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アデラールを誘惑する
しおりを挟む今日、旦那様と仕事をしていた時にご子息のマシュー様が来られた。
マリエナお嬢様と彼女の婚約者エクトル様に会いに行ったところ、他の女性との場面に出会したそうだ。
前日に悪戯されてそれを辞めて欲しいと伝えに行ったそうだ。心細いからとマシュー様を連れて。
先日の傷は婚約者がした事だったのか。
更に次の日にそのような場面に出会して、マリエナお嬢様の心がいかほど傷付いただろうかと思いを馳せる。
「先日、夜中に傷が痛むと薬を求めていらっしゃいました」
本人の希望で誰にも言わないで欲しいと言われたと伝える。
「かなりあちこちに酷い傷がありました」
絶句する旦那様とマシュー様。
旦那様が握りしめていた万年筆がばきりと音を立て飛び散った。
もともと婚約したのは幼馴染で仲が良く、エクトル側からマリエナを好きだと言ってきたことがきっかけだった。
マリエナもエクトルの事を好きになっていたし、ついでに家と家の結び付きにより事業拡大もできて一石二鳥だったのだ。
「向こうと話をしなくてはいけないな。こうなったら婚約を継続している事は困難だろう」
ただマリエナにはすぐに話す事は控えておこうとの結論に達した。
話をしている間にマリエナ付きのメイドが来て、お嬢様が帰宅後部屋から出てこない。それどころかずっと啜り泣く声が聞こえていると報告したからだ。
「無理に結婚をしなくても、ずっと家に居て貰えばいい」
そのような内容で話が終わる。
ああ、どれ程傷付いて悲しんでいるのか。
マリエナお嬢様を想うと胸が締め付けられた。
今日も仕事を終え、遅くなった。
急いで暗く人気のない廊下を自室に急ぐ。
本館から別館の間にある中庭に差し掛かった時、いきなり茂みから何かが出てきてしがみついてきた。
それは先日と同じ薄手のネグリジェを着たマリエナお嬢様だった。
金色の腰まであるふわふわとした髪の毛が月の光に照らされて輝いていた。
「アデラール……」
こちらを見上げて私の名前を呼ばれる。
「お嬢様!?こんな夜更けに1人でいたのですか??」
身長差があり、私の胸あたりまでしかない頭がぐりぐりと押し付けられる。
「さみしかったの、アデラールに会いたかったの……」
ぎゅう、と抱き締められる。
ふわふわとした細く華奢な身体に驚く。
思わず抱き締め返して、彼女がひどく冷えていることに気付いた。
自分の上着を脱ぎ、彼女をそれで包む。
すると大切なものを扱う様にその上着を握りしめて見上げられた。
こちらを見る目は潤んでいて、目尻が少し赤く腫れていた。
ずっと泣いていたのか。
あの婚約者が彼女の心を揺さぶるのか。
ジリと心臓が焼かれるように感じる。
少し前に遡るが、マリエナはひとしきり気持ちいい事をして、疲れ果てていつのまにか寝てしまっていた。
起きた時には部屋の中が随分と暗くなっていた。
窓から薄らと月明かりが照らしている。目が慣れてくると開けた服から胸が出ているのが分かった。
浅黒い色はまだ残っているが傷はほぼ完治しており、その速さに驚く。
通常だとあり得ない速さで、きっとアデラールの薬が良く効いたのだと思った。
アデラールに会いたい。
アリスとエクトルがしていた行為が何か、なんとなく知っていた。
あれは恋人が行うものだ。
(でも、夫婦になるはずの私とエクトル様は上手くできないだろう)
もうエクトルのことは好きのパロメーターはマイナスの嫌悪感へと振り切っていた。
快楽を求めた時、頭に浮かんだのはアデラールだった。
あの人が、私の事を求めてくれたら、と想像するだけで下半身に衝撃が走る。
ああ、好きになってしまったのだ。
私の事を大切にしてくれる。
それは不安な時に優しくされて好きになってしまう親和現象なのかもしれない。
むこうはそんなつもりなんてない。
ただ、困っている人が居たから助けてくれただけだ。
でも。
そんな状態で性器まで薬をガーゼ越しとはいえ、塗ってくれるだろうか。次の日に可愛い容器に入れた薬をくれるだろうか。
少しは私の事を意識して、邪な気持ちを抱いてくれては、いないだろうか。
あの行為をするなら、アデラールとがいい。
この先、エクトル以外と結婚をするとしても、彼とした記憶が欲しい。
それさえあれば、私は生きていける。
むしろ、アデラールに抱いてもらったら、その記憶を糧に神に身を捧げるのはどうだろう。洗礼を受けて神の道に進もう。
そうすればアデラール以外に抱かれずに済む。
すごくいいアイデアが浮かんだ。
そうして、彼が仕事を終わらせて帰ってくるまで待ち伏せする事にしたのだ。
アデラールは夜風に当たって冷えた身体に、彼の羽織っていたジャケットをかけてくれた。
ジャケットにある彼の温もりが、自分の物ではない香りが、アデラールに包まれている錯覚を起こした。
彼とひとつになりたい。
腰から力が抜ける。
ふらついたマリエナを抱き寄せて支えてくれた。
好き。
そう言えたら良かったのだろう。
ただ目に感情をのせて彼を見つめる。
ごくりと喉を鳴らして、掠れた声でアデラールが話す。
「ここは冷えます、マリエナお嬢様」
部屋に帰るよう促すアデラール。
離れたくなくて彼の胸元をギュッと握りしめる。
その手を取り、アデラールは深呼吸をした。
何か言われる前に急いでお願いする。
「一緒にいたいの、お願い」
見つめ合い、ややあって彼はかつて無い程に優しくこう言った。
「おいで……」
アデラールはマリエナを軽々と抱き上げる。
縦抱きの状態で、慌てて彼の頭にしがみつく。
頭に胸を押し付ける。
マリエナは彼を誘惑しに来たのだ。
「そんなにしがみつかなくても落としませんよ」
苦笑されてしまう。少しだけ手を緩めるが、胸を歩く時の振動で不可抗力で当たってしまう風を演じた。
ふよん、ふよんと耳のあたりに胸が当たる。
当たるたび、胸のポッチの存在を感じアデラールは顔を真っ赤にした。
楽しい時間はすぐに終わりを告げる。
マリエナの自室に着いてしまった。
部屋の前で腕から下ろされる。
すぐにでも居なくなりそうで、離れたくなくてアデラールに再びしがみついた。
「お嬢様」
「ひとりになりたくないの、一緒にいて」
アデラールの手を引き、自室へ入る。
アデラールからは抵抗を感じず、すんなり入ることができた。
そのままベットのところまで誘導する。
「マリエナお嬢様」
トン、と押すとアデラールはベットの上に座り込んだ。
そのまま勢いで跨ぐように上に乗った。
マリエナは自分の顔が真っ赤になっているのを感じる。
「わたし、柔らかい?」
そのまま彼の手を取り、自分の胸に服越しに当てる。
硬直したアデラールの手をスライドさせ、自分の胸を撫でさせる。
彼の碧い目を見つめながら、もう一方の手も取り、そちらも空いている胸に当てる。拒否の色は感じない。
「お嬢様……」
手のひらを胸を掴むように開かせて、上から押して手で揉むように動かす。
ごくりと喉を鳴らしたのはマリエナかアデラールか。
「ねぇ、柔らかい?」
応えないアデラールに再度問う。
「やわ、らかい、です」
掠れた声でアデラールは答える。
しばらく服の上から触らせていると乳首が立ってきたのを感じた。
彼の手をそこに当てたまま手を離す。
マリエナの手が支えなくても彼の手は硬直したままその場所に留まっていた。
彼の目を見ながら、胸元のボタンをひとつ、ひとつ時間をかけて外していく。
アデラールの手は、大きく開いた胸元から中に入れる瞬間、ビクッと痙攣した。
「ああ、アデラールに触って欲しかったの」
直接彼に触れられて、心臓が止まりそうなくらい激しく暴れているのを感じた。
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