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第49話:ガレージ・マキナ

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ザベっさん先導のもと、俺の新たな武器を求めてホテルを出発した
せっかくだし、今から向かう所について詳しく聞いてみるかな


「ザベっさん。
『ガレージ・マキナ』ってどんな所なの?」

「あそこは『コンパクトな工房』といった印象です。
元々は王族・貴族御用達の馬車を生産する由緒正しき工房だったのですが、近年店主の世代交代によりその工房は変わってしまいました」

「変わったって?」

「新たな店主様は、私たちと同年代にあるにもかかわらず、とにかく頑固一徹…失礼、『職人気質』なのです」

「へ、へぇ…」

「その気概の影響か、王族も貴族も顧客が離れていってしまわれた…
まともに相手をするのは、坊っちゃまのような変わり者の貴族や商人、あとは彼女に認められた冒険者などです」


店側が客を選ぶか…
俺の世界でもそういったお店はあるにはある
ほとんどが高級な商品を扱う店だけど

んなもんに一生縁は無いって思ってたなぁ…


「そんな商いを続けた結果、かつての栄光は無くなりお店も小さくなってしまいました。
そこで彼女は馬車の製造だけではなく、武器や魔道具アーティファクトの創作にも手を広げたのです」

「あっ!
もしかしてそれがザベっさんの持っている…」

「はい。
複数の武器種を内蔵させ、変形機構を搭載した武器…
一部の収集家コレクターの間では『可変武器マキナ・ウェポン』と呼ばれています」

「おお~!」


マキナ・ウェポン!?
なにそれ、めっちゃカッケェじゃん!


「そのかいもあってか、彼女の商いはなんとか持ち直しました。
そして現在は…コホッコホッ…失礼しました」

「あ、水飲む?」

「どうも…」


軽く咳き込んだザベっさんに俺の水筒を手渡す
彼女は少しじっと水筒を見たあと、蓋を開けてコクコクと喉を潤した


「ふう、ありがとうございました。
すみません、些か喋りすぎてしまったようです。
普段は口を開くことがあまりありませんので」

「ああいや、最初に聞いたのは俺だったし…
ザベっさんはジオンとあんまり喋んないの?」

「坊っちゃまは多忙の身ゆえ、お仕事の障害になるような事はしません。
…以前、お戯れに話したことがきっかけになり、屋敷が爆発したこともありましたので」


モネとジオンのアレか!
他人事だからかもだけど、すんげえ笑わせてもらったな


「しかし、考えてみればレイト様はお客様…
私がここまで口を聞く必要は無いはずなのですが…」


はぁ!?
まだそれ言うの!?


「だぁかぁら、俺たち今は冒険者!
んな寂しいこと言うなよ。
せっかくそんな良い声してんだからもっと喋ろうぜ」

「良い声…?」

「うん。
ザベっさんの声聴いてると落ち着くっていうか癒されるんだ。
案外、『歌手ボーカル』とか向いてたりしてな」

「……!!」


今度またモネ達とカラオケすることになったら、彼女も誘ってみようかな
なんて考えていると、ザベっさんはフリーズしてしまったかのように立ち止まってしまった

あれ?

彼女の顔の前で手を振って話しかける


「ザベっさーん?どした?」

「…っ!いえ…なんでもありません。
ガレージはもうすぐ到着します、急ぎましょう」

「あっ!?おい!」


ザベっさんはスタスタと早歩きでその場から逃げるように行ってしまった
何か俺マズイこと言ったかな…


☆☆☆


足の速いザベっさんに必死についていくこと数分、目的地に到着した

…思ってたより小さいな
『ガレージ』って名前の通り、1台分の馬車が格納できるくらいの建物だ

ガラス張りのゲートの向こうからガチャガチャと作業音が聴こえてくる
どうやら仕事中みたいだ


「ここが『ガレージ・マキナ』か。
なんというか秘密基地って感じ…」

「お店の見た目は確かに少々ボロボロですが、彼女の腕は保証致します。
早速、入りましょう」

「お、おうっ」


若干緊張しながら、彼女に続いてゲートの横に設置してあるドアをくぐった


「わぁ…」


中に入った途端、酸っぱい独特な匂いが鼻を刺激してきた

何の匂いだろうコレ?

点灯アルム』の魔道具アーティファクトがガレージの4隅から照らしており、中央には大型のキャラバンが車輪と目線が同じ高さで宙に浮いていた

え、どうなってんのアレ…

そして車体の下から長靴を履いた、薄汚れた脚が見える


「ごめんください。エリザベスです」


ザベっさんは簡単に挨拶した

…そんなんでいいのか?


「あぁん?」


えらくドスの効いた声と共に、車体の下からひょこっと顔を出してきた

褐色の肌におでこから伸びている立派な角…
多分この人は『鬼人オーガノート』かな?

ボロボロのツナギを着崩して、顔や腕には油汚れが付着していた
え、てかめちゃくちゃ不機嫌そうなんだけど…


「テメーの目は腐ってんのか?
見ての通りこっちは仕事中だ。
邪魔だ、シッシッ!消えろカス」


口悪ぅ!!
ガルドのマッチョより悪いぞこの人!
しかし、ザベっさんは大して動揺もせずに淡々と続けた


「そうは参りません。
こちらも仕事で来たのです。
私の武器の点検メンテナンスと、こちらの方に創作オーダーメイドをお願いしたいのです」

「ああ?…誰だテメー?」


眉間にシワを寄せて俺を睨みつけるように威嚇してきた!
こっわ!!


「え!えと、間宮零人って言います。
よろしくです…」

「マミヤぁ?
いや…待て、その黒髪…まさか!!」

「えっ、えっ!?」


鬼人オーガノート』の女性はズンズンとこちらに近づくと、突然俺の顔と身体をまさぐってきた!

な、ななな…!?


「ちょっとぉ!?いきなり何すんだアンタ!」

「そうか!
オメーが『黒竜ブラック・ドラゴン』をブチのめした異世界の人族、マミヤ・レイトだな!」

「ブラック…ヒィッ!!」

「レイト様?」


こんな場所でその名前を聞くとは思わなかった
反射的にザベっさんの後ろに隠れちまったじゃねぇか…

…いや!そもそも何でこの人俺の名前知ってんだ!?


「…な、何で俺のこと知ってるんだ?
アンタ何者だよ…?」

「質問はひとつに絞りな。
あたいの名は『ハルート・マキナ』だ。
エリザベスのツレってことは、ジオンの紹介か?」

「え?あ、ああ。そうだけど…」

「ほおぅ。
あの面長エルフにしては珍しくマトモな客を連れて来たじゃねーか」


ハルートと名乗ったコイツは、俺の身体をまじまじと舐め回すように観察し始めた
…クセが強すぎる


「んで、何でオメーを知ってるか、だったか。
んなもん、ちっと噂に聞いただけだよ。
こっから離れたエルフの傭兵団の村で、あの最強の『黒竜ブラック・ドラゴン』を討伐した黒髪の人族が居るってな」

「な、なんだと!?」


誰だそんな噂流したの!!

……いや、そういえばモネと初めて会った時に似たような状況になった気がする
待て…あいつ言ってたな、今のと同じ噂が大陸中に広がってるって…
最悪だ…!!


「もちろん最初は信じちゃいなかったが、その後に『マミヤ・レイト』っつー冒険者が、あのクソ盗賊団…ベンターのクズどもを皆殺しにしたって噂も流れてきてな。
さすがにそれを聞いちゃあ、あたいも興味が出てきたのさ」

「み、皆殺し!?んなことするか!」

「あん?違うのか?」

「そもそも『黒竜ブラック・ドラゴン』の噂からして間違ってんだよ!
あん時はなぁ…」


☆☆☆


俺は少し時間を掛けて、ハルートに正確なあらましを伝えた
正直、ドラゴンの事を延々と話すのは堪えるけど仕方ない…


「んだよ、尾ヒレが付いてただけじゃねーか。
あーあ、つまんねーな」

「どっちも命がけだったんだからな!?」


せっかく説明したのにこの反応はないだろ!
自己中過ぎる…


「そろそろ本題に入りたいのですが、宜しいでしょうか?
先ほど伝えた依頼をなるべく早く受注して頂きたいのです」

「ああ?だからさっき言ったろ?
仕事が残ってんだよ。
テメェらの相手をしてるヒマなんざねーんだ」


捨て台詞を言うと、ハルートはキャラバンの下に潜り込み、再びガチャガチャと作業を再開した
……ふむ


「よお、ハルートさんよ。俺も手伝おうか?」

「ああ?シロートが何ナマ言ってんだ?
インチキ冒険野郎は帰ってシコってろサル」


このクソアマ…!
いやいや、落ち着け零人…
ここでキレたら俺の負けだ


「んなこと言っても良いのか?
リーフスプリングの交換…
1人じゃキツいんじゃないの?」

「…!テメー…『分かる』奴か?」

GSガソリンスタンドでバイトしててな。
先輩達に車弄りを叩き込まれたんだよ。
俺のマシン見るか?」


俺はスマホを取り出し、ジオンに見せたやつと同じ愛車が写っている写真を見せた
すると、ハルートはスマホを奪い取って画面に釘付けになり、無駄にでかい目をさらに大きく見開き始めた


「な…!なんだこの『馬車』は!?
い、いや…馬車じゃない…?
クルゥと接続する為のマウントがない…
まさか、こいつは『自走』できるのか!?」

「ああ。これは『自動車』って言うんだ。
フロントのボンネットを開けると、車の心臓…『エンジン』が内蔵している。
詳しい機構は省くけど、『ガソリン』っていう燃料をエンジンに送り込んで、どこまでも走ることできるんだぜ」


軽く自動車について説明すると、ハルートはスマホを持ったまま地面に膝から崩れ落ちた
…なんでそんな反応なるの


「あ…ああ…!なんてこった…
まさか、あたいの『夢』を先に叶えた奴が居るなんて…」

「あ?『夢』?」

「い、いやなんでもねー…
それよりオメー作業手伝えんだな?」

「さっきからそう言ってるだろ」

「よし。ならとっととこっち来い!」


俺は腕をまくり、車体の下に潜った


☆☆☆


2時間後、キャラバンのサスペンション交換を2人で協力して終わらせた
車弄りするのめちゃくちゃ久しぶりだったな…
結構楽しかった


「お見事です、レイト様。
よもや、マキナ様と共に整備作業をこなせるとは…」

「認めたくねーが、テメーの腕はそれなりにあるみてーだな。
まさかあたい特注の『魔工具マナツール』も使いこなすたぁ、驚きだぜ」

「ちょっと使い方違うだけで、この工具はこっちの世界で言う『エアツール』に似ているからな。
俺こそ驚きだよ。
まさか魔法で作業工具まで創るなんて…」


車の足回りの作業する時に使用するリフトやジャッキでさえも、風魔法と雷魔法を組み合わせた特殊な『魔工具マナツール』で代用していた

余計なエアホースや障害物が無い分、こっちの方が使い勝手が良いな

ハルートは少しだけ機嫌が治ったのか、煙草を吹かしながら出来上がったキャラバンを満足そうに眺めていた

一緒に仕事して分かったけど、コイツも相当車好きなんだな


「フン、しゃーねー。
テメーらの依頼、受けてやるよ。
エリザベスの武器のメンテとマミヤの武器創作オーダーメイドだったか?」

「…ったく、やっと首を縦に降ってくれたな…
あ、でも創作オーダーメイドって高いよな?
俺あんま金持ってないんだけど…」

「ハン!いらねーよボケ。
さっきの作業の工賃代で手打ってやるよ」

「えっマジか!!
なんだ、お前結構良い奴だな!」

「か、勘違いすんなカス!今回だけだ!
からはちゃんと徴収すっから覚悟しとけやマミヤ!」


プイッと、そっぽを向いた彼女の横顔は若干紅くなっていた
なんだ、意外とコイツぶっきらぼうなわりに変なとこでウブなんだな


「承って下さり感謝致します、マキナ様。
ところでまもなくお昼時でございます。
もしよろしければ、これから我々とランチなど如何ですか?」

「ああ!?だ、誰がオメーらとなんか…!」

「お、いいねザベっさん。
メシ行こうぜ、ハルート。
自動車のこと、もっと聞きたいだろ?」

「うっ…しゃ、しゃーねーな…」


こうして、『鬼人オーガノート』のハルート・マキナと新しく友達になった
ノルンの王都でまさか俺を知ってる奴が居るとは思わなかった

知らぬうちに俺はこの世界で名前を売っていてしまっていた
良い意味でも、悪い意味でも…



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