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第2話 お前のそういうとこ、ずるいって
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キーンコーン、カーンコーン、と授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。
「じゃあ、今日の授業はここまで。課題の提出は明後日だ。提出期限を守るように」
教師が教科書を閉じると、日直の女子が「きりーつ」と言った。生徒たちはだるそうに椅子から立ち上がる。オレも面倒くさいと思いながら、中途半端に腰を上げた。
「きをつけー、礼」
「ありがとうございましたー」
教師は教室から出ていくと、生徒たちは席に座ったり、友だちのところにいったりと、それぞれの時間を過ごし始めた。ざわざわと騒がしい音が、昼休みの始まりを告げる。
間もなく、昼休みを知らせるチャイムが鳴った。――この時間が、一日の学校生活で2番目に嬉しい時間だ。1番目はもちろん、下校する時である。
オレはスポーツバッグを机の上に置くと、ごちゃごちゃしたバッグの中から弁当の包みを取り出した。ちょうどその時、目の前にやってきた王路が、オレの前の席の椅子にまたがって座った。
「よう。機嫌は直ったか? 姫川くん」
言いながら、王路はビニール袋の中から、色んな種類のパンが入った5つの袋を取り出す。どれもこれも、糖分の塊みたいな菓子パンばかり。
「……いっつも思うんだけどさ。お前、よくそんなに食えんね?」
しかもラインナップが全部甘い。うええ。胃がもたれそうだ。
オレは内心でそんなことを考えながら、弁当箱の包みを開いた。弁当箱の蓋を開けると、茶色い冷凍食品のオンパレード。――うん。うまいけどね。作ってもらえるだけ有り難いんだけどね。でも、やっぱり彩りって大事だと思う。
オレが箸入れから箸を取り出して「いただきます」と言った時、王路は3つ目のパンの袋を開けていた。
「ちょっ、お前。相変わらず食うのはえーな!?」
「……姫川が遅すぎるんだよ」
「いやいや! 昼休憩始まって、まだ3分しか経ってないからね?」
「その唐揚げうまそーだな。1個くれ」
「人の話聞いてるか? ……まあ、いいけどよ」
オレは疲れてどうでも良くなってしまった。そうだよな。好きに食えばいいんだよ、弁当なんてな。
オレは食べかけの唐揚げを弁当箱に戻して、新しい唐揚げを弁当の蓋の上にのせてやろうとしていた。
だが、王路は――
「これでいい」
そう言って、箸で食べかけの唐揚げを掴むオレの手首を握って、そのまま大きな口を開けてぱくりと食べてしまった。
――今、何が起こったんだ?
ポカーン、としてしまったオレだったが、王路は「冷凍唐揚げ、安定の旨さ」とかなんとか言って、唇についた油をぺろりと舐め取った。
教室内に、たちまち女子たちの歓声が沸き起こる。面白がって冷やかす男子たちの指笛の音が、教室内に鳴り響いた。
『オレの食べかけを食うんじゃねーよ』と言えば済む話なのに、オレは顔がほてり始めたのを感じて、勢いよく椅子から立ち上がった。オレの席は最後尾なので、けたたましい音を立てて、椅子が床に倒れた。その音で、教室内がシーンと静まり返る。
オレは謝ることもふざけることもできずに、俯いて顔を隠したまま、走って教室から逃げだした。
背後から、王路の静止の声が聞こえたが、オレは足を止めずにひたすら廊下を走った。途中、すれ違う教師に「廊下を走るなー」と注意されながら、オレは屋上へと続く階段を駆け登った。たどり着いた先に見えたのは『立入禁止』の4文字で、オレはその手前で足を止め、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
頭の中に、あの教室の喧騒が何度も再生される。
『おっ! 間接チューじゃーん』
『やるなー、王子。惚れ直したわー。ギャハハッ』
『見て見て! 姫が顔真っ赤にしてる~! 尊い~!』
『今日もこれで1日生きていけます。推しのテレ顔をありがとうございました、神様仏様』
『あんた、無宗教じゃん』
キャハハ、ギャハハ……笑い声が頭の中でぐるぐるまわる。耳鳴りみたいに、どんどん気分が悪くなっていく。オレは上体を前に倒し――
「げえっ、げはっ、げほっ……!」
その瞬間、誰かが差し出したビニール袋が口元にあてられ、階段を汚すのは免れた。
オレは、胃の中が空っぽになるまで吐いた。吐き終えたあと、目の前に青いハンカチが差し出される。ハンカチで口元を拭いていると、次は水が入ったペットボトルが差し出された。それに思わず笑ってしまった。
――こんな気遣いができるやつは、オレが知る人間で一人しかいない。
「――サンキュ。王路」
王路は無言で頷くと、ゲロ入りのビニール袋の口を何重にも縛って、階段の壁際に置いた。そしてオレの気分が回復してきた頃になって、キーンコーン、カーンコーンと予鈴が鳴る。
「もう、行かねーと」と、オレが立ち上がろうとすると、左手首を掴まれた。
「なにするんだよ」
と言って、オレが王路を振り返ると、王路は眉間にシワを寄せていた。
「そんな状態で授業に出るつもりか?」
「そーだけど」
「お前ってやつは、ほんと……はぁ……手がかかる」
王路の言葉にカチンときたオレは、王路の手を振り払おうとした。が、その動作よりも早く――
オレの口は、王路の唇で塞がれた。
一瞬、時間が止まった気がした。
息をするのも忘れて、オレは石のように動けなくなった。
やがて、唇がゆっくりと離れていく。王路の真剣な表情に、オレは言葉をなくしたまま、ただ見とれていた。
そして――
「俺達。付き合ってみる?」
それは、爆弾みたいな一言だった。
「じゃあ、今日の授業はここまで。課題の提出は明後日だ。提出期限を守るように」
教師が教科書を閉じると、日直の女子が「きりーつ」と言った。生徒たちはだるそうに椅子から立ち上がる。オレも面倒くさいと思いながら、中途半端に腰を上げた。
「きをつけー、礼」
「ありがとうございましたー」
教師は教室から出ていくと、生徒たちは席に座ったり、友だちのところにいったりと、それぞれの時間を過ごし始めた。ざわざわと騒がしい音が、昼休みの始まりを告げる。
間もなく、昼休みを知らせるチャイムが鳴った。――この時間が、一日の学校生活で2番目に嬉しい時間だ。1番目はもちろん、下校する時である。
オレはスポーツバッグを机の上に置くと、ごちゃごちゃしたバッグの中から弁当の包みを取り出した。ちょうどその時、目の前にやってきた王路が、オレの前の席の椅子にまたがって座った。
「よう。機嫌は直ったか? 姫川くん」
言いながら、王路はビニール袋の中から、色んな種類のパンが入った5つの袋を取り出す。どれもこれも、糖分の塊みたいな菓子パンばかり。
「……いっつも思うんだけどさ。お前、よくそんなに食えんね?」
しかもラインナップが全部甘い。うええ。胃がもたれそうだ。
オレは内心でそんなことを考えながら、弁当箱の包みを開いた。弁当箱の蓋を開けると、茶色い冷凍食品のオンパレード。――うん。うまいけどね。作ってもらえるだけ有り難いんだけどね。でも、やっぱり彩りって大事だと思う。
オレが箸入れから箸を取り出して「いただきます」と言った時、王路は3つ目のパンの袋を開けていた。
「ちょっ、お前。相変わらず食うのはえーな!?」
「……姫川が遅すぎるんだよ」
「いやいや! 昼休憩始まって、まだ3分しか経ってないからね?」
「その唐揚げうまそーだな。1個くれ」
「人の話聞いてるか? ……まあ、いいけどよ」
オレは疲れてどうでも良くなってしまった。そうだよな。好きに食えばいいんだよ、弁当なんてな。
オレは食べかけの唐揚げを弁当箱に戻して、新しい唐揚げを弁当の蓋の上にのせてやろうとしていた。
だが、王路は――
「これでいい」
そう言って、箸で食べかけの唐揚げを掴むオレの手首を握って、そのまま大きな口を開けてぱくりと食べてしまった。
――今、何が起こったんだ?
ポカーン、としてしまったオレだったが、王路は「冷凍唐揚げ、安定の旨さ」とかなんとか言って、唇についた油をぺろりと舐め取った。
教室内に、たちまち女子たちの歓声が沸き起こる。面白がって冷やかす男子たちの指笛の音が、教室内に鳴り響いた。
『オレの食べかけを食うんじゃねーよ』と言えば済む話なのに、オレは顔がほてり始めたのを感じて、勢いよく椅子から立ち上がった。オレの席は最後尾なので、けたたましい音を立てて、椅子が床に倒れた。その音で、教室内がシーンと静まり返る。
オレは謝ることもふざけることもできずに、俯いて顔を隠したまま、走って教室から逃げだした。
背後から、王路の静止の声が聞こえたが、オレは足を止めずにひたすら廊下を走った。途中、すれ違う教師に「廊下を走るなー」と注意されながら、オレは屋上へと続く階段を駆け登った。たどり着いた先に見えたのは『立入禁止』の4文字で、オレはその手前で足を止め、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
頭の中に、あの教室の喧騒が何度も再生される。
『おっ! 間接チューじゃーん』
『やるなー、王子。惚れ直したわー。ギャハハッ』
『見て見て! 姫が顔真っ赤にしてる~! 尊い~!』
『今日もこれで1日生きていけます。推しのテレ顔をありがとうございました、神様仏様』
『あんた、無宗教じゃん』
キャハハ、ギャハハ……笑い声が頭の中でぐるぐるまわる。耳鳴りみたいに、どんどん気分が悪くなっていく。オレは上体を前に倒し――
「げえっ、げはっ、げほっ……!」
その瞬間、誰かが差し出したビニール袋が口元にあてられ、階段を汚すのは免れた。
オレは、胃の中が空っぽになるまで吐いた。吐き終えたあと、目の前に青いハンカチが差し出される。ハンカチで口元を拭いていると、次は水が入ったペットボトルが差し出された。それに思わず笑ってしまった。
――こんな気遣いができるやつは、オレが知る人間で一人しかいない。
「――サンキュ。王路」
王路は無言で頷くと、ゲロ入りのビニール袋の口を何重にも縛って、階段の壁際に置いた。そしてオレの気分が回復してきた頃になって、キーンコーン、カーンコーンと予鈴が鳴る。
「もう、行かねーと」と、オレが立ち上がろうとすると、左手首を掴まれた。
「なにするんだよ」
と言って、オレが王路を振り返ると、王路は眉間にシワを寄せていた。
「そんな状態で授業に出るつもりか?」
「そーだけど」
「お前ってやつは、ほんと……はぁ……手がかかる」
王路の言葉にカチンときたオレは、王路の手を振り払おうとした。が、その動作よりも早く――
オレの口は、王路の唇で塞がれた。
一瞬、時間が止まった気がした。
息をするのも忘れて、オレは石のように動けなくなった。
やがて、唇がゆっくりと離れていく。王路の真剣な表情に、オレは言葉をなくしたまま、ただ見とれていた。
そして――
「俺達。付き合ってみる?」
それは、爆弾みたいな一言だった。
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