俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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後編

緊張で眠れないんですけど(主人公視点)

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「ヴィル!見て!川の向こうが金色だわ!」
「すごい。金色の海みたいだ」

  昼食を済ませてしばらく街道を進むと、大規模な穀倉地帯に差し掛かった。この川を境にシュレマー領へ入る。
  金色に色づいた小麦が風に揺れ、さざめきが波の様に広がっていく小麦畑の間には小さな村が点在していて、畑の中で作業をする人たちが俺たちの馬車に気づくとわざわざ作業の手を止めて手を振ってくれた。
   この道は荷馬車もほとんど通らない道だし、貴族の大型馬車が珍しいのかな。
  それにしても、歓迎されてるみたいで嬉しい。
  思わず手を振り返す。

「おーいお前ら、見えたぞ、あれがシュレマー領都オルテンブルクだ」

  馭者台で地図を見ていたアヒムさんがそう言って指差した先には高台に建つ館の周りに建物が密集し、壁で囲まれた街が遠目に見えた。
  それはまるで金色の海に浮かぶ島のようで、その光景に俺たちは言葉を失った。

「いい眺めだろ。麦が刈られる前の今の時季がやっぱ最高だな」
「すごい」
「綺麗………」

  それはまるで絵画のようで、金色の海を俺たちの馬車はゆっくりと進んで行った。

「ようこそ、オルテンブルクへ」

  日が沈み始めた頃になって、オルテンブルクの街門をくぐった俺たちは、街の中心街にある宿泊施設に入った。
  オルテンブルクはパンの品評会のときや、俺みたいに領地に帰る貴族が中継地にする場合が多いらしく、貴族用の宿泊施設がある。
  まあ、高級ホテルだと思って貰えばいいかな。

「よし!じゃあ俺たちは自由組合ギルドでテレーゼ達と交流すっから此処で一旦離れるぜ。また明日の朝迎えに来るから待ってろよ」
「ああ。今日はありがとうアヒムさん。お疲れ様」
「おう。お前らもゆっくり休めよ」
「おやすみなさい、アヒムさん」
「じゃあな」

  アヒムさんとカールさんとアルマさんはそう言って馬車に乗って夕暮れの街中に向かって行った。

「…………お疲れさま、ティナ。今日はもう休もうか」
「そうね、ヴィル」

  アヒムさん達を見送って、俺たちは部屋に入って固まった。

「……………」

  何でベッドが二つあるの!?
  え?ナニコレ、部屋間違えてない!?
  ハンスを振り向くが、部屋を間違えましたとは言ってくれない。

「ヴィル?どうしたの」

  ティナは全然驚いてないみたいだ。
  え?なに?驚いてんの俺だけ?
  部屋の入り口でまごまごしていた俺は、ティナに促され躊躇ためらいながらも部屋に入った。

「ヴィクトール様、ティアナ様、お湯あみの支度が整っております」

  そうだ、風呂!ベッドが二つある件は風呂入ってスッキリしてから考えよう。
  俺はそう考えてとりあえず風呂に逃げた。
  が。

「……………」
「ヴィル?」

  ベッドはやっぱり二つあった。これは、やっぱりそういうことだよな………。
  ティナは髪を乾かし終え、ソファに腰かけていた俺の横に座った。
  フワリと、石鹸の薫りが鼻をくすぐる。

「ティナ、あのさ、まさか、一緒の部屋で寝るの?」
「ええ、もちろん。私は貴方の妻になるんだから、一緒の寝室で寝るのは当然よ」
「そ、そう」

  まだ婚姻式も済ませてないのに、いいんだろうか。
  ベルおじさんの邸では別々の部屋だったのに何で急に。
  当たり前みたいに言うってことは、ティナは一緒の部屋で寝るってことを  知ってたってことだよな。
  俺は何も聞いてないよ!?
  とんだサプライズだよ!

「おやすみなさい、ヴィル」
「ああ、おやすみティナ」

  そう言って俺たちはベッドに入ったものの、俺はそわそわしてなかなか寝つけなかった。
  ベッドは別々だが、同じ部屋の中でティナが眠っているのかと思うと……。

「ヴィル」
「っ!?」

  明かりが消えた部屋のなか、ティナの声が耳に届いた。

「な、なに。ティナ」

  俺は驚いて、思わず声が震えた。
  胸が苦しい。
  早鐘のように脈打つ鼓動が、ティナの囁くような声をかき消してしまいそうだった。

「昔、こうやって一緒の寝室で眠った事があったわね」
「ああ……。あの時は夜中まで話をしていたら、侍女に叱れたんだっけ」
「ふふっ。懐かしいわね」
「またこうやって、二人で一緒の寝室で眠るとは思わなかった」
「私もよ。だから今とても嬉しいわ」
「俺もだよ」

  と、そのとき。さあっと、雲が晴れたのか、部屋の中に月明かりが射し込んだ。
  白い光にぼんやり照らされたティナの顔は耳まで真っ赤だった。

「っ!」

  月明かりに照らされていると分かると、ティナは掛け布を被って顔を隠してしまった。 
  多分おれも顔真っ赤だ。

「ティナ」
「みっ、見ないで。私たちは夫婦になるんだから、恥ずかしがることなんかないのは分かってるんだけど………。ドキドキして胸が苦しいくらいなの」
「ティナ。俺も同じだよ」

  俺はベッドの端に寄り、ティナに手を差し出した。

「握ってみて。俺がどれだけドキドキしているか分かるよ」
「…………うん」

  ティナも少し体を動かし、俺の手に触れた。その手を、俺はしっかりと握った。

「!」
「ほら、分かる?」

  俺の心臓は相変わらず早く打っていて、ティナの手から伝わってくる温もりと鼓動で更に早くなった気がした。

「ふふっ。本当」
「ティナがドキドキしてるのも伝わってくるよ」
「ねぇ……ヴィル、このまま、手を握ってていい?」
「ああ、いいよ」

  とはいったものの、ティナの手を握るという更なるドキドキに、結局、俺は殆ど眠れないまま翌朝を迎えたのだった。

  翌朝。

「おはようございます」
「う…………、ん」
「ヴィクトール様、お目覚め下さい」
「っ、ああ。おはよう………」
「「おはようございます」」

  気がついたら俺はハンスとクリフに起こされて目を覚ました。
  いつの間にか寝てたみたいだ………。

「クリフ、手伝って下さい」
「はい」

  クリフとハンスは両脇から抱えるようにして俺を起こしてくれ、いつの間にそんなに仲良くなったのか息ピッタリで着替えを手伝ってくれる。
  ティナはもう先に起きて支度をしているのか、隣のベッドは空だった。

「はぁい、おはようヴィクトールちゃん」
「おはようございます。ヴィクトール様」

  そうこうしていると、ヘザー先生とテオ先生が診察に来てくれ、俺が着替えを終えるとティナもバッチリ着替えて部屋に戻って来た。

「おはようヴィル」
「おはようティナ」

  俺たちは連れだって朝食に向かった。
  その朝食に、寝不足でぼんやりしていた俺は完全に目が覚めた。

「ッ!これは!」
「どうしたの、ヴィル」

  皿に取り分けられたパン。
  こ、これって………!

「ヴィル!このパンすごく柔らかいわ!」

  すごい!
  こんなに早くこれが食べられるなんて!
  これは早くお礼をしなければ!!

「ヴィル!?」
「アヒムさん早く!早くシュレマー子爵邸へ!」
「お、おう」

  朝食を終えると俺は、迎えに来てくれたアヒムさん達を急かしてシュレマー子爵の邸へ向かった。
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