パレードの終わりを知らせる合図だ。
けれど、歓声は止まない。人々はその場に留まり続けている。

わたくしは切に願う。
皆様、どうかこれからも『光の勝利』を信じてユーリを、勇敢なる戦士の方々をお支えください、と。

「レイ、やっぱり来てたね」
「「「!!?」」」

ビルがさらりと呟いた。
驚き固まるわたくしに代わって、ユーリが問いかける。

「っ!? まっ、マジ!? どこに?」
「ほら、この前……レイと三人で炉豚の美味しいお店に行ったでしょ? あそこの二階。ちょうどユーリ達がキスした辺りだね」
「~~っ、なんつータイミングだよ」
「まぁまぁ。どうせ式の時には、大勢の人の前でするんだし――っ!」
「ぐおおおぉおお!!!」

ユーリがビルに襲い掛かる。
彼のややズレたフォローがトドメになって、羞恥心が爆発してしまったのでしょうね。

体格差も相まって、猫と犬がじゃれついているように見える。
微笑ましいこと。
出来ればもう少し眺めていたいけど、そろそろお屋敷に戻らないと。

「エレノア様」

メイドのアンナが声を掛けてくれた。
彼女に応えつつ、フロート車の階段を降りていく。

さぁ、次は舞踏会だ。
国王夫妻は勿論のこと、多くの貴族や、ユーリを支援する平民の方々もいらっしゃる。
もしかしたら、クリストフ様とシャロン様もいらっしゃるかもしれない。
そんな期待と不安を抱きつつ、アンナと共に歩いていく。
『光の勝利』に沸く歓声を、背に受けながら。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】懸命に働いた結果、無実の罪で魔王への生贄にされた聖女。でも、その『氷華の魔王』様に溺愛され、誰よりも幸福な人生を手に入れました。

小平ニコ
恋愛
主人公マリエラは懸命に聖女の役割を果たしてきたのに、婚約者である王太子ウィルハルドは、お気に入りの宮女のデタラメを真に受けて婚約破棄。そしてマリエラを恐るべき『氷華の魔王』レオナールへの生贄にしてしまう。 だが、冷徹で残忍と噂されるレオナールは、マリエラに対して深い愛情と優しさを注ぎ、マリエラを侮辱したウィルハルドの顎を氷漬けにして黙らせ、衆目の前で大恥をかかせた。 そして、レオナールと共に魔王国グレスウェアに移り住むマリエラ。レオナールの居城での新しい生活は、甘く幸福なものだった。互いに『運命の相手』と認め合い、愛を育み、信頼を深めていくマリエラとレオナール。 しかしレオナールは、生まれついての絶大な魔力ゆえの呪いとして、長く生きられない体だった。ショックに打ちひしがれるマリエラ。だがある日、封印された禁術を使えば、自らの寿命が大幅に減るものの、レオナールに命を分けることができると知るのだった。 その頃、王太子ウィルハルドは自分に恥をかかせた魔王レオナールへの憎しみを滾らせ、魔王国の反王政派と結託してレオナールの暗殺を企てる。 しかしそれは、あまりにも愚かな選択だった。レオナールのマリエラに対する態度があまりにも優しかったから、ウィルハルドは彼を侮り、忘れていたのである。『氷華の魔王』が恐るべき存在であることを……

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...