俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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後編

銀の鳳と金の鳳(主人公視点)

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「さあ。それぞれどんなものを買ってきたのか見せ合いましょうか」
「そうですね」

  エスルの船に戻った俺たちは、早速ティナへの贈り物を発表し合う事にした。
  買い物を満喫していた様にしか見えなかったナタリア妃殿下は、ちゃっかりプレゼント包装された贈り物を買っていたようだ。
  俺も、綺麗に包んでもらった例の髪飾りをテーブルの上に出した。

「ティアナ、私からの贈り物ですわ」
「ナタリア……。ありがとうございます……。とても嬉しいですわ」 
「うふふ。喜ぶのはまだ早いわよ。開けてみてちょうだいティアナ」

  この世界では紙は貴重だ。
  ゆえにラッピングは薄く織られた布を使う。
  贈り物を包むことは貴族の間だけの贅沢な習慣だ。
  ちなみに、ラッピングの布はハンカチになったり、髪飾りや小物に加工したりして贈り物といっしょに大事に使う。
  ティナが丁寧に外した包装は、赤地に金の刺繍がされた上等なものだ。レースのリボンが女性らしい。

「…………あら」

  細長い形状からもだいたい想像がついていたが、木箱の中身は首飾りだった。

「……嬉しいですわ、ナタリア。私に似合うと言ってくれた首飾りですわね」

  金がふんだんに使われた首飾りには深い青い瑠璃石テュルキスが光っていた。

「綺麗……」

  ティナは首飾りをそっと手にとると、早速身につけてみせた。
  うん綺麗だ。確かに似合ってる。
  でも、俺が選んだのも負けてないよ?

「ティナ。俺のも開けてみて」

  俺のラッピングは、アラビシア産の織だ。
  ちょっとエキゾチックでいい感じでしょ?

「綺麗な包み………。ありがとうヴィル。早速開けてみるわ」

  ハラリとリボンがほどかれ、木箱の蓋が開けられた。

「まあ…………綺麗」
「!ま、まあまあ、綺麗じゃないかしら?」

  金と銀の細かな細工は、フォンという翼の大きな鳥がモチーフで、フォンは知能が高く、飼い慣らす事ができ、なおかつ高速で飛ぶことが出来るため、主に国家間での緊急の手紙を運ぶ事で知られている。
  基本的に植物モチーフが多い宝飾品のなかでも動物……とりわけ鳥類のモチーフは珍しい。

「ヴィル。ありがとう、とても素敵。特にこの金のフォンは瞳が綺麗な青………、ナタリアみたいだわ……」
「まっ、まあティアナ!なんて嬉しい事を言ってくれるの!」

  ティナは嬉しそうにそう言うと、金の髪飾りを付けてみせた。

「どうかしら?」
「まあ……、素敵よティナ。よく似合っているわ」
「うん。綺麗だよ」
「ふふ。ありがとう」

  ティナが嬉しそうにそう言うと、ナタリア妃殿下はもうひとつの髪飾りに目をやり、

「ティアナ、それが私ならこれは貴女ね。銀のフォンに紫の瞳。貴女の美しさには敵わないけれど、まるで貴女のようだわ」

  そう言われて、ハッとした。
  青玉ザフィアの瞳の金のフォン
  紫水晶リーラの瞳の銀のフォン
  まるであつらえたように、ティアナとナタリア妃殿下と同じ色だ。
  俺が何故かこれに惹かれた理由はこれか……。

「ふふ。ではナタリア、一緒にこれを付けて下さる?」

  ティナはそう微笑んで、銀の髪飾りをナタリア妃殿下に差し出した。

「えっ、ええ。良いのかしら?」
「もちろん」

  ナタリア妃殿下は一瞬で顔を輝かせ、うきうきとした様子で髪飾りめを付けようとしたところへ側で空気と化していた侍女が素早く寄ってきて上手いこと付けてくれた。

「ど、どうかしらティアナ」
「素敵ですわナタリア」

  ティアナとナタリア妃殿下は嬉しそうに微笑み合うと、二人して俺に見せびらかしてきた。
  微笑ましすぎる。
  なんだこの可愛い生き物。

「よく似合ってるよ二人共。まるで姉妹の様だね」

 俺がそう言うと、二人はまた顔を見合せて今度はガッシリと手を取り合った。

「ティアナ、この髪飾り私達の友情の証しとして頂けないかしら」
「ええ、もちろんですわナタリア。私も同じ事を考えてましたの。是非、受け取っていただけるかしら」
「まあティアナ。ありがとう」

  対の髪飾りを身につけた二人は、今度はしっかりと抱き締め合った。
    通信を担うことから、フォンは『繋がり』や『絆』を表す鳥でもある。
  ティナもナタリア妃殿下も、それになぞらえてお互いに身につけたのだろう。

「私達ずっと友達よ、ティアナ。妹の様に想っているわ」
「もちろんよナタリア。私も貴女を、お姉様の様に想っていますわ」

  なんだかティナとナタリア妃殿下二人に贈り物をしたみたいになったけどまあ、二人が可愛いから良しとしよう。

「ヴィル、ありがとう。大事にするわ」
「私とティアナを一緒に喜ばせるとはやるわね。仕方ないから今回は勝ちを譲って差し上げますわ。ティアナの婚約者を名乗るからにはこうでなくては」

  結局勝ち負けはあんたが判断すんのか。
  まあいいけどさ。
  なんか満足したみたいだし。

「ふふ。何度見てもいいわね」
「そうですわね」

  結局二人は侍女に髪を整えなおしてもらい、髪飾りを付けて鏡を覗いては嬉しそうにそう言っていた。
  しばらくして、やっと落ち着いた二人はお茶を飲んで一息。

「そういえばナタリア。この度はどうして我が国にいらしたの?」

  と、ティナが聞いた。
  うん、それ、俺も聞きたかった。

「あら、ティアナったら。分かっているでしょうに意地悪ね」
「ナタリアこそ、意地悪をしないで教えて下さいな」

  ティナが笑みを浮かべてそう言うと、ナタリア妃殿下はお茶をもう一口飲むと話をし始めた。

「……八日ほど前かしら、陛下にヴォルムス王国宰相様から陛下へ親書が届きましたの」
「親書……ですか?」
「内容は私には知らされておりませんが、陛下はそれを読まれるや、すぐに皇太子殿下にヴォルムスへ向かうようお命じになられました」

  エスル皇帝は親書を読むなり、「ついにこの時が来た」と目を輝かせたそうだ。
  おそらく、内容は我が国の解体に関すること、エスル皇帝はこれで我が国に代わって盟主の座に就けると思ったのだろう。
  故に、解体を見届ける使者にわざわざ皇太子を送り込んだって訳だ。

「殿下がヴォルムスに向かわれると聞いて私飛び付きましたの。ティアナにどうしても会いたくて、殿下にお願いして付いて来たはいいものの、王都は混乱していて危険だからと置いて行かれてしまいましたの……」

  ナタリア妃殿下は船に置いてきぼりをくらい、暇潰しに船を見に来た見物客を双眼鏡で観察していたそうだ。
  そこへ、ティアナが現れ、双眼鏡越しにそれを見つけたナタリア妃殿下は部下に申し付けてティアナを船に連れて来させたそうだ。

「まあ……。そうなんですの……偶然とはいえ、こうしてお会い出来て良かったですわ」
「でしょう?ふふふ、運命だわ」
「うふふ。素敵な運命ですわね、ナタリア。……ところで此方へはいつ頃お着きに?」
「ええと、三日前ね。殿下は此処へ着いてすぐに馬で王都へ向かわれたわ。もう、一緒にお買い物も出来なかったんですのよ?」

  おいおいマジかよ。
  エスルの東側の港から此処まで確か六日はかかる筈だぞ。どんだけ速いんだこの船。
  さすがエスル。
  造船技術については四か国いちだな。
  それにしても、皇太子殿下は馬車ではなく馬で向かったのか……。馬なら早ければ一日で王都までたどり着ける。それだけ、我が国の終わりが近いってことなのか……?

「ヴィクトール様。騒がしい女のお喋りと聞き流して下さいませ?」
「ええ、分かっております」

  ナタリア妃殿下からの遠回しな圧力を笑顔でスルーする。

「…そうそう、お隣の船見たかしら?」
「ええ、あちらも大きな船で驚きましたわ」
「何でも、アラビシアの王太子様が乗って来られたそうよ」
「まあ!王太子様が!」
「私達が到着した時には既に船を立たれていたからお姿は拝見できなかったけれど、すごい美形だという噂よ」
「ええっ?」

  ナタリア妃殿下は扇を広げてコソコソとティアナに耳打をする。
  それでも「側室が五人」とか、「各国に愛妾」とかいう単語がちらほらと聞こえて来る。とんだ色男だな。
  いやいやちょっと、ナタリア妃殿下ったらティアナに何を話してるんですか。

「………そういえば、婚姻式はいつかしら?是非参列させていただきたいわ」

  ひとしきりアラビシアの色男の噂を喋ったナタリア妃殿下は、パチンと扇をたたみ優雅に微笑んだ。
  俺たちが一瞬顔を見合せて、約一ヶ月後にコール領都で行う予定だと言うと妃殿下は

「まあ、ちょうどいいわ。このまま此処に暫く滞在してそのまま参列させていただこうかしら」

  と、うきうきしている様子で言った。

「招待状はこの船に届けてちょうだいね」

  あ、これ来る気満々だ。
  参ったな、ティナの友人としては参列してもらいたいのはやまやまなんだけど、なにしろ他国の皇太子妃だからなぁ。
  いち公爵家の婚姻式に参列していただくのは正直おそれ多い。

「あら、安心してちょうだい?式には私個人として参列させていただくわ」

  そんな俺の心中が顔に出ていたのか、妃殿下はそう言って笑った。
  ティナをチラリと見ると、嬉しそうにニコニコしていた。

「ありがとうございます妃殿下。是非お越し下さいませ」
「お待ちしてますわ。ナタリア」

  やれやれ、領地に着いたら準備を急がないと。
  俺たちは夕暮れが迫り、夕食を共にと引き留めるナタリア妃殿下の前を辞し、やっとエスルの船を降りて、ひとまず今夜は一泊し、領都への残りの行程を急ぐ事にした。
  翌朝。

「皆、待たせたね。領都まであと少しだ、出発しよう」
「かしこまりました」
「参りましょう」
「おっしゃ行くぜ!」

  俺たちは馬車に乗り込み、コール領側の街門をくぐった。
  街を出ればそこはコール領。領都アウクスブルクまではもうすぐだ。
  と、そのとき。

「!あれは……」

  さあっと、風が吹き抜けた気がしたと思ったら、馭者台のアヒムさんが声をあげた。

「どうしたのアヒムさん」
「……あの青いしるしは、コール家のフォン…」
「えっ!?」

  俺は思わず空を見回したが、狩人として目を鍛えているアヒムさんでやっと追える速度で飛ぶフォン を俺の目で捉えられる筈が無かった。

「アヒムさん、確かにフォンだったの」
「ああ、間違いない。誤射防止用のしるしを付けてる通信用のフォンだ。アウクスブルクの方角に向かって行ったぜ」

  領都に向かって飛んで行ったフォン
  それの意味するところはおそらく……。

「ヴィル」
「ああ、大丈夫だティナ」

  俺は焦りを押し殺した。
  今さら焦っても何にもならない、  俺たちは何事もなく領都に着けばいいんだから。
  俺はティナの手を握り、クッションに身を預けた。
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