俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

私が代わってあげられたら………(父親視点)

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  再び、ヴィルは眠りについた。その顔は蒼白に近く、眉をしかめた表情から浅い眠りであろうことが察せられた。
  重い沈黙。
  それを最初に破ったのは、トビアスだった。

「バルト、ヴィル坊の傷は誰にやられた?」
「………」
「腕の傷は綺麗にスッパリだが、肩の傷はひでぇもんだ。力任せに刃を叩きつけたみてえに傷口がぐちゃぐちゃだ。切られた挙げ句、蹴られたか、殴られたか?」

  さすがはトビアス、ヴィルが怪我をした経緯を知らないとは思えないほど、的確な推測をしてきた。
  王都で随一の施療師と言われるだけはある。

「………」
「俺には言えねぇってか、まあ、その態度でだいたい想像つくがな」
「…………想像に、お任せするよ」
「ああそうかよ」

  トビアスは私を睨んで来たが、すぐに苦しげに寝息をたてるヴィルに目を落とした。

「トビアス………、ヴィルの腕は………もう……」
「もう動かないとは、俺は言わねえぞ。たとえ一粒の可能性しかなくても、それに全力を尽くすのが施療師のつとめだ」
「トビアス………」
「バルト、てめぇはヴィル坊の父親だろうが、誰が一番痛い思いをして、辛い思いを耐えると思ってんだ。ヴィル坊だぞ。一番身近にいるてめぇが、そんな後ろ向きでどうすんだ」

  トビアスは厳しい言葉を吐きながら、ヴィルの額に浮いた汗を拭う。

「トビアス………、麻酔をつかうことはできないのか」

  そのあまりに痛々しい様子に、私は思わずそう言っていた。

「できるか馬鹿。麻酔薬が何で出来てるか教えてやろうか。主成分は朔埜草アルコキーネだ」
朔埜草アルコキーネ…………、毒草じゃないか……」
朔埜草アルコキーネの毒は主に麻痺だ。その強い麻痺毒性が沈痛作用に利用できるんだよ」

  相変わらず手を止めないトビアスは、テキパキとヴィルに氷嚢をあてがう。

「俺の言いてぇことがわかるか?裏を返せば毒薬にもなる劇薬を、一日にそう何度も使えねぇんだよ。まして、薬は施薬師せやくしの領分だ、そのなかでも群を抜いて劇薬の麻酔の使用は特に厳格に管理されてる。俺ひとりの判断で易々と使える代物じゃねぇんだよ」
「…………そうか………」
「痛みを無くすのは簡単だがな、痛みを感じねぇと治りもおせぇ。今は痛みを耐えさせなくちゃならねぇんだよ」

  トビアスの言うことは筋が通っている。
  だが………、どうにか痛みを軽くしてやれないものか………。

「……………少し、ヴィルと二人だけにしてくれないか…………」
「あぁ?」

  私がそう言うと、トビアスは盛大に顔をしかめたが、

「……分かった、俺たちは少し下がろう」

  ベルはそう言って、ティナちゃんや使用人達を促して部屋を出ていった。
  そしてトビアスは、

「……………」

  不信そうな目をして私を睨んでいる。

「……………頼むよトビアス、少しの間でいいんだ……」
「……………………………チッ。仕方ねぇな……。ヴィルの様子が変わったらすぐ呼べよ」
「分かった。ありがとうトビアス」

  そう言ってやっと椅子から立ち上がったトビアスは、不服そうではあったが静かに扉を開けて出て行ってくれた。

「……………」

  トビアスの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、また汗をにじませているヴィルの額をそっと拭いた。

「ヴィル……、こんなことしかできない私を………、許してくれ………」

  ヴィルの手を握り、目を閉じた。
  うつむき、祈るように言葉を一つ一つ紡ぐ。

「……我は白き手の女神に請う……我が力をもって彼の者に癒しを与えたまえ………『治癒サナ』」

  古い詠唱魔法エンダーマギアの一種だが、今の私が最後まで詠唱できる数少ない魔法マギアだ。
  握りしめた手が震える、体の中をめぐる体内魔力オドがふわりふわりと光を帯びて具現化し、ヴィルの体に降り注ぐ。
  こんなわずかな癒しの光で、ヴィルの怪我がどうにかなるわけがないとは思ったが、少しでも、痛みがなくなればと思ってのことだった。

「ッ……………は………」

  ぐらり。
  目眩に襲われて私は思わず寝台に顔を伏せた。
  私の乏しい体内魔力オドが限界まで魔法マギアとなって放出されたのだろう、

「……………ヴィル………」

  それでもなんとか顔を上げると、ヴィルは少し顔色が良くなり、穏やかな顔で静かに寝息をたてていた。
  よかった………。
  少しは痛みが引いただろうか………。

「……………」

  汗で張り付いた前髪をかきあげてやれば、ヴィルはわずかに口元を緩ませた。
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