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第48話:人種差別

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「ニャるほど…
ここからずっと東の森に魔族が居るのニャ?」

「はい。その森の近くには私の故郷があります。
したがって、皆さまをご案内する所存です」


ナディアさんのお仕置きのあと、セリーヌにこちらの詳しい事情を説明した

…考えてみればザベっさんの実家の危機でもあるんだよな
クールに振る舞ってるけど、心境は穏やかじゃないはずだ


「ザベっさん。
残りの仲間と合流したらすぐ向かうからさ。
もう少しだけ我慢してくれるか?」

「…?我慢、とは?」

「え?
アンタの故郷の近くに魔王が居るかもしれないんだぜ?
家族とか心配じゃないのか?」

「…………」


ザベっさんは少し考え込むように腕を組んだ
ビミョーに嫌悪感を感じてるような…
珍しくしかめっ面になっていた

あ、あれ?
なんか思ってた反応と違うな…


「…ふう、おそらく無事と考えられます。
あの村には殺しても殺しきれない頑丈な『霊森人ハイエルフ』が鎮座していますので」

「お、おう?そっか…」


なんだろう、妙にトゲのある言い方のような…


「それでセリーヌ殿。
フレイ殿達とはいつ会っているのだ?」

「一応、1日ごとの夜にこのギルドの酒場で落ち合うことにしてるニャ」


夜って…まだ朝だぞおい…
めちゃくちゃ時間あるじゃねぇか


「取り敢えずラミレス達の所へ戻るとするか…
センチュリー、宿場の位置は分かるか?」

「はい。ご案内致します」

「なんだか着いて早々忙しいね…
セリーヌはどうする?俺らについてくっか?」


セリーヌは首を横に振ってピョンっとイスから立ち上がった


「元々あたしは今からクエストに向かうところだったニャ。
ちょうど夜に戻るから、あとで会おうニャ」

「ああ、さっき一緒に居た連中か?
邪魔して悪かったな」

「ううん!
じゃあ行く前にちょっと失礼…ニャッ!」

「うおっ!?」

「「!?」」

ギュッ!

セリーヌは俺の腰に手を回してグリグリと顔を擦り付けてきた
一瞬、鳩尾に頭突きかましてきたと思ったぜ…


「ん~ルミル花の香り…
レイト君のニオイニャ~」

「ニオイ?なんだお前いきなり甘えてきて…」

「ニャハハ、あたしも少し寂しかったニャ。
ちょっとくらい許してニャ」


セリーヌは顔を上げ、あどけなく笑った


☆☆☆


「とりあえずフレイ達と合流する目処は付けられたし、ジオンんとこ着いたら一息入れようぜ」

「…ああ」

「…承知した」

「かしこまりました」


ギルドをあとにした後、ザベっさんに案内をお願いして、王都内を目立たないよう細々と歩きながら、今後の予定を立てていた
…のだが、どうも皆の様子が変だ

いや、ザベっさんはいつも通りだけど、ルカとナディアさんの反応がどことなくぎこちない

まさか、また怒らせた…?


「えっと…もしかして何か俺やらかした?」

「…別になんでもない」

「…貴公に非は無い」

「??」


そんな様子を見かねたのか、ザベっさんが口を開いた


「レイト様。
おそらくお二方は、先程のモービル様の抱擁を羨ましく思われて、このような態度に変化したと推測します」

「え?そうなの?」

「「な!?」」


ルカとナディアさんは図星を突かれた反応だ
どうやら本当らしい


「なんだ、それなら早く言ってくれれば良かったのに。
ちょっと待って…
ほら、ルカ、ナディアさん、いくよ」

「お、おい!
こんな人目のある所でする気か!?
い、いや、少し待て、人間形態に移行する…」

「ルカ殿!?
…わ、私が先だ!頼むマミヤ殿!」

「ナディアさんから?じゃあ、はい」

プシュッ

「「…………は?」」

「いやまさか2人も虫刺されに悩んでるとは思わなくてさ。
気付かなくてゴメンな」

「「…………」」


俺がいつも常用しているルミル花を原材料にした、虫除けの霧吹きをナディアさんに吹きかけた
セリーヌもこのニオイ気に入ってたみたいだし、今度みんなの分作ってあげようかな

ボン!

あ、ルカが人間形態になった


「じゃあ、次はルカだ……ごぶらっ!?」

ボゴッ!!

「「馬鹿!!」」


お礼ではなく鉄拳を返された…
なんでよ…


☆☆☆


「皆さま、こちらが今回の宿場ホテルとなります」

「いやここって…ホテルっつうか…!」

「うむ、『屋敷』だな」


ジオンがアテにしていたという、厩舎付きの高級宿場に到着した
俺とジオンん家を合わせても足りないほどの大きさの建物…
入り口から見えるフロントの高級絨毯…
…どう見ても宿屋って感じがしない


「ただ泊まるだけなのに何でこんなウン十万Gジルもしそうな宿屋なんだよ!
俺ら金ないって言ったよね!?」

「私に申されましても…
意見は坊っちゃまにお願い致します」

「ぬぐ…」

「零人、別にいいではないか。
オットーが口を聞いてくれるという言質もあったのだ。
とりあえず奴と合流しよう」


宝石に戻ったルカは微塵も臆せずに建物内へ入っていった
あいつ…もしかして腹減ってるからあんな急いているんじゃね?


「む…これは…」

「ナディアさん?」

「いや…今更悩んでも仕方あるまい」


ナディアさんは入り口の近くにあった貼り紙を一瞥し、ルカの後に続いた

何が書いてあったんだろう?


☆☆☆


「ようこそ、『マルロの宿』へ。
…失礼ながら、お客様の内2名は人族とお見受けしますが、外の貼り紙は御覧になられましたか?」

「『人族お断り』か?もちろんだ」


フロントに入るなり、頭から獣耳を生やした亜人のおじさんが出迎えてくれた
…全然歓迎ムードじゃないけど


「結構。
ならばこちらの言わんとすることもご理解いただけますね?
早急にご退去願います」

「………」


ナディアさんは黙ってしまった
そうか、貼り紙にそんな事書かれてたのか
『人種差別』か…やっぱり良い気分じゃないな


「お久しぶりです、支配人オーナー様。
此度は我が主の命により、参上致しました」

「…ん?貴方は…エリザベス様ぁっ!?
こ、これはとんだ失礼を!!」

「主…ジオン・オットーよりお話は伝わっていませんか?
こちらに来訪していると思うのですが」

「もっ、もちろんでございます!
オットー様のお連れ様方、数名が後ほど合流なされると伺っております!
そうとは知らず、申し訳ございませんんん!!」


ザベっさんが支配人と呼んだおじさんは、地面に頭を擦り付けていわゆる『土下座』をかましてきた

確かにナシつけるとは言ってたけど、どんだけジオンパワー発揮してんだよ


☆☆☆


「そうですか。
フレデリカさん達はそれぞれ別行動に…」

「アハハ、なんか彼女達らしいよね~」


ホテル内を案内されてる最中、ラウンジでくつろいでいるジオン達を発見した
部屋に荷物を下ろしたあと、改めて彼らと合流しセリーヌ達の予定を伝えた

…モネの奴、テーブルにお茶菓子並べて普通に楽しんでやがる
こいつにはアウェー感がないのか?


「さて、今後のことだが…僕はこれから王城に伺って『ヘルベルク王』とのアポイントを取らなくてはならない。
運が良ければその日の内に謁見できるだろうが、時間が掛かるからな…
残念だが、今夜君たちと合流するのは厳しいだろう」

「かしこまりました。
それでは私も坊っちゃまと…」

「いや、君はレイト殿を『ガレージ・マキナ』まで連れて行ってくれ。
冒険者には武器が無いと…だろう?」


ジオンは俺を見てニヤリと口角を上げた
へっ、分かってんじゃねぇか


「ああ。だいぶ手の痛みも引いてきたし、ようやく俺も前線に復帰できると思う」

「了解しました。
それでは引き続きよろしくお願い致します」


ペコリと、ザベっさんはおじきをして俺の傍へやって来た

そういえばそのガレージの店主さんって気難しいとか何とか言ってたっけ…?
まぁ、なるようになるしかないか


「代わりに一緒に来てもらいたいのは君だ。
ゴードン殿」

「へっ!?わ、私がですか!?」


いきなり指名されたシルヴィアは仰天してしまった
え、今からジオンが行く所って人族嫌いのトップがいる王城だよな…?


「ジオン殿…
これから向かう場を考えると少々危険ではないか?
何ゆえに彼女なのだ?」


ナディアさんが難色を示した
当然の反応だよなぁ…


「うむ、オットー町で起きた事件を話してもそれを信用してもらわなければ意味がない。
第三者の証言も必要だと思ってな」

「それならばウォルトこそが適任ではないのか?
実際に魔族を仕留めたのも彼女だ」


ルカの意見はもっともだ
魔族の特徴も戦った経験もあるし

ジオンは重い口調で説明した


「…僕の口からあまりこういう事を言いたくはないが、我々『亜人の国ヘルベルク』の民は『理の国ゼクス』を恨んでいる。
もしウォルト殿を連れて行けばその場で取り押さえられる危険がある」

「そんならシルヴィアだって連れてったら一緒じゃ…
あ、そういうことか」

「…?分かるのか零人?」


なぜジオンがシルヴィアを選んだか何となく察しがついた


「『出身地』だろ?
シルヴィアは元々『聖の国グラーヴ』からやって来た」

「「あ!」」


俺が解を言うと、ジオンは肯定した


「ああ、そうだ。
理の国ゼクス』の出ではない彼女なら、こちらの説得力が強化できると踏んでな」


ジオンはシルヴィアの傍に近づき、手を差し伸べた


「それに、君は異国の身である町の住民に対して真摯に対応し救ってくれた。
オットーを治める者として、君ほど頼れる者はいない。
どうか僕と一緒に来てくれないか?」

「へえっ!?
あ、その…はい、私で良ければ…」


おずおずとシルヴィアはジオンの手を取った
あれ、なんかシルヴィアの顔が真っ赤だ


「シルヴィア?
顔えらい赤くなってるけど、大丈夫?」

「えっ!?だ、大丈夫でありますよ??」

「アーミー口調になってんぞ!?」


その様子を見ていたモネが盛大に噴き出した


「アッハハハハハ!
あのクールなシルヴィア君がテンパってるのなんてめっちゃ貴重じゃん!
シルヴィアきゅん可っ愛い~」


バンバンとテーブルを叩いてモネは爆笑し続けている
シルヴィアは赤い顔のままキッとモネを睨みつけた

いかんいかん!

彼女達の間に割って入って無理やり話題を変える


「ともあれ、今後の予定は決まったな!
モネ達はどうするんだ?」

「ボクは『占術士フォーチュナー』として、お得意様の所を回ってくるよ。
ついでにお金儲けもね♡」

「私は少々疲れたので部屋で休むことにする…」

「私は零人について行きたいところだが、先ほどから空腹なのだ。
下のレストランに付き合えウォルト」

「…はぁ、仕方ないな。承知した」


外出組と居残り組に別れて、俺たちはそれぞれ行動を開始した



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