余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。【改稿版/完結】

降矢菖蒲

文字の大きさ
26 / 34
余命二年

26.新婦の身支度

しおりを挟む
結婚式当日。
わたくしはアンナをはじめとしたメイド達の助けを借りながら、身支度を整えていた。

ここは大聖堂南の回廊に面した一室。
壁は淡い白壁で、天井には浅いリブ・ヴォールトが広がっている。
中庭と室内を繋ぐ窓からは、薔薇と緑が育んだやわらかな光が差し込んできていた。

「エレノア様、あの……これ……」
「まぁ! 素敵!」

身支度を終えたところで、アンナからとあるものを渡された。
彼女に制作を依頼していたブライダルハンカチだ。
真っ白なリネンで織られている。
クリーム色の糸で『Y』と刺繍され、その周囲はハルジオンの花で囲われている。

「ありがとう、アンナ。とっても嬉しいわ」
「っ! いいいっ、いえ! そんな! あっ、アタシの方こそ……。やっぱり、前みたく上手には出来ませんでしたけど、それでも楽しくて、嬉しかったので……」

アンナはぺこりと頭を下げた。
照れた表情を隠すように、それはもう深く深く。

「ふふっ、次はわたくしへの裁縫指南ですね」
「うっ! うぅ……あぃ……がんばります……」

項垂れる彼女をじっくりと堪能しつつ鏡に目を向ける。
鏡の中のわたくしは、純白のウエディングドレスに身を包んでいた。
ハイネックの長袖タイプのシンプルなドレスだ。
フリルさえほとんど付けられていない。

三大聖教一族の令嬢であること、ユーリの『庶民派勇者』という立場を考慮して、シンプルなデザインにした。
自分で言うのも難だけどよく似合ってる。
いえ。目に馴染むと言った方がいいのかもしれないわね。
このドレスはぴっちりとしている点を除けば、カソックに近いデザインをしているから。

「でも……その……ごめんなさい。本当は『E』の刺繍が入っている方をお渡ししたかったんですけど、その……ユーリ様が……」

その意図は考えるまでもなかった。
気恥ずかしくなるくらい熱くてひたむきな思いね。
でも、酷く強引だわ。自信の顕れとも取れるけど。

「ふふっ、まったく困った人ね」
「一体どうして……?」
「指輪と共に、永久の愛を誓う証とするつもりなのでしょう」
「あっ! ああ……なるほど! 素敵――」
「ひゃっほーい! ブノワサマ、かれーにとうじょう!!」
「ちょっ! ブノワ!!」

元気な足音と共に子供達が入ってくる。
少年と少女の二人組だ。
見れば見るほどそっくりね。
お二人の父君の姿をこっそりと思い浮かべながら、笑顔で迎え入れる。

「お待ちしておりましたわ。わたくしの可愛いベルボーイ、ベルガールさん」
「よっ! オバサマ! じゅんびバッチリだな!!」
「おばさま……キレイ……」

少年の方はブノワ、少女の方はイザベル。
ブノワはミルキーブロンドの髪に瑠璃色の瞳、イザベルは黒髪に濃紺の瞳をしている。

「ああ、これか! これもってチチウエのところまでいけばいーんだな!」

ブノワはわたくしの白いヴェールを掴むなり、バサバサと波立たせた。
ガサツなところも父君に――セオお兄様にそっくりね。

「ぎゃーー!!! 何するんですか!!! バサバサも論外ですけど、そんな雑巾絞るみたいに握っちゃダメです!! ふわっと卵を包み込むようにして持つんです! ヴェールにしわが付いちゃうでしょうが!!!」

アンナがブノワを叱り始めた。
怒涛の勢い。まさに人が変わったよう。
彼女の衣服愛、裁縫愛が伺える。

「っ!? ……んっ、んなおこることねーだろ……」
「あぁ~! よく見たらジャケットも、パンツもホコリまみれじゃないですかっ!? どうしてこんなヒドいことするんですか!? お洋服が可哀そうじゃないですか!!」
「はぁ? なにいってんだ、コイツ……?」

戸惑うブノワを他所に、アンナはせっせと彼の衣服を整えていく。
今日のブノワは、白を基調としたジャケットに短パン姿。
胸には白い薔薇のコサージュをさしている。

そんな彼のお役目は『ベルボーイ』。
わたくしを極力美しい状態で、ユーリのもとまで送り届けるのが役割であるはずなのだけれど……どうにも理解が及んでいないみたい。
大役を任されたという点にしか意識が向いていないのでしょうね。

「ブノワ! ダメだよ! ちゃんといわれたとおりにしないと!」

別角度からも非難の声が飛ぶ。
同じく『ベルガール』を務めるイザベルからだ。

彼女は白いシフォンのワンピースを身に纏い、胸にはブノワと揃いの白薔薇のコサージュをさしている。

「うっせぇな。わかってるよ」
「わかってない! わかってないからおこられてるんでしょ!」
「うぐっ!? にゃろ~……」

イザベルの方はきちんと役割を理解しているみたい。
しっかり者でやや口うるさいところは自然と彼女の父君を――アルお兄様を彷彿とさせる。

二人ともまさに生き写しね。
容姿に限らず、言動も何もかも全部。
当人達は娘息子達がこうして言い争う姿を見て、何を思うのかしら。
想像するだけで笑みが零れた。

ねえ、ユーリ。わたくしと貴方の子はどちらに似るのでしょうね?
出来れば貴方に似てくれると良いのだけれど。

「エラ……ああ、とても美しいわ」
「っ! お母様」

クレメンス・カーライル。五十五歳。
三大賢者一族ロベール侯爵家の生まれで、実弟には前代一の魔術師エルヴェがいる。

ウェーブがかった黒髪に濃紺の瞳。
切れ長の目は、理知的でありながら魅惑的な印象も抱かせる。

今日のお母様は、薄紅色のハイネックのドレスをお召しになっていた。
メリハリのついた女性らしいボディラインを惜しげもなく披露しながらも、侯爵夫人らしい気品も漂わせている。

「ああ、父親冥利に尽きるというものだ」

お母様に続いてお父様も入室してくる。
今日のお父様は馴染みの白いカソックに加えて、肩からは帯紐を下げていた。
金の葡萄の刺繍が施されたそれは、お父様が『司教枢機卿』というお立場にあることを示している。

「クレメンス、ヴェールを」

お母様はお父様に一礼をすると、わたくしの頭の後ろにあるヴェールに手を伸ばした。
わたくしが目を伏せると、そっと囁きかけてくる。

「ねえ、エラ。わたくしね……少し気になって、ハルジオンのお花について調べてみたの」
「まぁ? 何かお分かりになりまして?」
「名前の由来は『春に咲く紫苑に似た花』。本来は秋には咲かないそうよ」
「ふふっ、目立っていたから、つい選び取ってしまったのでしょうか?」
「いいえ。きっと花に呼ばれたのよ。花言葉は『追想の愛』だそうだから」
「追想の愛……」
「貴方達にぴったりのお花よね」
「先立つわたくしの立場からすると、少々複雑な思いが致しますが」
「彼なら大丈夫よ。きっと貴方への愛を貫くわ。どんな手を使ってでもね」

お母様はわたくしの額にキスをして、ヴェールを下ろした。

お気持ちはありがたいわ。
でも、わたくしは……それを望まない。
ユーリに宛てた遺書にはしっかりと記しておいた。
再婚を希望する旨を。
ユーリには幸せになってほしいから。

「またあとでね、エラ」

お母様が足早に去っていく。
わたくしはハンカチをアンナに預け、代わりに亜麻色の薔薇のブーケを受け取った。
そしてそのまま流れるようにお父様の腕に掴まり、ゆっくりと歩き出す。
後ろにはブノワ、イザベル、そしてアンナが続く。

向かう先は礼拝堂。
そこにはユーリが待っている。
軍服じゃないわよね? ちゃんとタキシードよね?
一抹の不安を抱きながら控え室を後にした。
式はもう間もなく始まる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】懸命に働いた結果、無実の罪で魔王への生贄にされた聖女。でも、その『氷華の魔王』様に溺愛され、誰よりも幸福な人生を手に入れました。

小平ニコ
恋愛
主人公マリエラは懸命に聖女の役割を果たしてきたのに、婚約者である王太子ウィルハルドは、お気に入りの宮女のデタラメを真に受けて婚約破棄。そしてマリエラを恐るべき『氷華の魔王』レオナールへの生贄にしてしまう。 だが、冷徹で残忍と噂されるレオナールは、マリエラに対して深い愛情と優しさを注ぎ、マリエラを侮辱したウィルハルドの顎を氷漬けにして黙らせ、衆目の前で大恥をかかせた。 そして、レオナールと共に魔王国グレスウェアに移り住むマリエラ。レオナールの居城での新しい生活は、甘く幸福なものだった。互いに『運命の相手』と認め合い、愛を育み、信頼を深めていくマリエラとレオナール。 しかしレオナールは、生まれついての絶大な魔力ゆえの呪いとして、長く生きられない体だった。ショックに打ちひしがれるマリエラ。だがある日、封印された禁術を使えば、自らの寿命が大幅に減るものの、レオナールに命を分けることができると知るのだった。 その頃、王太子ウィルハルドは自分に恥をかかせた魔王レオナールへの憎しみを滾らせ、魔王国の反王政派と結託してレオナールの暗殺を企てる。 しかしそれは、あまりにも愚かな選択だった。レオナールのマリエラに対する態度があまりにも優しかったから、ウィルハルドは彼を侮り、忘れていたのである。『氷華の魔王』が恐るべき存在であることを……

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...