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第ニ章: 生徒会選挙
第20話: 後輩
しおりを挟む今日の授業を一通り終えた私は、柊くんから依頼を受けていた謎の手紙の差出人探しをするためにとりあえず情報集めを行う。って言ってもどこから手をつければ良いんだろう。
考え付いたのはそれが柊くんの下駄箱にいつ置かれたのかだ。今朝来た段階で置かれていたのでもし、今朝置かれたものであるならあの段階で置くことが出来る人間は限られてくる。とはいえ…。
「それを見つけるのが難しいんだよね…。まずは周りの人から聞き込んでみようかな。」
部室に足を運ぶと、スマホをいじりながら椅子の上でぐだぐだしている乃愛ちゃんはいるものの部長さんと恭介くんは居ないみたいだった。正直、乃愛ちゃんが一番話しやすいから助かるんだよね。
「乃愛ちゃんちょっと良い?」
「何?莉奈からは珍しいね。どしたの?」
スマホを机に伏せておくと乃愛ちゃんは不思議そうな表情を浮かべている。私だけじゃ限界はあるし、ちょっとお願いしてみようかな。
「実は柊くんの下駄箱にこういうものが入ってて…。」
そっと例の手紙を乃愛ちゃんに見せると彼女は立ち上がって空気中に軽くシャドウボクシングを行う。どうしたの…乃愛ちゃん目が怖いよ。
「莉奈を彼女にしといてなんなのアイツ。そういうクズはあたしが一発ぶん殴って目を覚まさせてあげる。莉奈は優しいから遠慮しないでね?で、柊どこ。ぶっ殺す。」
「ラブレターじゃないよ!柊くん完全にとばっちり過ぎるからやめて、乃愛ちゃん!」
それを聞くと乃愛ちゃんは安心したようにその手紙を広げて目を通す。良かった…あの勢いだと柊くん本当にぶっ殺されそうだった…。彼女は手紙を見てそっと呟く。
「なるほど。柏崎紗菜子を生徒会選挙から下ろせってことか。」
「でもすごい丁寧な果たし状だと思わない?」
「果たし状って…でも言葉遣いは丁寧だね。柊はこの手紙の事知ってるの?」
「うん。朝一緒に見たから知ってるけど…私だけだと差出人が分からなそうだから…乃愛ちゃんなら頭良いしきっと分かるかな。とか思って…。迷惑だったかな?」
「そうね…迷惑じゃないけど、暇つぶしがてら協力しようかな。あからさまに嬉しそうな顔しない!もう可愛いんだから…。」
彼女はそっと私の頭を撫でると再び思考を巡らせているようだ。するとまず手順を紙に書いてそれを私の方に差し出した。
「これは?」
「まず莉奈は柏崎さんの周辺の人物を当たって欲しいの。ただ柊が莉奈に頼んだのはきっと柏崎さん本人に知られたくないからでしょう?あくまで慎重に聞いてね?ストレートに聞いたらダメだからね。」
「分かった。乃愛ちゃんはどうするの?」
「あたしは生徒会の下っ端捕まえて話聞いてみる。」
「乱暴はしないでね!?」
彼女と別れた私は柏崎さんといつも一緒にいる女子を探す。
今までは率先して誰かのために動こうと考えることは無かった。そんな余裕がなかったのだが今は違う。死のうと考えていた愚かな私のために尽力してくれた彼が居てこそ、今の私は充実した学校生活が過ごせている。そんな彼が今は困っているなら私は力になりたい。
「人見知りとか言ってられないよね。」
自分のなかで何かが変わったような自覚が自分でもあった。それは前の私には無かったものだから…横を見れば常に味方がついている。そう思えることの心強さは私にとっては大切なもの。
今回は柏崎さんが一人で戦わなきゃいけないならそれは違う。だから柊くんを彼女のところへ行かせた。柊くんは優しいから絶対力になってくれる。安心して信じることが出来る私のかけがえのないパートナー。
だから私は彼に託された仕事をしっかりこなして信頼を深めないと。
「あの…ちょっといいかな?」
「えっと、紫ノ宮さん。どうしたの?」
クラスの女子に話しかけてみるがかなり驚いている様子。それも無理はないだろう。最近は乃愛ちゃんとしか同学年の女子とは話してないし、溝口さんから離れたことを不審に思っている人も少なくはないと思う。
「柏崎さんの選挙の立候補についてどう思ってる?」
「あー紗奈子の選挙の話か。うん、応援してる。だって二年生で生徒会長になったらすごくない?」
「そうだけど…えっと反対とかじゃないの…かな?」
「反対なんかしないよ!むしろすごいことでしょ。あっ紫ノ宮さんも応援してあげてね!それじゃあ!」
「うん。ありがとうございます。はぁ。」
なんか得られた情報は薄い。そりゃ友達だったら普通は応援するのかな。
私も乃愛ちゃんが同じ立場だったら応援するもんね…仮に友達だったらどうして応援出来ないんだろう。それによって不都合なことでもあるのかな?
「わわ…あっ…ごめんなさ…痛い…。」
振り返るとプリントの束を廊下にばらまいてしまった女の子が膝をついてプリントを拾っていた。どうやら人とぶつかってしまったみたいで少し元気が無いように思える。
そっと駆け寄ってプリントを数枚拾って差し出す。
「大丈夫?怪我とかしてない?」
「あ…ありがとうございます。先輩なんですね。」
「一年生なんだね。プリント多いね、少し持とうか?」
「い…いえ。拾ってくれるだけでも優しいのに…そこまで頼めないです…。」
静かそうな見た目の彼女は猫耳風の耳がついたフードパーカーを羽織っており、じとっとした可愛らしい目がぱっつんとした前髪のしたから見えている。
私の申し出を断る彼女は目をそらしてなかなかこっちを見ようとしてくれない。結構シャイなのかな。
そっと彼女の持つプリントを半分ほど持ち上げて笑いかける。そうすると彼女は驚いた表情でこっちを一回見て口元が緩む。
「先輩は強情な方ですね。」
「そこはありがとうでしょ。ふふ。どこまで運べばいいの?」
「あー同じ部活の先輩から運べって言われたから…たぶん顧問のところ…だと思います。」
「何部?」
「入る部活考えてたんですけど…これはバスケ部のです。もう辞めますけど…。」
「ああ。女バスなんだ…。」
運動部はそういう上下関係厳しいんだろうな。天文部はそういうのがなくて楽で私は助かっているけど…この子はまだ一年生始まったばかりで大変なんだろうな。
「先輩っていうのもあれなんで、嫌でなければ名前…教えてください…。」
「えっと…私?」
「それ以外いないですよね…。」
歳下に怒られるなんて思っても無かった。なんか私呆れられてる?いやでも年下と話す機会ないんだもん。仕方ないよね!
「あはは…ごめん。私は紫ノ宮だよ。あなたは?」
「私は……御子柴千夏。私の名前知ってもいいこと無いよ……。」
「じゃあ千夏ちゃんだね。よろしくね。」
「職員室まで荷物運んで貰うだけじゃないですか……でも悪い気はしませんね…紫ノ宮先輩。」
優しく笑い返して一緒に職員室に向かう。彼女は少し照れながら私の横についてくる。
私にとって一人目の後輩が出来た瞬間であった。手紙の差出人探しはひとまずの休憩になっていた。
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