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前編
地理を知る者(父親視点)
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二週間という期間は、ともすると短いのかも知れない。
ベルの邸を出て、私は狩人自由組合に足を向けていた。最新の道の様子を知っているのはやはり各地で狩りを行っている狩人しかいない。
現存する国内の地図は、彼らがもたらす情報によるところがほとんどだ。
「失礼、組合長はおられるかな」
「えっ」
当たり前だが、貴族の平装で狩人達の拠点である自由組合に入って行って目立たないわけがない。受付嬢は顔を強張らせ、フロアに居合わせた狩人達からはざわめきが起こった。
着替える手間を惜しんだ私が悪いんだが、ざわざわとざわつく空気が何とも居心地が悪い。
「んだよ、てめぇかバルト」
受付嬢が下がったのを見てしばらくすると、見知った顔が受付フロアに降りてきた。
「随分とごあいさつじゃないかゲオルグ。まあそれはともかく、昨夜は来てくれてありがとう」
「ふん。てめぇに呼ばれたってのは気にくわなかったが、ヴィルの祝いときちゃぁな。まあ、立ち話もなんだ。あがれ」
ざわめきの種類が変わった気がする受付フロアを離れて、私は組合長の執務室に案内された。
「うわ」
執務室に入ると、その惨澹たる有り様につい声をあげてしまう。
「うわ。たぁなんだよ」
「いや……、これはいくらなんでも…… 」
いくらなんでも、散らかりすぎだ。
こいつがよく組合長なんてやってると思ったが………、よく組織が回ってるな。
「へっ。俺ぁ組合長なんてガラじゃねぇんだ。貴族なんざ継がなきゃ、おめぇに押し付けてやったのによ」
バサバサと、応接セットを埋め尽くしていた羊皮紙の束を雑に押し退け、何とか座るスペースを確保すると、向かい合って腰を掛ける。
「まったく、受付のカミラが貴族が来たって言うからよぉ。何事かと思ったぜ」
「騒がせて悪かった。いつもの服に着替えて来れば良かったんだが、つい時間を惜しんでしまってね」
「そうかい。で?そんなに急いで、何の用だ?」
かくかくしかじか。
ゲオルグに、トビアスから言われた要望を伝える。
「貴族の使う大型馬車がすんなり通れる道を通るとなると………」
バサッ……
ガサガサ。
バサバサ……
ゲオルグは山と羊皮紙が積まれた執務机の上からどうやって発掘してきたのか、国内の地図を引っ張り出して来た。
「よっと」
バサァッ……!
狩人達に支給される国内全土を網羅した大判の地図には、最近記入したであろう書き込みがされていた。
「……この道はどうかな」
「いや、そこは荷馬車の往来が増えてな、舗装の劣化が激しい」
「そうか………。舗装の劣化は土木長官に進言しておこう」
私が指し示したのは王都とツァイス領とを結ぶ主要中の主要路だが。やはり狩人達の情報の方が新しいな。
「比較的舗装が整ってて、大型馬車も通れるのはこの道だな」
「そうか、やはりツァイス領は避けては通れないな」
「いい道が多いからな。トビアスの要望を満たそうとすっと自然とそうならぁな」
ゲオルグが勧めてくれる道を通るように経路を考えていく。
「っと、ここは……」
「そこは避けねぇといけねぇよ。おめぇも元狩人なら、理由はわかってっだろ?」
「ああ、もちろん分かっているよ。ここはね………」
そこは『世界樹の森』と呼ばれる、我が領とツァイス領の間に横たわる森林地帯。
今まで、何人もの狩人が森の恵みを求め、あるいは世界樹を目指して森に入ったが、多くが行方不明になり、無事帰って来た者は一握りしかいないという魔の森だ。
私は仕方なく、森の縁を回るようにして通る街道でヒルシュ領に迂回する道を選んだ。
「ヒルシュ領に入っちまえば、あとは一本だろ」
「そうだな、我が領とヒルシュ領を結ぶ最大の幹線路だ」
その道は、南部最大の貿易港エムデンを通り我が領に通じる。
エムデンは各国の人々が行き交う国際都市でもある。ヴィル達の息抜きに丁度良いだろう。
「この経路だと、ざっと十日ってとこだな」
王都の西、小麦の生産地シュレマー領を抜け、ツァイス領へ、ツァイス領に隣接する世界樹に一番近い街、観光事業が盛んなオーベル領を抜けてヒルシュ領、そして我が領へ至る、通常からは大幅に外れた経路だ。
しかしこれが最善だろう。
「そうだね。ありがとうゲオルグ。この経路で検討しようと思う。……それと、ヴィルに同行してくれる狩人を紹介して欲しい」
「お安いご用だ…………っと言いてぇところだが、人選に時間をくれ。何しろ、王都を拠点にしてる狩人が減っててなぁ、長期の依頼が中々組めねぇんだよ。そうだなぁ、三日待ってくれりゃあ決めとくぜ」
「分かった。よろしく頼むよゲオルグ」
「おうよ。……っとそうだバルトよぉ」
「?」
つぎの目的地へと腰を浮かせた私は、ゲオルグを振り向いた。
「ヴィルのことだがよ………。あの腕はもうどうにもならねぇのか?」
「……………」
「いくらなんでも可哀想でよぉ、あれだけおめぇに憧れて鍛錬を積んでたってのに………」
「私は、諦めてはいないよ。きっと希望はある」
「そうか………、そうだな………」
ゲオルグは、俺に出来ることがあれば何でも言ってくれと、私の肩を叩いた。
ベルの邸を出て、私は狩人自由組合に足を向けていた。最新の道の様子を知っているのはやはり各地で狩りを行っている狩人しかいない。
現存する国内の地図は、彼らがもたらす情報によるところがほとんどだ。
「失礼、組合長はおられるかな」
「えっ」
当たり前だが、貴族の平装で狩人達の拠点である自由組合に入って行って目立たないわけがない。受付嬢は顔を強張らせ、フロアに居合わせた狩人達からはざわめきが起こった。
着替える手間を惜しんだ私が悪いんだが、ざわざわとざわつく空気が何とも居心地が悪い。
「んだよ、てめぇかバルト」
受付嬢が下がったのを見てしばらくすると、見知った顔が受付フロアに降りてきた。
「随分とごあいさつじゃないかゲオルグ。まあそれはともかく、昨夜は来てくれてありがとう」
「ふん。てめぇに呼ばれたってのは気にくわなかったが、ヴィルの祝いときちゃぁな。まあ、立ち話もなんだ。あがれ」
ざわめきの種類が変わった気がする受付フロアを離れて、私は組合長の執務室に案内された。
「うわ」
執務室に入ると、その惨澹たる有り様につい声をあげてしまう。
「うわ。たぁなんだよ」
「いや……、これはいくらなんでも…… 」
いくらなんでも、散らかりすぎだ。
こいつがよく組合長なんてやってると思ったが………、よく組織が回ってるな。
「へっ。俺ぁ組合長なんてガラじゃねぇんだ。貴族なんざ継がなきゃ、おめぇに押し付けてやったのによ」
バサバサと、応接セットを埋め尽くしていた羊皮紙の束を雑に押し退け、何とか座るスペースを確保すると、向かい合って腰を掛ける。
「まったく、受付のカミラが貴族が来たって言うからよぉ。何事かと思ったぜ」
「騒がせて悪かった。いつもの服に着替えて来れば良かったんだが、つい時間を惜しんでしまってね」
「そうかい。で?そんなに急いで、何の用だ?」
かくかくしかじか。
ゲオルグに、トビアスから言われた要望を伝える。
「貴族の使う大型馬車がすんなり通れる道を通るとなると………」
バサッ……
ガサガサ。
バサバサ……
ゲオルグは山と羊皮紙が積まれた執務机の上からどうやって発掘してきたのか、国内の地図を引っ張り出して来た。
「よっと」
バサァッ……!
狩人達に支給される国内全土を網羅した大判の地図には、最近記入したであろう書き込みがされていた。
「……この道はどうかな」
「いや、そこは荷馬車の往来が増えてな、舗装の劣化が激しい」
「そうか………。舗装の劣化は土木長官に進言しておこう」
私が指し示したのは王都とツァイス領とを結ぶ主要中の主要路だが。やはり狩人達の情報の方が新しいな。
「比較的舗装が整ってて、大型馬車も通れるのはこの道だな」
「そうか、やはりツァイス領は避けては通れないな」
「いい道が多いからな。トビアスの要望を満たそうとすっと自然とそうならぁな」
ゲオルグが勧めてくれる道を通るように経路を考えていく。
「っと、ここは……」
「そこは避けねぇといけねぇよ。おめぇも元狩人なら、理由はわかってっだろ?」
「ああ、もちろん分かっているよ。ここはね………」
そこは『世界樹の森』と呼ばれる、我が領とツァイス領の間に横たわる森林地帯。
今まで、何人もの狩人が森の恵みを求め、あるいは世界樹を目指して森に入ったが、多くが行方不明になり、無事帰って来た者は一握りしかいないという魔の森だ。
私は仕方なく、森の縁を回るようにして通る街道でヒルシュ領に迂回する道を選んだ。
「ヒルシュ領に入っちまえば、あとは一本だろ」
「そうだな、我が領とヒルシュ領を結ぶ最大の幹線路だ」
その道は、南部最大の貿易港エムデンを通り我が領に通じる。
エムデンは各国の人々が行き交う国際都市でもある。ヴィル達の息抜きに丁度良いだろう。
「この経路だと、ざっと十日ってとこだな」
王都の西、小麦の生産地シュレマー領を抜け、ツァイス領へ、ツァイス領に隣接する世界樹に一番近い街、観光事業が盛んなオーベル領を抜けてヒルシュ領、そして我が領へ至る、通常からは大幅に外れた経路だ。
しかしこれが最善だろう。
「そうだね。ありがとうゲオルグ。この経路で検討しようと思う。……それと、ヴィルに同行してくれる狩人を紹介して欲しい」
「お安いご用だ…………っと言いてぇところだが、人選に時間をくれ。何しろ、王都を拠点にしてる狩人が減っててなぁ、長期の依頼が中々組めねぇんだよ。そうだなぁ、三日待ってくれりゃあ決めとくぜ」
「分かった。よろしく頼むよゲオルグ」
「おうよ。……っとそうだバルトよぉ」
「?」
つぎの目的地へと腰を浮かせた私は、ゲオルグを振り向いた。
「ヴィルのことだがよ………。あの腕はもうどうにもならねぇのか?」
「……………」
「いくらなんでも可哀想でよぉ、あれだけおめぇに憧れて鍛錬を積んでたってのに………」
「私は、諦めてはいないよ。きっと希望はある」
「そうか………、そうだな………」
ゲオルグは、俺に出来ることがあれば何でも言ってくれと、私の肩を叩いた。
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