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第七章
第十一話
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桐秋と連れ立ち、千鶴は庭の木立の中を散策する。
赤、黄、緑、とりどりに彩られた鮮やかな木々は豪華絢爛な錦繍をまとっている。
色紙にも似た、薄く儚くも艶やかな木の葉は風が吹けば、木から、地面から宙を舞う。
それは、千鶴たちを取り囲み、別世界にさえ連れていきそうな幻想的な景色を作り出す。
色も形も違うのに、なぜか桜を見たときの様な感想を抱く。
時に数が多く、美しい植物は、恐ろしいまでに自分のもつ武器で人間を圧倒し、思考を現実から逃避させる力でも持っているのだろうか。
千鶴はともすれば異空間へと連れて行かれそうな意識を桐秋の手を握ることで現実に
戻す。
桐秋の革手袋はめた手を自身の毛糸の手套越しに、しっかりと握り、桐秋の手の感触を確認してから、千鶴は再び周りの木々を見渡す。
すると木々は、また違った意味を千鶴に気づかせる。
木立を遠くから見たときは、葉を落とす様を悲観してしまった。
しかし彼らは力尽き、木から手を離したのではなない。
ましてや、母なる木から見放され、落とされたのでもない。
冬が終わりやがて訪れる、みずからも経験した光に満ちた季節のため、その席を潔く後進に譲ったのだ。
そして、散ってなお、地面に落ちてなお、最期まで千鶴達を楽しませてくれる。
その生き様は何かにしがみついて生きる現実の人間よりもよほど見事だ。
こういう風にさらりと音もなく散ることも、人生において必要なのかもしれないと千鶴はしみじみ考えてしまう。
千鶴がそのようなことを思いながら歩いていると、いつの間にか、先ほど見ていた庭の花の前に来ていた。
桐秋はそこで歩みを止める。
「本当は、この別荘には来たくなかった」
桐秋から述べられた意外な言葉に、千鶴は彼の方を見つめる。
花に目をむけたまま話す桐秋の横顔は、驚くほど凪いでいて、先の言葉を本当に吐いたのかと疑ってしまうほどだ。
「ここは、母が最期の時を過ごした場所なんだ」
赤、黄、緑、とりどりに彩られた鮮やかな木々は豪華絢爛な錦繍をまとっている。
色紙にも似た、薄く儚くも艶やかな木の葉は風が吹けば、木から、地面から宙を舞う。
それは、千鶴たちを取り囲み、別世界にさえ連れていきそうな幻想的な景色を作り出す。
色も形も違うのに、なぜか桜を見たときの様な感想を抱く。
時に数が多く、美しい植物は、恐ろしいまでに自分のもつ武器で人間を圧倒し、思考を現実から逃避させる力でも持っているのだろうか。
千鶴はともすれば異空間へと連れて行かれそうな意識を桐秋の手を握ることで現実に
戻す。
桐秋の革手袋はめた手を自身の毛糸の手套越しに、しっかりと握り、桐秋の手の感触を確認してから、千鶴は再び周りの木々を見渡す。
すると木々は、また違った意味を千鶴に気づかせる。
木立を遠くから見たときは、葉を落とす様を悲観してしまった。
しかし彼らは力尽き、木から手を離したのではなない。
ましてや、母なる木から見放され、落とされたのでもない。
冬が終わりやがて訪れる、みずからも経験した光に満ちた季節のため、その席を潔く後進に譲ったのだ。
そして、散ってなお、地面に落ちてなお、最期まで千鶴達を楽しませてくれる。
その生き様は何かにしがみついて生きる現実の人間よりもよほど見事だ。
こういう風にさらりと音もなく散ることも、人生において必要なのかもしれないと千鶴はしみじみ考えてしまう。
千鶴がそのようなことを思いながら歩いていると、いつの間にか、先ほど見ていた庭の花の前に来ていた。
桐秋はそこで歩みを止める。
「本当は、この別荘には来たくなかった」
桐秋から述べられた意外な言葉に、千鶴は彼の方を見つめる。
花に目をむけたまま話す桐秋の横顔は、驚くほど凪いでいて、先の言葉を本当に吐いたのかと疑ってしまうほどだ。
「ここは、母が最期の時を過ごした場所なんだ」
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