103 / 131
第十章
第六話
しおりを挟む
南山の問いに西野は両膝に肘をつき、ひたいにすりあわせるように手を合わせて目をつむる。
数秒の沈黙の後、親指を内側に巻き込むようにして合わせた手の中にひと息吐くと、西野は答える。
「桜病とは本来、北川の妻が患った桜の花粉が毒となり引き起こされる病です。
昔から植物が多く根付き、共に生きてきた日本人には花粉に耐性があり、直接ちょくせつはかかりません。
しかし、北川の妻はそうではなかった。
北川が調べたところによると、北川の妻の母方の祖は、英国北部の草木も生えない極寒の地にあったようです。
そんな土地柄もあってか、その血は植物の花粉に対する耐性が少なかった」
最初に異変を起こしたのは、北川の義母。
「植物学者でもあった北川の義父は、日本に来日した際、日本古来の桜花の美しさに魅入られ、自宅の庭に、たくさんの桜の木を植えていたそうです。
来日して初めての春が訪れ、満開の桜の下で花見をしようとした最中、義母は突然倒れた。
肢体に浮かび上がる花びらのような斑点に、気管支の不調。
医者さえ原因が分からぬ病に、義母は段々と身体を弱らせ、翌年、桜の散る頃に亡くなった。
数年後には、北川の妻も桜の花咲く頃に倒れた」
その時点ではその病が何かさえ分かっていなかった。
「北川は妻の原因不明の病の正体を探るため、世界各国の文献を読み漁る中で、当時英国で発表されていた花粉が身体に与える影響について記した論文に目を付けたようです。
妻の家系を調べる中で、花粉が妻の体に害を与えているのではないかと疑った。
加えて、妻の実家に大量に植えられていたという桜の木、妻や義母が倒れた状況を考察し、植物の中でも“桜の花粉”が妻の体に対して毒になっているのではないかという推察をしたのです。
そして、毒であれば同じく、毒素から抗体を作り治療する血清療法が応用できるかもしれないと考えた。
そのために南山研究室の馬を借り受け、桜病に対する抗体をもつ抗毒素血清を作ろうとしていたのです」
数秒の沈黙の後、親指を内側に巻き込むようにして合わせた手の中にひと息吐くと、西野は答える。
「桜病とは本来、北川の妻が患った桜の花粉が毒となり引き起こされる病です。
昔から植物が多く根付き、共に生きてきた日本人には花粉に耐性があり、直接ちょくせつはかかりません。
しかし、北川の妻はそうではなかった。
北川が調べたところによると、北川の妻の母方の祖は、英国北部の草木も生えない極寒の地にあったようです。
そんな土地柄もあってか、その血は植物の花粉に対する耐性が少なかった」
最初に異変を起こしたのは、北川の義母。
「植物学者でもあった北川の義父は、日本に来日した際、日本古来の桜花の美しさに魅入られ、自宅の庭に、たくさんの桜の木を植えていたそうです。
来日して初めての春が訪れ、満開の桜の下で花見をしようとした最中、義母は突然倒れた。
肢体に浮かび上がる花びらのような斑点に、気管支の不調。
医者さえ原因が分からぬ病に、義母は段々と身体を弱らせ、翌年、桜の散る頃に亡くなった。
数年後には、北川の妻も桜の花咲く頃に倒れた」
その時点ではその病が何かさえ分かっていなかった。
「北川は妻の原因不明の病の正体を探るため、世界各国の文献を読み漁る中で、当時英国で発表されていた花粉が身体に与える影響について記した論文に目を付けたようです。
妻の家系を調べる中で、花粉が妻の体に害を与えているのではないかと疑った。
加えて、妻の実家に大量に植えられていたという桜の木、妻や義母が倒れた状況を考察し、植物の中でも“桜の花粉”が妻の体に対して毒になっているのではないかという推察をしたのです。
そして、毒であれば同じく、毒素から抗体を作り治療する血清療法が応用できるかもしれないと考えた。
そのために南山研究室の馬を借り受け、桜病に対する抗体をもつ抗毒素血清を作ろうとしていたのです」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる