俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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後編

チートアイテム魔法具(主人公視点)

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「これを、持っていって欲しい」

  翌朝、森を出る俺に、叔父上はピンポン玉サイズの小さな木の玉をくれた。
  なにこれ。すげぇ細かい細工、うわコレ透かし彫りじゃん。
  見慣れないそれに俺が思わず首を傾げながらもじろじろと観察していると、叔父上は苦笑しながら説明をしてくれた。

「それは目印だ。長命族われわれの間では移動拠点スパエラと呼ばれている」
移動拠点スパエラ?」
「そうだ。これは長距離跳躍イントラヴィウムをする際の目印となるもので、自然魔力マナを取り込み動く仕組みを備え、常に魔力を発するようになっている」

  つまり、これが発する魔力はそれぞれが違う音を発しているようなもので、体内魔力オドのある者であれば誰でも聞き分ける事ができる。どの音が何処を表しているのかさえ分かれば、それを手がかりに、これの有るところへ正確に瞬間移動できるのだそうだ。
  かつて世界中に埋まっていた移動拠点スパエラは殆どが土に還ってしまったらしいが、まだいくつか残っているものや、近代になって設置し直したものもあるらしい。
  叔父上は、この移動拠点スパエラを、母さんの墓のそばに埋めて欲しいと言ってきた。

「姉上の墓前に、父上と一度出向きたいのだ」
「……分かりました。何時でもおいで下さい」

  俺は叔父上が一緒に渡してくれた小さな皮袋に移動拠点スパエラを入れると、失くさないよう上着の内ポケットに入れた。

「ああ、それと」

  チャリ…… 

  叔父上は広口の袖の中を探って、緑の石の付いた耳飾りを取り出した。

「これを、身につけておくといい」
「それは?」

  叔父上の手のひらで光る銀色の耳飾りはこれまた細かい細工が施されている。
  やめて!俺の彫金趣味をくすぐらないで!

「これは伝声具ウォクスマキナという魔法具だ」
「魔法具!?」

  魔法具キタ!
  魔法文明のチート道具!
  普段使ってる魔導具が便利アイテムなら魔法具は猫型ロボットの秘密道具だよ!

「あ、ああ、そうか。魔法具が珍しいのだったな。これはな、何処に居ても互いに声を伝える事が出来、互いに居場所もわかる魔法具だ」

  つまりそれって携帯電話!?しかもGPS付き!
  すげぇ!
  魔導具でも電話みたいなのが作れないか模索してるらしいけど、なかなか実現してないのに!

「これは体内魔力オドを使い、声を届け合う事が出来る。お前の体内魔力オドなら、声を届ける事は十分可能だろう」
「えっ。俺、体内魔力オドがあるんですか?」
「知らないのか?お前が生まれた時に、慣習にのっとりきちんと調べたのだが……、平均的な長命族われわれ体内魔力オドと遜色ないはずだぞ」

  俺も体内魔力オドがあるってことは、俺も魔法マギアが使える?!
  あれ、でも………

「俺、目も髪も紅くないですよ?」
「うん?それはバルトの瞳が紅いことを言っているのか?」
「はい、人族じんぞく体内魔力オドが高いと目や髪が紅くなると言われているのです」

  叔父上は、少し考えるような仕草をしてまた話しだした。

「それは、体内魔力オドが高いとだろう?バルトの体内魔力オドは正直言って異常だ。よく人族じんぞくの脆弱な体であの体内魔力オドに耐えられるものだ。うん?肉体が脆いから紅い目として影響が出ているのか?」
「えっ」

  異常。
  そのキツイ単語が俺の耳に残った。

「そんなに、父さんの体内魔力オドは高いのですか」
「ううむ……、そうだな。簡単に言うなら、私の体内魔力オドを百としたらバルトは私の倍はある」
「えっ!?」

  叔父上の倍って……、あんな大魔法を行使してもケロッとしてる叔父上だよ?
  その叔父上よりって……どんだけだよ………。父さん……。

「ところでヴィクトール。お前の傷に逆行リヴァーサスを掛けたとき、一瞬、バルトの魔力を感じた。何かバルトが魔法マギアを行使したのか?外界では魔法マギアなど行使すればたちまち化け物扱いだと聞いたが……」
「父さんが魔法マギアを?そんな訳はないんですが……」
「気のせいか?気のせいならいいのだが」 

  叔父上曰く。
  外界のように自然魔力マナが薄いところでは、魔法マギアの行使に必要な魔力は全て体内魔力オドを練り上げねばならない、効果範囲が限られていて、威力も低い呪文魔法プルフマギアならまだしも、威力が高く効果範囲が広い詠唱魔法エンダーマギアを行使しようもんなら、いくら父さんとはいえ体内魔力オドを根こそぎ持っていかれかねないのだそうだ。

「えっ、じゃあ叔父上があの時行使していたのは…」
「勿論、あれは詠唱魔法エンダーマギアだ。しかし、長命族われわれのやり方は体内魔力オド自然魔力マナを併用するのが普通だ。詠唱魔法エンダーマギアを行使したとしてもさほど体内魔力オドは消費しない」

  しかもあの時は、世界樹から降り注ぐ大量の自然魔力マナと、三人の長命族エルフさん達の補助もあり、あれだけの事が出来たのだそうだ。
  なるほど、叔父上がケロッとしてたのはそういう理由もあったのか。

「……体内魔力オドの枯渇が直接死に直結する訳ではないが、危険性はバルトも十分理解している筈だ。無理な魔法マギアの行使をしていなければいいのだが……」

  そう言って、叔父上は父さんを心配してくれている。
  約束を破って帰らなかった父さんを怒ってるのかと思ったけど、そうでもないのかもしれない。

「叔父上、ところでこれはどうやって使うのですか?」

  俺は本題に戻った。

「簡単だ。これは今私の魔力しか登録していないから私としか通じないが、この魔石に触れて、私の名を呼べばいい」

  叔父上はそう説明しながら、俺の耳に伝声具ウォクスマキナを付けてくれた。
  うん、違和感も無いし、これなら日常生活に影響も無さそうだな。

「……本当なら、これを姉上にも持たせれば良かったんだが……。まさか二度と帰って来ないとは思わなくてな、甘かった……」

  そう叔父上はため息をついた。
  これがあれば、母さんは此処に帰って来れて、少しでも命を永らえたんだろうか……、今となっては分からないし、今更だけど……。

「………!そういえば、父さんの眼鏡は此処で頂いたものなのですか?あれは魔法具だと思うのです、あれを掛けている時は父さんの瞳が茶色に見えるのです」

  ふと、俺は魔法具がらみで思い出した事を口に出していた。
  あれこそチートアイテムでしょ。

「ああ、あれは長命族われわれが作ったものではない。竜族の作だ。あのような精緻な細工とひとつの部品に複数の付与が出来るのは、世界広しといえども竜族だけだろう」
「竜族!?実在するのですか!」

  竜族は、いわゆるドラゴン。強大な魔法とずば抜けた防御力でRPGでボスキャラ扱いを受けるあのドラゴンだ。
  この世界の人族の間でも竜族や長命族エルフは伝説上の存在、おとぎ話だ。

長命族われわれや竜族は既に語られるだけの存在なのか。人族の時の流れは速いな……」

  そう言う叔父上は、見た目は二十歳位だが、五百歳を超えているという。
  百年も生きられない人族とは生きる時間の長さがそもそも違う。
  二千年前からぱったりと姿を表さなくなってしまった両種族が幻となるのは当然だった。

「叔父上、なぜ父さんは竜族の作った魔法具を身に付けているのでしょうか」
「それは……、詳しくは分からないがおそらく、バルトに対する彼らなりの謝意のつもりなのだろう」

え?どゆこと?
俺は声に出す代わりに首を傾げた。

「その反応は、バルトから何も聞いていないのか?困ったな………紅い目の事を知っていたからてっきり……、余計な事を言ってしまったか」
「一体どういうことなのですか?叔父上」


  俺が直接疑問を口にすると、叔父上はしぶしぶといった様子で再び口を開いた。

「私はあまり詳しくは知らないぞ。ただ、バルトの目が紅くなったのは竜の血を飲まされたからだと、聞いた事がある」 
「竜の血……ですか?」
「そうだ。人族じんぞくの間では『賢者の秘薬』とも呼ばれていたな。バルトはどうも竜族と交流があったらしく、事故で竜族の血を摂取したらしい。その事故に竜族の王族が関わっていたらしく、化け物と揶揄される紅い目を抱えて人族の領域で暮らさなければならないバルトにせめてもの謝意としてあれを授けたのだろう。バルトが此処を尋ねたのも、紅い目をなおす方法を探してのことだった」

  おとぎ話………、というか施薬の本を読み漁ってた時にたまたま、『賢者の秘薬』の記述を目にしたことがある。
  そこにはこう書かれていた。

『賢者の秘薬』
竜族の生き血を指す。竜族の血は一滴でも傷を癒す。死人に浴びせれば息を吹き返すとまで言われている。

  流石に死人が生き返る辺りは眉唾だけど、実際に人魔大戦以前には、竜族狩りで狩られた竜族の素材の中で、その血が薬として高値で取引されていたという古い記述が残っている。

「竜族の血を飲むと、魔力が高くなるのですか?」
「………多量に摂取すると竜人化するとは聞いた事がる」
「竜人って………、叔父上は、父が竜人化しているとお考えなのですか……。故に、体内魔力オドが高いと」
「私の憶測に過ぎないことだ。本当のところはバルトに聞くといい」
「分かりました…」

  父さんは紅い目のことも、魔法マギアのことも、竜族のことも、竜族の血を摂取したことも、国の事も、まつりごとの事も、何も俺には話してくれた事はない。
  でも、俺も悪かったんだ。
  父さんが話してくれない事にヘソを曲げて、全部自分で調べようとしてきた。
  俺のその行動が、父さんに、何も言わなくても分かっていると思われて、何も教えてくれないのかもしれないのだから。
  今度こそ、面と向かって父さんに聞こう。

「……話が逸れたな。とにかく此処から離れたら、一度試しに使ってみるといい。ただ、伝声具ウォクスマキナを使うのはあくまで緊急の時だけにした方がいいだろう。外界ではどんな扱いを受けるか分からんからな」
「分かりました。叔父上」

  ぽん。と、叔父上は俺の肩を叩いて微笑んだ。

「お前が助けを求めれば、私は必ず駆けつける」
「叔父上」
「また、いつでも来るといい、待っているぞ」

  俺達は村の皆に見送られ、昨日歩いた道を反対に辿って森の外に出た。
  すると

「アヒム!!」
「皆無事だったんだね!」
「良かった………!」

  視界が明るくなり、見覚えのある場所に出ると、そこにはプラウエンで待機してくれている筈のクルトさん達が居た。
  クルトさんはアヒムさんを先頭に森を出た俺達を見つけると、飛び付かんばかりに駆け寄って来た。

「クルト!?それにカール!テレーゼ!お前ら街で待っとけって言っただろうが!」
「だって………!だってよ……!日が落ちても合図が来ねえから……」
「合図を待って街に居る位ならいっそ森の近くで待とうってなったんだよ。指示を無視して……ごめん」
「アヒム、三人で考えてのことなんだ」

  アヒムさんはため息をつくと、クルトさんの頭をわしわしと撫で、テレーゼさんの肩をポンと叩き、  カールさんの額を軽く小突いた。

「心配かけたなお前ら」

  本当に心配掛けてごめんなさい。昨夜呑気に林檎酒シードルなんか呑んですみません。

「ヴィクトール様!ティアナ様!」

  プラウエンに戻ると、宿で待機していた皆が泣きながら出迎えてくれた。
  皆、森に入る事は承知してくれていたが、さすがに日暮れになっても戻らないことで不安だったらしい。

「皆、心配を掛けてすまなかった」
「ご、ご無事でなによりでございます………」

  ひとしきり泣いて落ち着いたのか、やっと顔を上げた一人が俺の異変に気付いた。

「ヴィクトール様………、腕が……」

  ざわっ、と。
  空気が一瞬で変わった。
  俺が彼の肩を左手で叩いてやると、ざわめきがどよめきに変わった。

「!?し、失礼致します!」

  ガシッと、左腕を掴まれ、信じられないといった様子でガン見される。
  うん、そういう反応になるよね。

「実は、世界樹の森に入ったのは、この腕を治して貰う為だったんだ」
「腕を………」

  ぎゅっ。と掴まれたのでぎゅっ。と掴み返すと、驚きを飛び越えて泣かれてしまった。

「本当に……、本当に治ったのですね………」

  皆はまた泣き出してしまい、ティナまで涙を流していた。
  皆が俺の事をこんなに思ってくれていることは正直嬉しかった。
  気がつくと、俺は堪えきれずに涙を流していた。

「皆……ありがとう……」
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