120 / 131
第十一章
第十話
しおりを挟む
「私は真実を知りたくなり、養父の書斎に入る機会を伺うようになりました。
亡くなった父の研究資料が、そこに移されていたことを知っていたからです」
資料を見れば、自身の病や桜病について何か分かるのではないかと思ったのだ。
「しかし、養父は書斎の鍵を常に持ち歩いていて、鍵をかけ忘れるでもしないと中には入れませんでした」
虎視眈々とその時を待ち続けた。
「二年がたったある日、その日も私は養父が外出をしたのを見届けると、すぐに書斎のドアノブを回しに行きました。
すると、いつもは三分の一しか回らず、あと少しというところで止まるノブが、するりと三分の二回転して、怖いほどすんなりとドアが開いたのです。
キーッとどこか歪な音を立てて、すーっと開く扉に、そら恐ろしいものを感じながら部屋に入ると、私はそこでその比でないおぞましい事実を知ることになりました」
女子はそこでしばらく口をつぐんだあと、一つ呼吸を置いて話し出す。
言葉とともに風が起き、地面の桜びらが渦を巻き始める。
先刻までぴたりと止まっていた空気は一転して、髪を舞い上げるほどの荒ぶる風となる。
花嵐は攻めるように木の下に佇む女を襲う。
「小さいころわたしは桜の病にかかっていて、父はその血を使って多くの人を死にやる新しい病気を作った。
そして、父もわたしのかかっていた桜の病にうつり死んだ」
無機質な声と、どこか幼い文言。
普段の彼女とは違う喋り方。
先ほどまでの想いを吐露する話し方でもない。
ただ、起こった事実をそのままの発しただけの言葉。
もしかすると今の彼女は、真実を知った今より幼いあの頃に、心が戻っているのかも知れない。
虚空を見つめる瞳は黒く塗りつぶされている。
――女子はいっときして、瞬きをゆっくりすると、ひと息置いて話始める。
「成長し、様々な物事を知るにつれ、父の血を採るときの笑顔が時折、瞬間的に頭の中に現れるようになりました。
それはどこか歪んでいて、自分が何か得体のしれない恐ろしい存在ではないかと、問いかけてきているようで怖かった」
でも実際はそんな想像すら生やさしい、言語に絶する怪物だった。
――人を殺すための材料だった
亡くなった父の研究資料が、そこに移されていたことを知っていたからです」
資料を見れば、自身の病や桜病について何か分かるのではないかと思ったのだ。
「しかし、養父は書斎の鍵を常に持ち歩いていて、鍵をかけ忘れるでもしないと中には入れませんでした」
虎視眈々とその時を待ち続けた。
「二年がたったある日、その日も私は養父が外出をしたのを見届けると、すぐに書斎のドアノブを回しに行きました。
すると、いつもは三分の一しか回らず、あと少しというところで止まるノブが、するりと三分の二回転して、怖いほどすんなりとドアが開いたのです。
キーッとどこか歪な音を立てて、すーっと開く扉に、そら恐ろしいものを感じながら部屋に入ると、私はそこでその比でないおぞましい事実を知ることになりました」
女子はそこでしばらく口をつぐんだあと、一つ呼吸を置いて話し出す。
言葉とともに風が起き、地面の桜びらが渦を巻き始める。
先刻までぴたりと止まっていた空気は一転して、髪を舞い上げるほどの荒ぶる風となる。
花嵐は攻めるように木の下に佇む女を襲う。
「小さいころわたしは桜の病にかかっていて、父はその血を使って多くの人を死にやる新しい病気を作った。
そして、父もわたしのかかっていた桜の病にうつり死んだ」
無機質な声と、どこか幼い文言。
普段の彼女とは違う喋り方。
先ほどまでの想いを吐露する話し方でもない。
ただ、起こった事実をそのままの発しただけの言葉。
もしかすると今の彼女は、真実を知った今より幼いあの頃に、心が戻っているのかも知れない。
虚空を見つめる瞳は黒く塗りつぶされている。
――女子はいっときして、瞬きをゆっくりすると、ひと息置いて話始める。
「成長し、様々な物事を知るにつれ、父の血を採るときの笑顔が時折、瞬間的に頭の中に現れるようになりました。
それはどこか歪んでいて、自分が何か得体のしれない恐ろしい存在ではないかと、問いかけてきているようで怖かった」
でも実際はそんな想像すら生やさしい、言語に絶する怪物だった。
――人を殺すための材料だった
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる