俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

そう言えば子供の時から最悪な奴だったよ(主人公視点)

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  十歳で正式に婚約式を済ませた俺とティナ。
  今夜は婚約者同士として、父さんたちと一緒に王城に来ている。
  なんでも、俺たちと同じ歳の第一王子殿下の御披露目おひろめパーティーらしい。
  婚約発表して、陛下から騎士爵位きししゃくいたまわった俺と、    婚約者であるティナは成人と同等の扱いでその末席まっせきに加わっていた。

「ティナ、大丈夫?疲れてないか?」
「う、うん。大丈夫」

  パーティーも進み、そろそろ末位まつい騎士爵きししゃくである俺たちが殿下と言葉をわす番になりそうな時だった。
  俺は隣で一生懸命ニコニコと笑顔を振りまいているティナを気遣った。
  ティナは大丈夫とは言うけど、疲れてそうなのがわかった。
  あー、早く帰りたい。
  まじでそう思ってた。

「お前が最後か」

  と、思ってたらやっと番がまわってきたみたいで、殿下が話しかけてきた。
  殿下も疲れてそうだ。
  お疲れさん。

「はじめまして、殿下。お目にかかりまして光栄に存じます。私、ヴィクトール・アードリゲ・ヴァイゼ・コールと申します。先日婚約しまして、騎士爵きししゃくたまわりました。彼女が私の婚約者です」

  すっ、と、互いに腕輪をめている手を握りしめ、緊張しきりのティアナを引き寄せ、少しだけ前に出す。

「………は、はじめまして、殿下。わたくし、コール騎士爵きししゃく様の婚約者で、ティアナ・アーデル・フェヒター・ヒルシュと申します」

  と、これで殿下から一言くらい言われて、俺たちは下がる筈だった。
  しかし、

「……気に入った」
「ぇ?」

  ガシッ!

  あろうことか、殿下は挨拶をしたティアナの腕を掴んでデカイ声でとんでもない事を言い出した。

「お前のような美しい女こそ俺にふさわしい!俺の婚約者にしてやる!」

  ………………はい?

「殿下!?」

  その場の空気が一瞬で凍りついたのがわかったね。
  だってさ、いくら第一王子だからといって、公式に認められた婚約を交わした相手がいる令嬢にむかって『俺の婚約者にしてやる』はないよ。
  目の前に俺という婚約者がいるのにだよ?
  大丈夫かよ、この殿下。

「ティアナはすでに私と婚約しております!ご冗談はおやめください!」
「だまれ!それがどうした!俺は第一王子だぞ!」

  はぁ?
  だからなに。
  いいからティアナの腕を離せコラ。

「お前の婚約者だなどと!知ったことか!」
「なっ…………!」

  オイコラ、その辺にしとけよバカ殿下。
  あっちから恐いおじさんたちが近づいてきてるぞ。

「ふん、こんなオモチャのような腕輪など!こうしてくれるわ!」

  ブチッ!

「ッ!!」

  カシャン…………

  うわ、このクソ殿下、俺がティアナにあげた婚約腕輪を引きちぎりやがった。
  くそう。
  やっぱりもろかったか!

「お、おやめくださいッ!」
「ははっ!こんなもの!こうだ!」

  グシャッ…… 

  俺の目に、スローモーションで殿下がティアナの腕輪を踏みつける映像が刻み込まれた。
  そんなことをされれば、もちろん、柔らかい銀製の腕輪は見るも無惨むざんに変形してしまう。

「いやああ!やめて!」

  ティアナが泣きながら殿下の手を振り払おうとする。
  俺はショックで膝に力が入らなくって、無惨むざんに壊された腕輪をただただ見下ろすしかできなかった。

「殿下!おやめください!!」

  そっからさきは正直よく覚えてないんだけど、父さんとベルおじさんがなんとかその場をしのいでくれ、俺は泣きながら腕輪を握りしめてやしきに帰った気がする。



「カイさん!!」

  ドンドン!!

  俺はたしかその日のうちにカイさんの工房に走ったはず。
  とにかく腕輪を直さないと。
  そればっかり考えてた。

「カイさん!」

  でも、その日は運悪くカイさんは早めにラルフさんの食堂に行ってしまったらしく、工房は留守だった。
  俺は迷わず食堂に走り、いつものようにカウンターに陣取ってたカイさんに泣きついた。

「うぉ!?どうしたヴィル!?」

  突然食堂に飛び込んでカイさんにタックルよろしく飛び付いた俺。
  もうパニックで自分でも呆れるくらい泣きながらカイさんに訴えたのはよく覚えてる。

「うぁぁぁぁん!助けてカイざぁぁぁぁん!」
「お、落ちつけヴィル!何がどうした!?」
「うっ、うぇっ………、カイざぁん………。腕輪が………」
「腕輪が………?」

  シャラッ………

「ッ!!!」

  俺は涙でぐしゃぐしゃになりながら、カイさんに『壊された』ティアナの腕輪を見せた。

「お、おい!なんだこれ!いったいどうしたらこんなことになんだよ!」
「はやくなおしてぇぇ!ティナが!ティナがぁ!」
「ヴィル!ちょっとまてって!頼むから落ちつけ!」

  俺はただただ、腕輪を直して欲しい一心だった。これが直らないと、ティアナが殿下のところに行ってしまう。
  なせがそう思い込んでいた。

「カイ、てめぇも落ちつきやがれ」
「おい、ヴィル坊。泣くな」
「ヴィル君、一回、深呼吸しようか、ね?」
「ヴィル、大丈夫だから、アタシたちに何があったか教えて?」

  そうしたらいつのまにか、マスターのラルフさんとか、給仕のエラさんとか、常連のおっちゃんたちとかがわらわらと俺を囲んでいた。

「うっ………、ひっく………」

  本来、貴族社会とは関係ない彼らに、殿下にされたことを話すべきじゃなかったのかもしれない。
  でも、そのときの俺は気が動転してて、皆にうながされるがまま、事の次第を話し、真剣な顔で『必ず直してやる』とカイさんが約束してくれたことに安堵あんどした。

  その日は、結局父さんが迎えにきてくれて帰ったらしいけど、情けないことにちっとも覚えてない。
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