俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

今やすっかりトラウマですが何か(主人公視点)

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「直ったぜ」

  俺が次に覚えてるのは、カイさんが約束どおり直してくれた腕輪を、わざわざやしきに持ってきてくれた三日後からのこと。
  いやーー。
  マジ悪夢。
  思い出したくない。
  え?知りたいの?
  しょうがないなぁ…………。



「父さん………。今なんて?」

  それは、早速直して貰った腕輪をティアナに届けようとした俺を止めた父さんの言葉から始まった。
  俺の人生最大の悪夢だった。
  いや、夢だったらどんなによかっただろう。

「ティナちゃんとの婚約は無かったことになった」

  しかし、父さんははっきりとそう言ったのだ。

「な……んで?どうして!!?」
「ッ!?ごめん………。ごめんねヴィル」
「謝ってなんて言ってないよ!!どうしてって言ってるの!理由を教えてよ!」

  父さんは膝を折り、わめくしかない俺は八つ当たり気味に父さんの上着を掴んで乱暴に揺さぶる。
  本当は分かっていた。
  当時からあのバカ殿下のワガママは有名だったし、まつりごとに関しては賢王だが、殿下に対してはただの親バカな陛下。
  殿下が『欲しい』とか『こうしたい』と言ったことは、なかば無理矢理にでも叶えられてしまうことを。

「………陛下のご命令でね。ティナちゃん………いや、ティアナ嬢とお前との婚約を無かったこととし、ティアナ嬢を第一王子殿下の婚約者とすると……」
「嘘だッ!!」
「嘘じゃないよ。ヴィル。辛いだろうが受け入れておくれ。みんな、父さんが悪いんだ、恨むなら、父さんを恨みなさい」
「そんな…………!そんなバカな………!うぁぁぁぁあああああああ!!」

  俺はそれから、部屋に閉じこもって泣きまくった。一生分泣いたんじゃないかってぐらい泣いた。
  一人になりたかった。
  父さんややしきのみんなに、八つ当たりしたくなかったから。

「ヴィクトール様、お食事を召し上がってください……。せめてお飲み物だけでも………。お体を壊してしまいます……」
「いらない」
「ヴィクトール様………」

  執事長しつじちょうのコンラート、侍女頭じじょがしらのエルザ、料理長りょうりちょうのブルーノ、果ては庭師にわしのレオンまで、やしきのみんなが入れ替わり立ち代わり俺のところへやってきた。

「ヴィクトールぼっちゃん。ぼっちゃんのお好きな檸檬ツィトローネのパイを焼きましたよ」
「いらない」
「ぼっちゃん………」

  泣き疲れてガラガラの声で短く答えるしかできない俺は、こんなことしてもティアナは二度と俺のもとには帰ってこないと、分かっていた。

「若様、少しカーテンを開けて、庭を見て下せえ。桜草プリーメルが今年も綺麗に咲きましたよ」
「………見たくない」
「若様………」

  一日、二日と日を重ねるうち、父さんは一度も俺のところへ来てはくれなかった。
  きっと、怒ってるんだろう。
  こんなバカな事をしている俺に。
  そう、思ってた。

  そして三日目に、俺は意識を失った。

  扉越しの問いかけに何も返答がない事を不審に思ったレオンがおのを持ち出して扉を無理やりぶち壊してくれなかったら、たぶん俺はそのまま死んでたんだろう。
  思えば、バカな事をした。
  今ではそう思う。
  でも、ああするしか、あのときの俺には気持ちを整理する方法がなかったんだ。


  それから五年、俺はティアナの事を学院で見かける度に言い知れない胸の痛みを感じて過ごし、筆頭公爵家の嫡男ちゃくなんにも関わらず、学院を卒業する十六歳になっても婚約者を決められずにいた。

  そして、卒業パーティーで今回の事件が起こった。
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