俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

本日三人めの来客です(主人公視点)

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※一部にグロ描写あり※

「どうぞ」
「失礼致します。ヴィクトール様。トビアス先生がおみえになられました」

  本日三人目の来客だ。
  クリフはさっとティーセットを下げてくれ、サイドテーブルをコリンナが素早く拭いてくれた。

「よう、ヴィル坊。包帯と薬の交換に来たぞ」

  そのテーブルにトビアス先生はドスン!
  と重たそうな黒い鞄を置いて、ティナが座っていた椅子にドッカリと腰を下ろした。

「ティナちゃん、ちょっと席を外してくれるか」

  ティナがさっと寄ってきて、上着を取り払ってくれた。
  それを見てトビアス先生はすまなそうにそう言った。
が、

「いいえ先生、お気遣いなく。私はヴィクトール様の妻となる女です。夫の側を離れることは致しません」

  ぎゅっと、ティナがドレスを掴むように拳を握りしめた。

「……………ティナちゃん。今回の怪我はガキの頃の怪我とはわけが違うんだぜ?」
「承知しております………」

  しばらくの沈黙。
  トビアス先生とティナがにらみ合うように見つめあう。
  すごい緊張感なんですけど。

「やれやれ………。しょうがねぇなぁ…………、後悔すんなよ?」

  時間にして数秒だったか、二人はにらみ合い、最初に動いたのはトビアス先生だった。
  トビアス先生はふいとティナから目を離すと、鞄を開けた。

「おら、やるぞヴィル坊。服脱げ」

  さっと、クリフが側に寄ってきてシャツを脱ぐのを手伝ってくれる。
  いつの間にか窓は薄いカーテンが引かれ、ベッドの周りには衝立ついたてが立てられていた。
  みんな仕事早すぎ。
  そうこうしてるうちに、シャツははだけられて、包帯だらけの上半身があらわになると、ティナの顔が険しくなった。 
  トビアス先生はチラリとそれを視界に入れたみたいだったけど、表情を変えなかった。

「…………」

  俺は横になり、トビアス先生は黙々と、血で赤黒くまだらに染まった包帯を外して、ようやく出血の止まった左腕の傷を容赦なく拭って薬を塗り直して新しい包帯を巻いてくれる。
  ざっくりと裂かれた傷口は、刺繍糸みたいな黒い糸で縫合されていて、見た目結構エグイ。

「……………これは……」

  え?なに?
  そんなひどい?

「………先生……?」
「あ?いや、なんでもねぇ、おら、次肩処置するぞ」
「はい」

  先生は腕の傷を見て顔をしかめたが、すぐに表情を変えた。
  左腕はぶっちゃけ感覚ないからさ、どんな処置されても大丈夫なんだけど。腕の付け根から上は感覚があるからさ、肩の傷の処置は正直痛い。

「………触るぞ」

  包帯を外すくらいならいいんだよ、血で固まったところを剥がすときちょっと痛いくらいだからさ。
  それでも怪我した直後より痛いのはだいぶマシになった。先生の処置がいいおかげなんだろうなぁ。
  
「…………」

  また、先生が傷口を見て動きを止めた。
  なに?
  どうしたの先生?

「…………ヴィル坊、痛みはどうだ?」
「えっ……、あ、だいぶ無くなりました………、動かさない様にすればほとんど痛まないです」
「そうか………ならいいんだか……」

  先生は相変わらず難しい顔をしている。

「血を拭くからな、少し我慢しろ」
「っ!いっ………!うきぎ………!」

  傷口はちゃんと清潔に保たないといけないのは元日本人としてわかってるつもりなんだけどさ!
  痛いもんは痛いよね!

「……………ッ!!」

  ティナが口元を手で覆って震えている。
  きっと、この傷口を見て叫びそうになったのを必死で堪えてるんだろう。
  まあ、これは酷いと俺も思う。エグイなんてもんじゃないからね。
  切られた傷口、ぐちゃぐちゃで縫合できないらしくて、けっこうグロい。
  だいぶ塞がってはいるみたいなんだけど…………。

「ヴィル坊、しっかりしろ。もう少しだ」

  油汗止まらんっっ!
  トビアス先生頼むから早く終わらせて!

「うっっ!ぐぅ………!っ……!」

  傷口に薬を塗り直され、再び包帯で覆われてようやく、俺はほっと息をついた。
  あー、しんど。 

「ヴィル坊、しっかりしろ。おい」

  おっと意識飛んでた。

「……………っ」
「よく耐えたな。終わったぞ」
「はい……。ありがとうございました」

  すかさずクリフが額の汗を拭ってくれ、静かに体を起こしてくれた。
  コリンナが新しいお湯を張ったたらいを持ってきて、暖かい濡れタオルで体を拭いてくれる。
  助かる、こんな有り様だから風呂も入れないし。

「よし、じゃあ俺は帰るぜ、また明日も診察に来てやるからな。大人しくしととけよ」
「はい」

  トビアス先生はそう言い置いて慌ただしく帰って行った。
  きっと忙しいんだろう、先生は王都でも指折りの施療師せりょうしだし。

「失礼致します」

  新しいシャツに着替えた俺の傍らに再びお茶が出され、ほっと一息。
  が、俺と同じくカップを手に取ったティナは、口を付けずに湯気を見つめていた。

「…………ティナ?」
「ッ!!」

  俺が声を掛けるとティナははっとして慌ててカップに口をつけた。
  なに考えてたかは大体想像つくけど……。

「ティナ、大丈夫?」
「ヴィル…………、ごめんなさい…………」
「ティナ、なんで謝るんだよ」
「貴方の傷を見たら………怖くなったの…………、怖くて、怖くて、貴方を切りつけたときの殿下の表情を思い出して………」
「ティナ」
「貴方の妻として失格だわ………!私………怖くて逃げ出したくなった…………!貴方が怪我をしたのは……私のせいなのに…………!」
「ティナ!」
「!?」

  俺は混乱しているらしいティナの肩を掴んで、思わず声を荒らげていた。

「ティナ、言っただろう!?これは俺のエゴなんだって!誰のせいでもない!俺のせいだ!」

  呆然とするティナの頬に指を滑らせる。

「ティナ?」

  つうっと、ひとすじの涙が俺の指を濡らしたと思ったら、あとからあとから溢れてきて、止まらなくなった。

「ごめん……なさい………」
「だから謝るなって、ティナ」

  俺がいくらそう言っても、ティナの涙は止まるどころかさらに溢れてくる。
  そんな顔をさせたいわけじゃないのに………。

「ごめん…………なさい………」

  謝って欲しいわけじゃないのに………。


  しばらく静かに泣いて、ティナはやっと落ち着いたようで、コリンナを伴って化粧を直しに部屋を出て行った。

「……………」

  後に残された俺は、少し横になることにした。
  クリフの手を借りてベッドに横になるとすぅっと眠気が襲ってきた。
  体が妙に重たくなって、いつの間にか俺は眠りに落ちていた。
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