俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

あれ、もしかして生死の境さ迷っちゃってる?(主人公視点)

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  それはとても懐かしい夢だった。

「なにやってんの。夕飯できたって」
「ちょっ!お兄ちゃん!乙女の部屋にズカズカ入って来ないでよ!」
「芋ジャー着てゲームにいそしんでる女を乙女とは呼ばない」
「ひどっ」
「はいはい、で?また何のゲームやってんの」

  俺はしがない社会人ゲーマーで、妹はゲーマーで夢女子な高校生だった。

「乙女ゲーってやつだよ。お兄ちゃんはわかんないだろうけど」

  そう言いながら妹が見つめている画面の中では、キラキラしたイケメンが微笑んでいた。
  うん。たしかによく分からない。

「なにこれ」
「初回生産限定小冊子。あたしこのイラストレーターさん好きで、わざわざ発売日に並んだんだから」
「へー」

  俺は当初の目的はすっかり忘れ、妹の手元に置いてあった小冊子を手にとる。

「へぇ。この娘可愛いじゃん。ヒロイン?」

  パラパラとめくっていくと、不思議と目が止まったページがあった。
  そこには、薄く紫がかったプラチナブロンドに、透き通った紫の瞳の、綺麗きれいな少女のイラストが。

「ええ?お兄ちゃん趣味悪い。それ、悪役令嬢だよ」
「悪役令嬢?なにそれ」

  俺は聞きなれない単語に首をかしげた。すると妹はため息とともに俺が持っていた小冊子を取り上げると、ご丁寧に解説をしてくれた。

「主人公はこっちね。デフォルト名はマリアンネ。マリアンネ・アーデル・オーベル。男爵令嬢だんしゃくれいじょうなの」
「男爵令嬢ときたか」

  つらつらと語られる、妹によるによれば、この乙女ゲー『Liebeリーベ~真実の愛を探して~』は、中世ドイツ風の異世界を舞台にした恋愛シミュレーションで、ヒロインは男爵令嬢として貴族や王族のみが通う学院に入学する。
  そこで、王子や貴族の子息達と恋に落ち、親に決められた婚約ではない真実の愛を探す、という物語だそうだ。

「でね、この悪役令嬢、ティアナ・アーデル・フェヒター・ヒルシュって言うんだけどね。四大公爵家だかなんだか知らないけど、このゲーム一番人気の攻略対象、アルベルト王子の婚約者でね、事あるごとにヒロインに嫌がらせをしてくるの!」

  つまり、ヒロインの恋路を邪魔する役どころの令嬢を、悪役令嬢というらしく、このゲームでラスボス並みに手強てごわいライバルとして現れるのが、彼女、ティアナという訳だ。

「で?今画面に映ってるイケメンは?」

  妹の講釈に素直に耳を傾けていた俺が、ふと指をさした先には、さっきの金髪イケメンとは違う、黒髪のイケメンが。

「この人はね、隠し攻略キャラらしいの!でもね!この悪役令嬢の幼馴染みとかで、あっちの味方なの!!」
「へえ。男でも敵キャラとかいんの」
「悪役令嬢の味方だったけど、ヒロインの優しさに救われて恋に落ちるとかいうオチよ!ま、あたしはアルベルト様派だけどね!」
「あっそう」

  妹から再び渡された小冊子をめくっていくと、最後のほうに黒髪イケメンの名前とイラストと簡単な説明だけがっていた。

ヴィクトール・アードリゲ・ヴァイゼ・コール
四大公爵筆頭、コール家の嫡男ちゃくなん

  とだけ。

「必ずティアナをざまぁして、アルベルト様をゲットするんだから!」
「頑張れ」

  結局、元の目的を綺麗サッパリ忘れた俺は、母さんが怒って怒鳴り込んでくるまで、妹のゲームを見守っていた。
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