俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

彫金はあくまで趣味なんで(主人公視点)

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  採寸を終えたユリウスさん達を見送ると、ほどなくしてまたクリフが来客を告げた。
  忙しいな。
  まあ、自分たちの事で皆が動いてくれてるんだから、俺たちはされるがまま、流されるしかないんだけど。

彫金師ちょうきんしが参っております。お通ししてよろしいでしょうか」

  彫金師ちょうきんし………、カイさんか。

「ああ、構わない。通してくれ」
「かしこまりました」

  ティナの手を借りて起き上がり、上着を羽織らせてもらう。
  なんせ、トビアス先生に『左腕に絶対負担を掛けるな。傷口が塞がらなかったら、二ヶ月後の式はできんと思え』と、厳命されているから、人の手を借りざるを得ない。
  情けない有り様だけど、仕方ない。

「失礼致します」
「よっ、ヴィル。ティナ」

  クリフに連れて来られたカイさんは、いつもの顔で気軽に挨拶をしてくれる。

「お久しぶりです。カイさん」
「おう。久しぶりだな。今日は一応、手直しする腕輪の具合を合わせに来た」

  カイさん仕事早っ!
  つか父さんホントに昨日の今日でどんだけ話進めてんの!?
  本気だ………、父さん本気だよ………。

「ありがとう、カイさん。無理を言ってごめん」
「いいってことよ。他ならぬお前の為だ、無理してでも間に合わせてやる」

  シャラッ…… 

  カイさんはそう言いながら、鞄の中から木箱を取り出して、俺の作った婚約腕輪を出した。

「それ………」

  ティナがぽつり、声を溢した。

「覚えてる?」
「もちろん………、覚えてるわ」

  銀細工に瑠璃石テュルキス紫水晶リーラ、七年前に作った婚約腕輪。
  毎日、俺の執事が磨いてくれていたから、輝きは失ってないが、改めて見るとやっぱり素人仕事感が半端ないな。

「懐かしいなぁヴィル。俺ぁ未だにお前が工房に来た時を昨日のことみてぇに覚えてるぜ」 
「俺もよく覚えてるよ、あのとき、カイさんに無理を言ってこれを作らせて貰ったんだよな」

  我ながら我がままを言って無理を通したなぁ。
  よくよく考えてみれば、これだけの質のいい素材。あれだけの金じゃ足りなかっただろうに。

「ははっ。あのときは弟子ができたみてぇで楽しかったなぁ!どうだ?貴族なんかやめて職人やらねぇか?」
「ははは……。そういう訳にはいかないよ、俺も彫金ちょうきんは好きだけどさ」
「ちょ、ちょっとまって」

  俺がカイさんと思い出話に花を咲かせていると、ティナが話に入ってきた。

「ん?」
「なに?ティナ」
「あ、あの………、その、婚約腕輪って……ヴィルが作ったの………?」

  俺とカイさんは思わず顔を見合わせていた。俺は、まさかこんな素人仕事だから当然気づいてるものだと思っていたから。カイさんはおそらく、お前言ってなかったのか、と思ってるんだろう。

「………そうだよ」
「そ、そうなの!?すごいわ!私てっきりカイさんが作って下さったんだとばっかり……」

  いや、ティナそれカイさんに失礼だから!こんな粗だらけの細工、カイさんの神がかった細工と一緒にしたらいけない!

「ヴィルよぉ、俺、渡すときに言えっつっただろが『これ俺が作ったんだぜ』で落ちねぇ女はいねぇって」
「いや……、まさか気づくと思ったんだよ、カイさんの作ったものには全然及ばないし……」
「おいこら、そりゃ嫌味か?まったく………、お前はどうしてそう自分の評価が低いんだ?はーっ、もったいねぇ、バルトのダンナの跡取りじゃなかきゃ、本気で弟子に取って鍛えてえのによ」
「買いかぶりすぎだよカイさん……」

  彫金ちょうきんは未だに俺の隠れた趣味だし、当時教えてくれたカイさんには本当に感謝してる。

「ふふっ。ごめんなさいヴィル、気づかなくて……」
「あー、いや!いいんだよ!俺が恥ずかしがって言わなかったのが悪いんだから!」
「ヴィル、いっそ婚姻腕輪も自分で作ってみるか?」
「冗談やめてよカイさん! 」

  それこそ父さんになんて言われるか……!

「ははっ。残念だなぁ、仕方ねぇ弟子は諦めるかぁ。結構本気なんだけどな……」
「もー、カイさんたら………」

  でも相変わらずのカイさんにちょっとほっとしたのも事実だ。ティナもちょっと笑ってくれたし。

「やれやれ………これ以上騒がすとトビアス先生に絞められっからな。仕事すっかな。さーて、二人とも腕を出してくれるか、これの留め金を調整すっから」
「はい」

  十一歳のときに作ったから、この歳になると留め金の位置がきつくて、はめられなくなってしまった。
  手首って、太くなるんだなぁ。

「よし、ティナはこれで大丈夫だな。おら、ヴィル、腕かせ」

  腕を、と言われて一瞬俺は躊躇ためらった。
  婚姻腕輪と婚約腕輪は、利き手では日常動作で邪魔になるので、利き手とは反対に付ける。
  まあ、冷静になれば、右と左で腕の太さは多分変わらないだろうから自由が利く右腕を出せばよかったんだけど、、、

「ヴィル?」
「あっ……、ごめん……」

  俺は無意識に、左腕をだそうとした。
  これから利き手として使うのは右手だからとか、一瞬で色々考えてしまったのだ。

「ほら、腕かせ、腕」

  でも、左腕はもちろん動かない。
  そんなこんなでまごまごしているのを察してくれたのか、カイさんは俺の右腕をとった。

  シャラッ

「うーん。お前のはやっぱ調整がいるな」

  銀の婚約腕輪は、あのときと遜色そんしょくない。
  窓からの日差しに照らされてキラキラと輝いていた。

「よし、婚約腕輪は留め具を調整すれば大丈夫だな。あとは婚姻腕輪だが、これはバルトから意匠を指定されてるからな。仕上がりを楽しみにしててくれ」

  くしゃり。

  と、カイさんは俺の頭を乱暴に撫でると、そう言い残して帰っていった。

「ふぅ………」
「大丈夫?ヴィル」
「あ、ああ。大丈夫だよ、ティナ」

  思わずためため息がもれた。
  知った顔ばかりとはいえ、こう立て続けに来客があるとさすがに少し気疲れする。

「失礼致します」

  と、そこへ、ものすごくいいタイミングで、クリフがお茶を持ってきてくれた。
  ナイスタイミング!
  ベルおじさんが許してくれれば引き抜きたいくらい将来有望!

「ありがとう、クリフ」
「畏れ入ります」

  側に控えていた侍女のコリンナがサイドテーブルをベットの脇につけてくれ、クリフがお茶の支度をしてくれる。
  ティナが、さっきまでカイさんが腰かけていた椅子に座ると、二人一緒にカップを手にとった。

「ふう………」
「美味しい………」

  一口喉をとおると、俺は安堵あんどのため息を、ティナは感嘆かんたんのため息を吐いた。
  お茶美味い。
  本気で引き抜きたい。
  いや、俺の執事に不満があるわけじゃないよ?
  ただ、ちょっと過保護すぎて、クリフみたいに淡々とした人が周りに欲しいだけ。
  父さんを筆頭に、やしきの皆は俺に甘すぎる。と、思う。

  コンコンッ

  とか考えながらお茶を飲んでいたところへ、またも扉を叩く音がした。
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