俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

俺の前に天使が舞い降りた(主人公視点)

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  彼女に初めて会ったとき、天使ってもし実在したらきっとこんな感じだと思った。
  一言で言うと、一目惚れってやつだった。

「ヴィル。ベルのお嬢さんだよ」
「…………?」

  あのとき、恥ずかしそうにベルおじさんの後ろから顔を出した彼女に本気で一目惚れしたんだ。
  フワフワと風になびくプラチナブロンドの髪。
  光を受けて輝く紫水晶のような瞳。
  まさに天使。

「ティアナですわ」

  そう言って可愛くスカートのすそをつまみ、スッと挨拶をしてくれた彼女。
  くっ、声も可愛いとか反則でしょ。

「お、おれはヴィクトール」

  ティナは父さんの親友、ベルおじさんがある日俺に紹介したいと言って連れてきた。
  同い年だったこともあって俺たちはすぐに仲良くなり、天使な見た目に反してお転婆おてんばな彼女をつれ回してよく二人でイリーネおばさんに怒られたっけ。

「なあ、ティナ」
「なあに?ヴィル」

  ティナはいまよりずっとくだけた口調で、親しく話してくれた。
  そこがまた可愛いんだ!
  俺たちは父さんたちの真似をして愛称あいしょうで呼びあう仲だった。

  話は変わるが、俺んちみたいな貴族の子は、だいたい十歳になると親に婚約者を決められちまう。
  俺の言ってる意味わかる!?
  つまり、告白するなら今がチャンスといことですよ!

  人生最大の見せ場だぜ!
  今日はティナの大好きな俺んちの庭園で花畑をバックにムードはバッチリ!

「あの…………さ」
「ん?」

  がんばれ俺!
  そこでひざまづいてティナの手をとる!
  よし!

「ヴィル………?」
「ティナ。お、俺…:…、お前が好きだ。なにがあってもお前と離れたくない………。だから、俺と、結婚してくれ」
「ッ……!」

  ティナは息を飲んで黙り込んでしまい、俺たちの間にはほんの数瞬の間が生まれた。

  あれ?
  もしかして俺先走っちゃった?

  と、考えるくらいの間が。

「本当に………?ヴィル、本当に………わたしでいいの……?」
「ティナ」
「わたし、お転婆だし、わがままだし、他のお家の子みたいに上品じゃないし……」
「ティナ」

  わずかに震えていたティナの手をしっかり握りしめた。

「俺は、そのままのティナが好きだ。でも、俺たちはきっと今のままではいられないと思う。どんな風になったとしても、俺はティナが好きだ」
「ヴィル…………。ありがとう。わたしも大好き……」
「ティナ………」

  握りしめた手を引いて、俺はティナを抱き締めた。
  あ、そうだ。
  俺は慌ててポケットから腕輪を取り出した。
  ティナの瞳の紫色と、俺の瞳の藍色の石をちりばめた銀細工の腕輪。
  婚約のあかしとして互いに同じ腕輪を身につけるのがこの国の男女のならわしだ。

「ティナ、腕を出して」
「うん」

  シャラン…………

  それをティナの細い腕にめる。
  あれ、ちょっと緩かったかな。

「きれい……………。ありがとう、ヴィル」

  うっとりと腕輪を見つめるティナ。
  喜んでもらえたみたいでよかった。
  あ、あんまりじっくり見ないで!あらが目立つから!

  じつはコレ、父さんの知り合いの彫金師ちょうきんしのところで作らせて貰った俺の素人仕事。壊れないように、大事なところはちゃんと職人の仕事が入ってるけどね。


「カイさん、いる?」

  カランカラン……… 

  ドアチャイムの音がむなしく響く裏路地の職人街。
  一軒の工房をのぞいた半年前の俺。

「ああ?その声はヴィルか、入ってきな」
「おじゃまします」

  ちょっと埃っぽい工房の中に入ると、奥の扉の向こうで作業してるおっさん、カイさんがいた。

「カイさん、今ヒマ?」
「暇そうに見えるか?くそガキ。何の用だよ。チッ。そこ座ってちょっと待ってろ」
「うん」

  カンカンカンカンカン…… 

  規則的に金槌の音が響く工房。ザ、職人って感じでカッコいい。

「ふぅ…………」
「終わった?」

  カチャ………。

「ああ、大体な」

  机に金槌を置くと、汗をぬぐいながら振り向いたカイさん。父さんの古い飲み仲間の一人で、よくラルフさんの食堂で昼間から飲んでる。

「あれ、今日は飲んでないんだね」
「あぁ?俺がいつもいつも飲んでるみてぇに言うなや、そういうとこ、ホントにバルトのダンナそっくりだな」
「えっ、そう?」
「いや、誉めてねーから。んで?今日は何の用だよ」

  あ、いけない。
  目的を忘れるとこだった。
  せっかくこっそりやしきを抜け出してきたのに。

「あのさ、婚約腕輪を作って欲しいんだ」
「はぁ?」

  いや、そんなあからさまにずっこけなくても。

「お前今いくつだよ、今時のガキはませてんなー。十年はええぞ。あれか?三十路の独身男への嫌がらせか?」

  たしかに俺はまだ九歳のガキですがなにか?
  ていうか十年も待ってらんないよ。

「お金なら持ってきたよ。俺は本気なんだ、カイさん」

  見よ!お小遣いを貰えるようになってから四年かけて貯めた俺の全財産を!

  ジャラッ。

  カイさんは俺の差し出した皮袋の中身を取り出して数え、俺の顔を探るように見た。

「ガキにしちゃあなかなかまとまった金もってんじゃねぇか。仕方ねぇなァ。で?どんなんが欲しいんだ?」

  めんどくさそうな風にしてるけど、しっかり羊皮紙にペンを走らせてくれるカイさん。
  なんだかんだ、優しいんだよなぁ。

「えっと………」

  俺はできる限り具体的に、カイさんに希望を伝えた。
  紫水晶リーラと、瑠璃石テュルキスを使って欲しいこと、『夫婦の木』と呼ばれる、オリーヴァをモチーフにした銀細工をほどこしてほしいことなど……。
  ひととおり説明すると、カイさんは数分黙りこみ、俺の要望をメモした羊皮紙とにらめっこをすると、ため息をついた。

「………わりィが、この意匠いしょうだとこれだけの金じゃ一対いっつい作るんは難しいな。材料費がせいぜいだ。また金を貯めて出直しな」
「ええっ………でも、早くしないと……」
「なんでそんなあせってんだよ。そんなイイ女なのか?」
「ティナを他のやつにとられたくないんだよ!」

  からかう様な笑みを浮かべていたカイさんがふっ、と表情を変えた。

「んだよ、ティナかよ。やっぱお前ら婚約すんのか。ははっ、そいつぁめでてぇな!」
「ふぇっ?あ、ああ」

  ニカッ、と効果音がつきそうなとても嬉しそうな顔に。
  さらにぐしゃぐしゃと乱暴に頭をなでられた。なんなんだよ、もう。

「そうときたら気合い入れて……………っと待てよ。せっかくティナにやるんだ、お前作ってみるか?」
「え?ええ!?」

  ちょ、話の展開が早すぎてついていけない!

「大丈夫だろ?お前器用だしな!なあに、難しいとこは手伝ってやるから!」

  まじかぁぁぁぁぁ!?

「それに、俺の経験から言って、女は手作りに弱いぞ」
「そ、そうなの?」
「ま、三十路の独身が言っても説得力ねーだろーけどな!ははっ!」

  と、まあなんだかんだそんな感じで手作りすることになって、半年かけて作れたのがコレというわけで。
  まあ、なんとか見れるようにはなった。かな?

  と、まあそんなプロポーズからはや二年、俺たちは十一歳になった。
  え?婚約は許しを貰えたのかって?
それがさ、驚いたよ。
  プロポーズのあと、土下座する勢いで父さんとベルおじさんところにティアナと二人で行ったんだ。
  そしたら、

「なんだ、余計なお世話だったようだな」
「そうだね」
「え?」

  じつは、父さんたちは俺たちが初めて会ったときから、婚約をわすことを前提に俺たちを会わせてたらしく、俺たちが社交界デビューする十一歳の年に婚約発表する予定だったそうだ。
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