俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

可愛い息子もそんな年頃になりました(父親視点)

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「ベル、たしかお前のところ、小さい娘が居るよね」
「ん?ああ。今年で五歳になる末の娘がな。それがどうかしたか?」

  その日、私より数年先に公爵位を継いだベルと、久しぶりに下町の食堂でんでいた。
  ここは店主も、常連客もみんな馴染みで気を使わなくていいのが気に入ってる。

「うちの息子の、嫁にくれないかい?」
「それは俺としても願ったり叶ったりだが……。いいのか?」

  本当なら、こんなカウンターで呑みながら話すことじゃないけど、私もベルも、ここの方が腹を割って話せる。
  何を話しても、ここの連中は気にしないし、聞いてても聞かなかった事にしてくれる。

「いいも悪いも、私がお願いする立場なんだからさ」
「そうか、じゃあ今度娘を連れて顔を見せに行く」
「うん、待ってるよ」

  カラン………

「おい、バルト。ヴィルはもうそんなにでかくなったのか?この前連れて来たときはまだチビだった気がしたが」

  おや、珍しい。
  マスターが私たちの会話に口を挟んで来るなんて。

「ヴィルは今年で五歳になったよ。おかげさまでね」
「五歳?そんな小さいガキの結婚の話をしてんのか?ずいぶんと気の早い話だなァ」

  マスターは手元をせっせと動かしながら話をしている。

「マスター。私たち貴族の間じゃ普通だよ、だいたい十歳で正式に婚約するんだ」
「特に嫡男ちゃくなんともなればな」
「おうおう、大変だなァ。お貴族サマは。おら、水割りお待ちどうさん」

  どんっ。
  と、目の前に置かれたジョッキ。
  私が注文してた水割りだ。

「ありがとう」

  さっそく一口。

「しかし、珍しいな。マスターが俺たちの会話に入ってくるとは」
「ガラにもなく気になっちまってよ、特にヴィルはな、俺にとっても息子みてぇなもんだしな。ほら、ロックお待ちどうさん」

  今度はベルの前にロックが出される。
  もう何回目かわからないけど、ベルとグラスを合わせてまた一口。

「息子って………。孫の間違いだろう?マスター」
「あァ?んだとコラ。そのジョッキ寄越せや、水増やしてやる」
「ぁあ~!そ、それだけは!それだけは勘弁して!」

  水の入ったピッチャーを私のジョッキに近づけないで!

「ガハハハ!マスターやれやれ!相変わらずの減らず口だなバルト!」
「ちょっ!あおるな!ベル!自分だけしれっと呑んでないで助けろ!」
「自業自得という言葉を知っているか?」
「ベル~!」

  酒を呑んで。
  バカな話をして。
  大声で笑いあう。

  私にとってそこはとても、心安らぐ場所だった。




「ヴィル。ベルのお嬢さんだよ」

  それから数日後。
  約束どおりベルは娘をつれて我がやしきを訪ねてくれた。
  ひょこっと、ベルの足元から顔をのぞかせた彼女は、なるほどたしかに、日頃ベルがデレデレに自慢するのが分かる美少女だった。

「ティアナですわ」

  ちょこん。と、可愛いらしい仕草で挨拶をしたベルの娘。ティアナ。 
  さてさて、うちの子はどうかな?

「お、おれはヴィクトール」

  おや、珍しく緊張してる。

「ヴィル。ティアナちゃんはお前と同じ歳だ、優しくエスコートしてあげなさい」
「う、うん。父さん」

  それから何回か二人を会わせる度に、私は言い知れぬ違和感を感じていた。
  何故だろう。
  二人は仲良く遊んでるし……。

「バルト。ちょっといいか」

  中庭で楽しそうに遊んでいる子供達を呑気に眺めていたら、ベルが恐い顔で呼ぶもんだから何事かと思った。

「ヴィルは、お前の前では泣くのか?」
「はぁ?」

  なにそれ。
  唐突になんなのさ。

「真剣な話だ。どうなんだ?お前の奥方が亡くなったときとかはどうだったんだ?」
「ナディアが………死んだとき………?」

  あんまり真剣な顔で言うもんだからよくよく思い返してみると、あのとき、泣いていたのは私ばかりで、あの子は泣くどころか私をなぐさめてくれたくらいだった。
  と、言ったら…… 

「やはりか。あの年頃の子供にしては子どもらしさがないと思っていたんだ」
「何が言いたいんだい?ベル」
「バカ。お前は父親のくせにわからないのか、子どもが親の前ですら泣かないということの異常さが
「異常…………だって……」
「ああ、異常だ。加えてヴィルはおおよそ子どものように我がままを言ったり、甘えてくる事もない………。そうだろう?」

  ヴィルを異常と言われてちょっとカチンときたけど、確かに、ヴィルと同じ歳の筈のティナちゃんはよくベルにだっこをねだったり、転んだだけで泣いたり………………。
  あれ?
  もしかして、それが普通なのか?

「やっと気づいたか」

  よくよく思い返してみても、ちゃんと思い出せる三歳のときからみても、あの子が私に我がままらしい我がままを言ったことはないし、笑うことはあっても、泣くことはなかった。
  転んでも、それこそ母親が亡くなっても……………。

「なんで…………、馬鹿だな私は………、なんで今まで気づかなかったんだ………」
「比較する対象がなかったからだろう。ただの聞き分けのいい子どもとしか思ってなかった…………。違うか?」

  正直、そうだ。
  自分の都合のいいように、ヴィルの子供らしからぬ異常な言動を解釈していた。
  落ち込む私に、ベルは容赦なく言った。

「しっかりしろバカ野郎。そんなことで、ヴィルが泣いたり、我がままを言ったとき親として受け止められるのか」

  親として………。
  受け止める……………。

  ぐっさりとベルの言葉が私の心に刺さった。
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