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第34話:紅と黒の騎士

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「う、ウソだろ…?魔王が…?」

「あぁ、そうだ。
発見した場所がここからそれなりに距離があるため、映像はだいぶ不鮮明ではあるがな」


おっさんはそう言うと、『千里眼ボヤンス』の映像を写し出すための魔力マナを集中し始める

まさかこんなタイミングで…

クソ!
呑気に合コンなんて行ってる場合じゃなかった!
まだ『候補者』が見つかってないってのに!

そんな焦りの表情をルカに見られてしまった
ルカは俺の肩に手を置いて宥めた


「零人、落ち着くんだ。
とりあえず映像を確認しよう」

「あ、ああ。そうだな…」


☆☆☆


「……………?」

「……………、………」

「………。…………?」

「……!………!!」


バツン!


☆☆☆


「……何だ、あの魔族どもは…?」

「あれが、『紅の魔王』なの…?」


ルカとフレイは驚愕の表情を浮かべている


映像は、2人の魔族と者たちの、会話が記録されたものだった

1人はフルフェイスの紅い甲冑に身を包んだ人型の魔族
もう1人も同じ人型だが、こちらは黒い甲冑を身に付けている

パッと見は普通の人族の騎士と同じだけど、2人とも兜から角を生やしている
装飾品としてはアンバランスだし、あれは自前だろう

…まさかおっさんみたく、人に化けたドラゴンとかじゃないだろうな?

2人はどこかの森の中で話してるようだ
音声は全然聞き取れなかったので、会話の内容は分からない

映像の最後には、紅い甲冑の奴がいきなりこちらに首を向け、闇属性の魔力マナの塊を放ってきた

この色はイザベラのエネルギーと同じ…
映像なので直接肉眼では確認できないが、エネルギーの構成はかなりのモノのはず

おそらくこいつは、『千里眼ボヤンス』の存在に気づき、『眼』を消し炭にしたのだろう

俺もおっさんに『眼』を見せてもらったことがあるけど、まるで虫のように小さくて、言われなければ全然分からない

それに気づくなんて…相当の手練だ


「今、魔法を撃ってきたのが『紅の魔王』なのか?」


おっさんに質問すると、気難しい顔をさらに険しくして答えた


「…我輩の記憶の通りならそうだ。
奴は紅き甲冑を身にまとっていた」

「「「!!!」」」


その場に居る全員に緊張が走った
とうとう…魔王が復活してしまったのか…!


「こうしてはいられん、一刻も早く我が王に伝えなければ!」


ナディアさんは慌てて部屋を出ていこうとするが、おっさんは彼女の腕を掴んだ


「話は最後まで聞きなさい。
映像をもう一度よく見たまえ。
たしかにこの者どもは魔族には違いないだろうが、『魔王』と判断するには、些か材料が足りんのだ。
それが何だか分かるか?」

「……いや…」

「兄が…『撃の宝石パワー・スフィア』が近くに居ないことだろう?
それにいつ復活したのかは分からんが、随行する部下が1人だけとはおかしくはないか?」


ルカがナディアさんの代わりに答えると、おっさんは頷いて映像を閉じた


「その通りだ。
急ぎ、この者どもの正体を暴く必要がある。
我輩はこれから『亜人の国ヘルベルク』に向かう。
…しばらく留守にするぞ」

「待ってください!
まさか、おひとりだけで闘うつもりですか!?」

「そうだぜ!
行くってんならオレらも連れてけや!」


シルヴィアとリックはおっさんについて行く気のようだ
…いや、おっさんはおそらく…


「我輩は直接水路を使って向かう。
我ら『海竜リヴァイアサン』は、空を飛ぶよりも、泳ぐ方が速いのでな。
それに、奴らとまともには殺り合わんさ。
我輩の身は『呪われている』からな」

「あ…そういうことですか…」

「クソッ!
オレにもそういう移動手段がありゃあなァ…」


2人とも悔しそうに俯いてしまった

この件に関しては、俺もルカも助けることができないな…
転移テレポートは、座標を直接その場所で置かなければ、使用することはできない
つまり、いちど自らの足で『亜人の国ヘルベルク』の土を踏まなければならない


「だが、私もこの魔族どもには用がある。
もし本当に『紅の魔王』というのなら、兄の所在を明らかにしなければ…零人、私に…ついてきてくれるか?」


ルカは若干不安そうに俺に問う
はっ、それこそ愚問ってもんだ


「当たり前だろ。
俺はルカの『契約者パートナー』だぜ?
どこにだって付きまとってやるさ!」

「零人…ありがとう」


ルカは俺の手を両手で握り、感謝を述べた

ルカと見つめ合っていると、いきなりガバッと誰かに腕で拘束された

フレイ?


「もちろん、私だってあんた達について行くわよ。
私の本来の仕事は傭兵。
魔族が人里に現れたのなら私の出番よ!」

「シュバルツァー…君にも感謝する。
ありがとう」

「…ったく、イザベラの時は『逃げろ』なんて言ってきたくせに、今回は勇ましいんだな?」

「あ、あれは…!
いきなりだったから、びっくりしただけよ!
もう逃げないわ!」


フレイは茶々を入れた俺の言葉に、顔を真っ赤にして反論した
ちょっとからかうとムキになっちゃって…
可愛いやつだな


「はは冗談だよ。頼りにしてるよフレイ」

「へ!?
な、なによ…レイトのクセに生意気ね…」


フレイはプイッとそっぽを向いてしまった

モネの意地悪な性格がちょっと移っちゃったかも
あまりからかい過ぎないように気をつけよう


「あたしも行くニャ!
もしかしたら、お兄ちゃんの仇が見つかるかもしれないし…
だから、絶対について行くニャ!」

「セリーヌ…」


セリーヌの眼には憎しみの炎が宿っていた

そうか…初めて会った日に教えてくれたな
いつか兄を殺した魔族の仇を討つと

みんなそれぞれやる気を出したところで、ナディアさんが待ったをかけた


「みんな、待ってくれ。
事はそう単純ではないんだ。
亜人の国ヘルベルク』に入国できるものは限られている」

「どういうことです?」

「あの国は人類の中でも特に排他的というか、亜人を中心に成り立っている国だ。
国境沿いに壁と検問所を設置する程にな。
正直、我が国との国交はあまり良くない。
亜人ではない者が勝手に入国したとあらば、下手をすれば国際問題になりかねんのだ」

「「「えぇ!?」」」

「原則、人族が入国するには、王族など特別な素性を持つものしか許されていない。
したがって、私、マミヤ殿、シルヴィアは、『亜人の国ヘルベルク』より許可を貰わなければならん…
許可を得られる望みは限りなく薄いがな」


な、なんだって…
思わぬ所でつまづいてしまった…

ルカを弾いたのは、見た目は人間だけど、自由に宝石スフィアの姿に変えられるからだろう
けど、戦闘の事を考えると俺とルカは離れるわけにはいかない


「ならば、先発隊と後発隊に別れて向かうのが良かろう。
我輩は一足先に向かって偵察をする。
タイミングをみて先発隊に合流しよう」

「どうやら、そうするしかねェみたいだな。
デカキン!銀ネコ!急いで旅の支度すんぞ!
明日の朝には出発しようぜ!」

「ガッテンニャ!」

「なんでアンタと一緒なのよ…
まぁ、仕方ないけど」


気合い充分のリック達はそれぞれ自分の部屋に戻って行った
さて、俺たちは…


「問題は私たち…というより君たちだな。
ウォルト、ゼクス王には相談できないのか?」

「…一応、明日の朝に謁見してみるが、あまり期待はしないでくれ。
いざとなったら、秘密裏に潜入する方法も考える必要があるだろうな…」

「このままでは、私達だけ待ちぼうけを食らってしまいますね…」


俺も含めて人族組はうーんと頭をうならせた

入国するには『特別な素性』か…


☆☆☆


明朝

フレイ、セリーヌ、リックは旅の荷物と装備をキャラバンに積みこみ、いよいよ出発しようとしていた

このキャラバンは俺とルカ、フレイがガルド村から出発する際に使用した乗り物だ
仲良しのクルゥ、ブレイズも変わらず元気そうだ


「それじゃあ、行って来ますニャ!」

「ああ、俺らも後で必ず追いかける。
気をつけてな」

「絶対よ!
それとルカ…分かってんでしょうね?
抜けがけは…」

「しないと言っているだろう…
君もしつこいな。
昨日の言葉では足りないのか?
少なくとも、今の私はそれどころではない」

「フン、どうだか…
とにかく、約束だからね!」

「テメェら早く乗れ!置いてくぞ!」

「なんでアンタが手網を握ってんのよ!
私のキャラバンよ!」


わーわーと騒ぎながら、彼女たちは行ってしまった

ルカとフレイはたまに、わけ分からんことを話している
約束だの抜けがけだの何の話なのか
聞いても教えてくれないし…


☆☆☆


そして、フレイ達が出発して数時間後、朝イチで王様に相談をしに行ったナディアさんが戻ってきた
表情は…暗い


「おはよう、マミヤ殿。結果から言おう。
やはり、入国の許可は出せないと仰られていた。
我が王としても心苦しい限りだそうだ」

「そうですか…
わざわざ、ありがとうございます」


やっぱりダメだったか…
こればっかりは仕方ないな


「それならば忍んで潜入するしか手はあるまい。
ウォルト、国境沿いまでどれくらいかかるのだ?」

「待て!
たしかに昨日は潜入するとは言ったが、本来、正規のルートで入らなければ、即通報されてしまう!
国民や衛兵に見つかると大事おおごとになるのだぞ!?」


ナディアさんはめちゃくちゃ焦った様子で、ルカの肩を掴んだ
もしかすると、王様に相当こっぴどく警告されたのかも…


「困りましたね…
王国警備隊のナディアさんでも許可が貰えないとなると、もう打つ手は…」

「一個だけあるぜ。すごく嫌だけど」


シルヴィアの言葉に被せて提案する


「本当かマミヤ殿!どんな手なのだ!?」

「モネに頼んで、『占術士フォーチュナー』の仕事の助手としてついて行けば良いんですよ。
すごく嫌だけど」


昨日、俺なりに考えたが、やはり正々堂々と入国するにはこの手しか思い浮かばなかった
前にマスターから、モネは仕事で大陸中の各国を飛び回っていると聞いたことがあったので、アイツなら行けると考えたのだ


「な、なぜ2回言う…?
しかし、そうか、その手があったな。
肝心のモネはまだ戻ってきていないようだが…」

「モネさんは今日は大学ですよ。
彼女が戻るまで待ちますか?」

「いや、事態は急を要する。
私が大学に行って奴に直接伝えてこよう」


そうか、ルカも大学に行ったことあるっけな
たしかセリーヌと一緒に

ふむ、それなら俺も…


「零人?
まさかついて来る気ではないだろうな?
目が血走っているぞ?」

「うぇっ!?な、なんで分かったの…」

「………そういえばマミヤ殿。
昨日の件で貴公に話がある。
彼女が戻ってくるまで、どこで何をしていたのか、じっくりと『お喋り』をしようではないか」

ゴゴゴゴゴ…!

ナディアさんは赤い魔力マナをほとばしらせ、笑顔で俺の首根っこを掴んだ

………やべ

ナディアさんが怒っているのを、ルカに警告されたんだった…
すっかり忘れてた…


その後、大学からモネが戻ってくるまで『炎獣イフリート』の取り調べをずっと受け続けた

…地獄でした

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