俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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前編

人を知る者(父親視点)

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  私は待たせていた馬車に乗り込むと、今度は一度やしきに戻り、平民の服装に着替えて徒歩で次の目的地に向かった。
  癒師ゆし自由組合ギルドだ。

  ギィ……

  入り口の扉を開けると、そこは狩人自由組合ギルドと同じように受付フロアになっていて、ただ、違うことと言えば、フロアには受付に座る者しかおらず、閑散としているというところか。

「あら、バルトさん」
「やあ、パウラ」
「久しぶりねぇ。組合長ギルマスなら執務室よ」
「珍しいじゃないですか、貴女が受付なんて」

  久しぶりに顔を見た彼女は、古株の施薬師のひとり、パウラだ。

「あら、久しぶり会ったっていうのにご挨拶ね。わかってるくせに。今残ってるのはアタシみたいな古株しかいないのよ」
「いやすまない。久しぶりに顔を見れて嬉しかったのでついね」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。ふふ」

  パウラに促され、執務室へ上がると、入れ違いに執務室から出てきた人物と出くわした。

「!バルト」
「トビアス貴方も来ていたのですか」
「俺の用は済んだ、ヴィル坊んとこに戻るぜ」
「ああ、ヴィルを頼むよ、トビアス」
「分かってる、任せろ」

  部屋を出かかっていたトビアスと入れ替わりに、私は部屋に入った。

「あれ。珍しいですねえ。アナタが此処に来るなんて」
「直接出向いた方が話が早いですからね」
「はは、相変わらずですねぇ。大貴族とは思えないですよその行動力」

  まともな挨拶もせずに、勝手に椅子に腰掛ける。
  何の気なしに見回した室内は綺麗に整っていて、明かりとりの為の窓だけを残して全面が書棚で埋め尽くされていても、圧迫感を感じさせ無かった。

「で?御用は何ですか?」

  向かい合ってヤンが腰掛けると、私は話を切り出した。

「突然すまないね。昨夜は来てくれてありがとう、ヤン」
「おや、殊勝しゅしょうなことしじゃないですか。ヴィル君のお祝いですからねぇ、当然ですよ。で?用は何です?」

  相変わらず、穏やかな見た目に反して気忙しいな。

「ひとつは、ヴィルに同行して貰える施療師と施薬師を紹介して欲しい」
「それ、アナタが直接来る事ですか?」
「それと、このところの人の流れを知りたい」
「!」

  ぴくりと、張り付けたような笑みに色どられたヤンの表情が動いた。

「皆の動きが早いのはいいのですが。ただ、まだ王都に人が居る以上、癒師ゆしの数が気になりましてね」
「……そこは抜かりないですよ。若い癒師ゆし達には小さな子がいる者が多いですからねぇ、優先して移動してもらったんですよ。結果、私達のような年寄りだけが残っている訳ですが。私達だけでも、残留している民を支えることは十分可能ですよ」
「そうですか。癒師ゆし自由組合長ギルドマスターがそう言うなら……」
「あと、ヴィル君に同行させる施療師せりょうし施薬師せやくしならもう決まってますよ。それよりねぇ、私もアナタに聞きたいんですが」

  ヤンはそう言って私の返答を待たずに話し出した。

「ヴィル君の怪我は、誰にやられたんです?」
「それを聞いてどうするんです」
「私の質問に答えて下さいよ。トビアスは、あの王子にやられたに違いないと言ってましたが」
「…………」
「もしもそうだとしたら、今度こそ民が暴発しますねぇ」
「ッ!」
「でも、アナタはそれを避けたいのでしょう。アナタが望むのは、静かな終焉しゅうえんでしょうし?もちろん私だって、癒師ゆしとして怪我人や死人が出かねない事態は避けたいですよ?」

  そう、それでなくとも、王家や貴族われわれに対する民の不満は高まっている。だから多くの民が王都を去りつつあるのだ。
  そこへ、民からの信が厚いヴィルが、王子に殺されかけたなどという特大の火種が投入されれば、二千年の平和など露と消えるだろう。

「さあ、どうなんです?いい加減私の質問に答えてくれませんかねぇ」

  この男は癒師ゆし自由組合長ギルドマスターとして、民を暴徒化させるような事はしないだろう。
  仕方なく、私は口を開いた。

「………確かに、貴方の言うとおり、ヴィルの怪我は殿下にやられたものです」
「ふぅん……」

  ガンッ!!

  突然ヤンが振り下ろした拳が、テーブルを揺らした。

「!!?」
「アナタ、よく平然としていられますねぇ」

  平然としているように、見えるのか。

「ヴィル君は運が悪ければ命を落としていたかもしれないのですよ。治療報告をトビアスから聞いたでしょう?」
「ええ」
「ティナちゃんが直ぐにトビアスを呼ばなければ、出血があと少しでも多ければ…………、挙げればきりがありませんよ。それほどまでに傷つけられた我が子を見て、よく正気でいられるものですねぇ」
「正気に、見えますか?」
「見えますねぇ。アナタは昔からそうですよ、ヴィル君に対しての態度は冷静で、冷たいかと思えば、溺愛とも見える態度を見せる………。そんなアナタの態度に振り回されるのはいつだってヴィル君じゃないですか。今回、急にヴィル君を王都から移動させようとしているのだって………、一体どういうつもりなんです?」
「……ヴィルの身の安全の為です」
「身の安全、ですかぁ?」

  確かに私のヴィルに対する接し方は、親子とは呼べないようなものかもしれない。
  それでも私は、私なりにヴィルの為を思って行動しているつもりだ。

「そうです。あの殿下が、一月の謹慎などできよう筈もない。ひとたび城から出れば、思い込みと逆恨みで何をしでかすかわからない。なるべく早く、一番標的になりそうな二人を、王都から遠ざけておきたいのですよ」
「あの王が王子に謹慎を言い渡したのですかぁ?」
「理由は、公爵令嬢との婚約を勝手に破棄し、男爵令嬢と婚約すると言ったことに対してだけでしたがね」
「はっ。ヴィル君の事などどうでもいいという訳ですか。胸くそ悪い。しかし、あの王子の行動は、いつも最悪な方向へ転がりますからねぇ。今回も、そうならないことを祈ってますよ」
「………たとえどうなったとしても、もう後戻りはできないよ。ヤン、貴方も分かっているはずですよ『さいは投げられた』のですから」
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