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第33話:ラムジーの豹変

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☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆


「…いい?2人とも?開けるわよ…」

「「(ゴクリ…)」」


私とルカ、ナディアは現在、セリーヌから教えてもらった2区にある風俗店に来ている
目的はあのクソスケベ男を連れ戻すためだ

扉を押して中に入ると、鼻腔を甘い香りが刺激する…
そして、胸元が大きく空いた服装の女がこちらにやって来た

こ、これがオトナの店なのね…


「いらっしゃいませ~、あら?
お姉さん達は初めてみる顔ですわね。
うふふ、大歓迎ですわよ~。
ウチの子達はイケるクチでしてね♡」

「あっ!?い、いやその!
わ、私そんなつもりじゃ…!」


変に色気がある店員に、いきなり首をなぞられた!
……今ゾワッてしちゃったじゃない…


「下がれシュバルツァー。私が話す」


ルカは私の腕を引いて女の前に浮かんだ
…た、助かったわ…


「私達はある男共を探していてな。
黒い髪の男と『蜥蜴人リザード』の男。
ここに来てはいないか?」


ルカは淡々と、クールに質問した
すると、店員さんは目を丸くして手を口元に近づけた


「な、なんて澄んだ目で、キレイなの…
まさか、王都にここまで美しい女性が居たなんて…」

「…おい?聞いているのか」


店員の女はいきなりガシッとルカの腕を掴んだ!
な、なに!?


「お、おい!?何のつもりだ!」

「ね、ねぇ!ちょっとだけ!
ちょっとだけ利用してみない!?
貴方ならとことんサービスするわ!
なんだったら複数プレイも…!」

「は、離せ!」


店員の眼が据わって、正気に見えなくなってしまったわ…
…そういえばルカは喫茶店でバリスタを担当した時、女性客から絶大な人気を誇っていたわね
まさか、こんな所でもオトすなんて…


「その手を離してもらおうか」

「は?なによ、私はこれからこのお姉さまと…
警備隊ぃ!?」


ナディアは本の形をした紋章が刻まれているバッジを女に見せつけた
女はそれを見るなり、仰天してしりもちをついてしまった

あれは…


「王国警備隊、ナディア・ウォルトだ。
我々は今、ある捜査を行なっている。
これ以上の愚行は公務執行妨害と見なすが?」

「ととと、とんでもありませんわ!
どうぞ何なりとお聞きくださいぃぃぃ!」


女が騒ぐと、店の中にも緊張が走った
……ナディアったら…職権乱用もいいとこじゃないのかしら?


「我々が探しているのは先ほど言った通り、黒い髪の男と『蜥蜴人リザード』だ。
入店していないか?」

「い、いえ!
本日はそのような方はご来店になっておりません!
本当です!」

「…そうか。協力に感謝する」


☆☆☆


その後、私達は同じような風俗店をいくつか回ったけど、どこにもレイトたちの足取りは無かった

リックならともかく、レイトの黒い髪はかなり目立つから1つくらい目撃情報があってもいいと思うんだけど…


「変だな…ここまで探して見つからんとは」

「そうだな…
もしかすると、マミヤ殿は不埒な目的ではなかったのか?」

「どうでしょうね…
とりあえず一旦家に戻らない?
私、まだケーキ食べてないこと思い出したわ」

「「了解だ(承知した)」」


☆☆☆


「へぇ、どこにも居なかったのニャ?」

「そうなのよ、結構探し回ったんだけどね」


帰宅したあと、私達はラムジーお手製のケーキを食べながら、セリーヌ達に報告した
はぁ…
歩き回ったせいで流石の私もちょっと疲れたわ


「もしかしたら、リック達は単純に王都の外へ遊びに行ったのかもしれませんね」

「ああ、その可能性が今のところ濃厚だ。
女遊びではないなら特に構うことはないな」

「そうだな。
まったく、警備隊のバッジまで出して探してとんだ道化になった気分だったぞ!」


私たちはどっと笑った
たしかに空回りはしたけど、アイツらがいやらしいことをしてるわけじゃないし、別にいいわね!

しかし、セリーヌだけは神妙な顔つきだった
この子まだ心配してるのかしら?


「どうしたのセリーヌ?
やっぱり気になるの?」

「んー…言おうか迷ってたんだけど…
あたし実は、人の感情の『ニオイ』に敏感な体質なのニャ」

「『ニオイ』?」


どういう意味だろう?
感情に匂いなんてあるのかしら?


「そうニャ。
喜怒哀楽はもちろん、嘘ついていたり、殺意とかも『ニオイ』で感じ取れるニャ」

「ふえぇ!す、すごいですっ!」

「ニャフフ、『妖精猫ケット・シー』の特技なのニャ。
…それでレイト君とリック君なんだけど、明らかに『オス』の匂いをプンプンさせてたニャ」

「「「えぇっ!?」」」


ど、どういうこと?
でも、風俗店には居なかったし…
…待って、居ないと言えば…!


「ね、ねぇ!
そういえばモネはどこにいるのよ?
あの子たしか珍しく今日はオフって言ってなかった?」

「いや、今日は予定があると…ん?
『予定』?」


ルカが何かに気づいた
ラムジーの方を向き尋ねる


「カルメス。君の幼なじみもたしか…」

「へっ!?
あっ…そういえばルイス君も予定があるって…
ああっ!
もしかして、そういうことですか!?」

「ああ。君の考えたもので合っているだろう…
やつらは、『エステリ村』に居る」


☆間宮零人sides☆


モネの胸元で大号泣をかましたあと、俺たちは店の中へ戻った

みんな相変わらず歌い続けてるようだ
よっぽどカラオケが気に入ったんだな


「あはははっ!
ルイス君の髪型っておもしろいわね!
ねぇねぇ、これってどうやってセットしているの?」

「い、いや、これは自前の髪で…
ていうか、近すぎねぇ?」

…そして、巨乳の『踊子士ダンサー』のヨハリアさんは、ルイス君の隣に座り、彼を気に入ったのか何度もちょっかいを出している

……ルイス君…!その人は俺が狙ってたのに!


「あちゃ~残念だったねマミヤ君。
ヨハリア君、取られちゃったねー」

「そんな…たかがちょっと離れてる間に…」


ズーンと膝から崩れ落ちると、モネは屈んで両手を広げた
??
なんだ?


「え、なに?そのポーズ?」

「ん?また泣きたいのかなーって。
ボクのおっぱいに顔をうずくめるのが好きなんでしょ?」

「はあ!?す、好きじゃねぇわ!
…っていうか、他の奴らにさっきのアレ絶対言うなよ…!?」

「ん~?どうしようかな~?」


モネはイタズラっぽい顔…というかものすごく意地悪な顔で俺をからかい始めた

そ、そんな……

俺が落ち込んだ瞬間、モネの目つきが突然変わった


「……マミヤ君。
ボク言わないから、その顔は他の子に見せちゃダメだよ」

「は、はぁ?顔?」

「うん。キミの困った顔って…
なんか、ゾクゾクするんだ」

「!?」


モネは俺の耳を指で挟んで顔を近づけ始めた
店の裏側で見せてくれた優しい表情はすっかり消え失せ、頬を紅潮させ目を細めて俺を捉えた

な、なに!?

なんでそんな顔するんだよ…


「ちょっと、ダメだってばマミヤ君…
本当に、その顔は…」

「モネ…?」


心無しか、息も荒くなっている…
まさかコイツ…!


「お前、酒弱いだろ…?」

「ん~?そんな事ないよ~?」

「ぜってぇ嘘だ!
目がトロンってしてんだろが!
ブリジットさーん!!!」


☆☆☆


「まったく。仕方ない、今日はお開きだな。
この子がここまで酔うのは珍しいな…」

「そうね~。
モネちゃんもよっぽど今日のパーティー楽しかったんでしょうね」

「ん~むにゃ…」


モネはブリジットさんにお姫様抱っこされ、赤い顔のまま眠っている

…びっくりさせやがって…


「ハッハー!またいつでも遊びに来てくれや!
姉さん方なら大歓迎だぜ!」

「だなァ。
オレも久しぶりに闘い以外のことで熱くなれた気がするぜ…
ブリジット。
てめェの歌声、最高にクールだったぜ」


ルイス君とリックは若干名残惜しそうに別れの挨拶をした
本当に…俺も楽しかったなぁ
合コン最高

一応、帰りは俺が転移で皆を王都まで送ることになった
もうじき夕方だし、女の子だけじゃ危ないしね


「それじゃあ俺たち帰るね。またなルイス君」

「あっ!待ってレイト君!
最後にもう一回、あなたの黒髪触らせてくれる!?」

「は、はぁ?どうぞ…」


ヨハリアさんは再び俺の頭を両手でワシャワシャし始めた
この人、もしかして俺もルイス君もペットみたいな扱いをしてるんじゃ…


「………レイトさん?」

「「「!?」」」


声のした方を見ると、茶髪の女の子、ラムジーが店の中に居た


ラムジー・カルメスsides☆


レイトさん達の行方を導き出したあと、ちょうど帰る時間にもなっていたのでお暇させてもらうことにした
厩舎にクルゥさんを預けていることを伝えると、みんながそこまで送ってくれた

ついでに村のおつかいも一緒に付き合ってくれた!
楽しかったなぁ


「それでは転移テレポートするぞ。
忘れ物はないか?」

「はい、大丈夫ですっ!
皆さん、今日はありがとうございました!
とても楽しい時間でした!」

「いや…
大したもてなしもできずに申し訳ない…
『給仕係』として情けない限りだ」

「いえいえ!
セリーヌさんとシルヴィアさんが遊んでくれましたし…
気にしなくても大丈夫ですよ!」

「本当に今日はゴメンねラムジー。
次会う時は、私も何かお土産持って行くわね!」

「うん!またねフーちゃん!」


皆に手を振ってお別れを伝えると、視界が蒼色に染まった

ブン!


☆☆☆


視界が蒼色から元に戻ると、見慣れた村の入り口が目の前に現れた

や、やっぱり転移能力ってすごい…


「到着だ。
さて、私はこれから零人を連れ戻しに行くが…
君はどうする?」

「せっかくなので私もご一緒します。
レイトさんにもご挨拶をしたいので…」

「フッ、そうか。ならば行こうか」


私とルカさんはルイス君の経営しているバーへ向かった
多分、居るとしたらそこだ

そして、お店の入り口に着くと扉は開いており、中は騒がしかった
やっぱり当たっていた!

クルゥさんを近くの木に繋ぎ止め、店の中へ入る
予想通り、黒髪のお兄さん…レイトさんが居た!

……………………………???


「うふふ!
やっぱり貴方の髪の毛ってスゴいサラサラしてるわね!
ね、ね、どうやって手入れしているの?」

「別に皆と変わりませんって…
あの、そろそろ終わりで…」


レイトさんの綺麗なあの黒い髪を、スタイルの良い女の人がグシャグシャと触っていた

……は?


「………レイトさん?」

「うぇっ!?ら、ラムジー!?」

「お久しぶりですね…
ところで、そのお方はどなたでしょうか?」

「カ、カルメス?どうしたのだ?」


レイトさんは何故か足を後ろへズラして、私から距離をとろうとした


「ど、どうしたラムジー?
お前、いつもと様子が…」

「ルイス君うるさい」

「「!?」」


今もなお、レイトさんの髪を無造作に触っている女の傍に、私は近づいた


「あなた…レイトさんから離れてください。
というか、その黒い髪に触れないでください」

「えぇ~!?イヤよっ!
だってこの子の髪、すごく髪通し良くて触り心地良いしー」


女は私の言葉を無視してさらにレイトさんの髪をすき始めた

……この女ッ!!!


「離せッ!!レイトさんの髪は…!
キサマが気軽に触れて良い物じゃないんだ!!!」

「あっ!?なによ!
私が最初に気に入ったのよ!」

「おっおい!?いだだだっ!!
禿げる禿げる!!」

「ラムジー!?
おいお前ら、見てないで2人を止めてくれ!!」


☆間宮零人sides☆


「ううぅ…スキンヘッドになるかと思った…」

「自業自得だバカめ。
コソコソとランボルトと悪巧みをするからこうなるのだ」


ラムジーと同行していたルカに介抱してもらい、店のソファで休んでいる

……しかしなんだ?
さっきのラムジーの豹変ぶり…?
前に会った時は大人しくてとても良い子だったはずだけど…


「あ、あのあのっ!
先程は本当にゴメンなさいっ!」

「良いのよ…
私もついムキになっちゃってゴメンね。
ほら、これで仲直りしましょう?」

「は、はい!」


ラムジーとヨハリアさんは握手をした
よ、良かった…とりあえず乱闘騒ぎは収まってくれた…

ラムジーがルカと一緒に来たってことは、合コンの件バレちゃってたのか…

握手を済ませると、彼女はこちらにやってきて俺にも謝ってきた


「あの…レイトさん…
本当…なんて言ったらいいのか…
ご、ゴメンなさい!」


うん…
やっぱり前に会った時と同じで大人しい普通の女の子だ
さっきのラムジー…まるで別人格になったみたいでちょっと恐かった


「ハハ…まあ、いいって。
特に怪我したわけじゃあるまいし…
それよりも久しぶりだなラムジー。
元気してたか?」

「は、はい!
レイトさんもお変わりないようで…
あっ…いえ、そんなことはないですねっ」

「ああ、『マミヤ邸』に遊びに行ったんだったか?
まぁな…だけど、あれはたまたま手に入っただけだし、貴族になった訳じゃないからさ」


ルカに詳しく聞くと、どうやら今日フレイの方もラムジーが遊びに来ることを秘密にしていたらしく、俺と入れ違いになったようだ

…ったく、あいつも教えろよな

帰ったあとフレイにどう文句を言おうか考えていると、ラムジーはおずおずと俺の手を握ってきた


「あの…レイトさん…
その、お詫びといってはなんですが、『洗浄ウォッシュ』をさせていただけないでしょうか?」

「えっ!?
でも、俺らそろそろ帰らなきゃだし…」

「お願いします!!」

「聞いてやれ零人…
また『あの』状態になったらかなわん…」

「わ、分かった…
でもできるだけ速く頼むよ?」

「は、はいっ!」


結局、その場でラムジーに『洗浄ウォッシュ』をかけてもらうことになってしまった
まぁ…嫌な魔法じゃないし、別にいいか…


☆☆☆


「♪~」

「………」


相変わらず気持ちいいな…
ラムジーはすっかりゴキゲンになったようだ
…そんなに黒い髪は良いのだろうか?
コイツの性癖はとてもじゃないけど理解できん

それにしても、お湯に包まれてリラックスできるこの感覚…

どこかで…


「零人。
帰ったあと、今夜の修業はどうする?」

「いや、さすがにちょっと今日は疲れたよ…
悪ぃけど、オズのおっさんにはお前から…ああっ!?」

「ひゃっ!?
レイトさん、動かないでください!」

「あ、ああゴメン…
ルカ、ラムジーのこの魔法…」

「なんだ?」

「……いや、後で話すわ」

「「??」」


そうだ…!
どこかで覚えのある感触だと思ったらだ!
おっさんに伝えなきゃ!


☆☆☆


「それじゃあ、今度こそ本当に帰るぜ。
ルイス君、今日は店貸してくれてありがとな」

「良いってことよ。
ちゃんとお代ももらったしな
久しぶりに楽しかったぜレイト!」

「はぁ…もうお別れなんですね…
また来てください!皆さん!」

ブン!

再度お別れの挨拶を済ませて、俺たちはエステリ村をあとにした

そして、爆睡しているモネはそのままブリジットさんにお願いして、彼女たちとも挨拶をする


「今日は有意義な時間を過ごさせてもらった。
レイト君、君の世界の音楽は非常に興味深かった。
機会があればまた会おう」

「うふふ、本当に今日は楽しかったわ!
じゃーねー2人とも!また誘ってねー!」


大学の寮まで2人を送り、手を振りながらお別れした


「ふぅ、今日は長い1日だったなぁ。
帰ったら早く寝たいよ」

「おい、黒毛。
ブリジットに手を出すんじゃねェぞ?
あいつはオレが狙ってんだからな」

「出すか!!」

「…2人とも。
帰るのはいいが、ウォルトも怒っていることを忘れるなよ?」

「「………」」


マジか…帰りたくねぇ…
いや、覚悟を決めるか…

屋敷の前に転移し、玄関ドアを開けた


「ただいまー」

「レイト!」


家に入った早々、フレイが真っ先に出迎えた

え…?
何かすごい顔なんだけど、まさかコイツもブチ切れてた!?


「大変よ!こっち来て!」

「あっ!?なんだよフレイ!」


フレイは俺とルカの手を取るとリビングへ引っ張って行った
部屋には全員集合しており、なにやら深刻な表情だ

…何かあったのか?


「やっと帰ったかレイト…そしてルカ。
貴殿たちに伝えることがある」

「「伝えること?」」


俺とルカは顔を見合わせておっさんに訊くと、眉間にしわを寄せながら答えた


「ここより東の国…『亜人の国ヘルベルク』にて、紅の魔王らしき魔族を『千里眼ボヤンス』で確認した」


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