俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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後編

皆の期待に応えられるように(主人公視点)

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  青いしるしをなびかせたフォンを追いかけるようにしてコール領に入った俺たちは、街道で人とすれ違う度に口々に、

「お帰りなさいませ!ヴィクトール様!」

  と声を掛けられながら、閉門時間ギリギリで何とか領都にたどり着いた。
  コール領都アウクスブルクは、二千年前までこの中央大陸に君臨していたマルケドニア帝国の帝都だった城郭都市で、水堀で区画が分けられ、面積としては大陸に二つとない巨大都市だ。
  故に、街の入り口にようやくたどり着いた俺たちだったが、街の北にある城まではまだまだかかる。
  城が遠い………。

「お帰りなさいませ!ヴィクトール様!ティアナ様!」

  やっと城にたどり着いた俺達は使用人達に勢揃いで迎えられ、代官のエドガーが人垣の真ん中から進み出て来て青い封蝋がされた書簡を差し出した。

「ヴィクトール様、旦那様からでございます」

  やっぱり、アヒムさんが見たのはコール家ウチフォンだったか……。
  俺は若干震える手でエドガーの手から書簡を受けとると、すかさず差し出されたナイフで封を切った。

  パラッ……

  筒状に巻かれた羊皮紙を開くと、そこには確かに父さんの流れるように流麗な筆跡が。

「……………」

  俺は内容を頭の中で反芻はんすうし、ゆっくりと息を吐いた。
  周りにいる皆が息をのんだのが分かった。

「…………我が国………ヴォルムスが解体された。ついては……直ちに新興国を建国するものとし、国主の地位をコール家が担う………とのことだ」
「………!」

  俺は静かに書簡の内容を吐露した。
  おそるおそる顔をあげた俺が見たのは、満面の笑みを浮かべた皆の顔だった。

「おめでとうございます!」

  ………えっ?

  エドガーの言葉を皮切りにわっと皆が沸いた。

「ついにか!ついに王家がたおされたか!」
「おめでとうヴィル!」

  口々にそんなことを皆は言い、涙を浮かべ、抱き合って喜ぶ者もいた。

「新しい国、新しい国主の誕生だ!」

  俺は何で皆がそんな嬉しそうなのか、理解できなかった。
  国が解体されたというのに、不安じゃないんだろうか。
  と、俺が困惑しつつもつい、そう溢すと、エドガーは珍しく興奮ぎみに俺に詰めよって来た。

「何を仰いますか!私たちはこの日を待ち望んで来たのです!」
「そうです!不安などあろう筈がありません!ヴィクトール様は私たちの希望なのですから!」

  周りの皆もエドガーに同調し、口々に新興国への期待と希望を語ってくれた。

「ありがとう皆、期待に応えられるよう務めるよ」

  そうだ、これだけ皆が俺を仰いでくれているんだ。
  しっかりしろ、俺。
  俺が胸を張って皆の前に立たなければ、それでこそ皆は不安に思うだろう。

「はいっ!私たちもコール家に仕える者として今後も精一杯務めさせていただきます!」

  ザッ……

  エドガーを始めとしたその場にいた使用人達が一斉に膝をついて礼をとった。

「……皆」
「改めて、お喜び申し上げます。ヴィクトール様………」

  気がつくと、アヒムさん達やティナも俺の周りに膝をついていた。
  えっ、ちょっ、

「アヒムさん達まで……」
「あったりめぇだろ、俺達は自由民フライフォルクだが、お前が王になるのを待ち望んでたんだ」
「ヘザー先生、テオ先生……」
「こんな嬉しいことは無いワヨ!ねェ!?」
「はい!」

  俺は皆を見回して改めて気持ちを引き締めた。筆頭公爵の比じゃない、一国を背負うんだと自分に言い聞かせた。

「ありがとう皆。だが父さんが戻るまではこの事は他言無用に頼む。いらぬ混乱を招くことは避けたい」
「承知致しました」

  俺がそう言うと、皆は一様に頷いた。

「さ、ヴィクトール様!長旅お疲れ様でございました!まずはお湯あみをどうぞ!」

  さっと切り替えてエドガーがそう言った。
  どっと疲れが押し寄せた俺は、風呂に入って夕食を何とか食べてその夜は気絶するように眠りに落ちた。


  翌朝。
  朝食をとりながら、父さんが帰ってくるまであと三日はかかるかとか、せめて領内だけでも混乱させないようにとか、ぐるぐる頭の中で巡らせていると、ハンスが来客を告げた。

「ヴィクトール様。装衣師のユリウス様がお目通りを希望しておられますが、如何致しましょう」

  ユリウスさんが?
  多分というか絶対、式の装束の件なんだろうけど。
  俺達のことでだいぶ無理を言っているから無下には出来ない。
  午前はエドガーと書類と情報の整理をしようと考えていた頭を切り替える。

「わかった。鏡の間でお待ち頂くように」
「かしこまりました」

  俺とティナは食事を済ませると、ユリウスさんが待つ鏡の間に向かった。

「お待たせユリウスさ…」
「待ってたよ!!」

  其処には、目の下にバッチリ隈が出来たユリウスさん達が待ち構えていた。
  その形相に思わず後ずさった俺達はいつの間にか取り囲まれていた。

「二人が到着するのに合わせて仮縫いを間に合わせたんだから!さ!試着して!」

  あれよあれよという間に、ティナは衝立の向こうへ連れて行かれ、  俺も侍女達に周囲を固められ、観念して試着をした。

「うーん、襟が広すぎたね。調整しよう」

  婚約式と婚姻式の装束を順番に試着し、言われるがまま体を動かしてみたりした。
  ユリウスさんはそんな俺の周りをうろうろしながらぶつぶつと呟きながらメモを取っていく。

「ユリウスさん、いつアウクスブルクにいらしたんですか」

  俺は怖いくらい真剣なユリウスさんに、おそるおそるそう声を掛けていた。

「…………うん?ああ………、二週間ぐらい前かな。アウクスブルクには姉が居てね、今は彼女の工房を間借りして作業しているから中々進まなくてさ………はぁ……」

  ユリウスさんのお姉さん、ザーラさんは男性服専門の装衣師として有名だ。
  シンプルなデザインが売りで、シンプル好きな父さんが贔屓にしてる。

「あっ、安心してね!?式には絶対に間に合わせるから!」
「は、はい。よろしくお願いします……」

  ユリウスさんはそう言うとまたテキパキとチェックを再開した。

「袖口は問題ないね、どう?動かしてみて引っ掛かりとかない?」

  そう言われて、無意識に左腕をぐるりと回してみると、特に引っ掛かるような感じはなかった。

「…………あれ?」
「えっ?」

  ユリウスさんはガシッと俺の腕を掴むと俺の顔と見比べてきた。
  なんか既視感。

「ヴィル君!腕!動かせるようになったのかい!」

  俺が戸惑いつつも肯定すると、ユリウスさんはガバッと抱きついてきた。

「よかった!よかったね!」
「ユリウスさん……」

  ユリウスさんはハッとして俺から離れると、俺の顔を見てまた「よかった」と溢した。

「あの……、ちょっと……ユリウスさん……」
「うん?」

  と、そこへ、衝立の向こうからティナが少し顔を覗かせた。

「どうしたの?」
「こ、この装束………。デザインと少し違いませんか?」
「んん?そう?」

  衝立の向こうに回ったユリウスさんを無意識に追いかけようとしたら、お弟子さん達に袖を掴まれて止められた。

「ヴィル様は此方でお待ちを」
「えっ」
「だめだよヴィル君。式までのお楽しみだよ」

  ええ~。
  何その焦らしプレイ。

「で?ティナちゃん何が違う感じ?」
「あの、ここの開き方が大きすぎません?」
「うーん?そうかい?デザイン通りだよ」

  どこがどう開き過ぎてるのか分からないけど、例の攻めたデザインの件でティナは粘ってるみたいだった、が、結局ユリウスさんに丸め込まれた。

「じゃあ!私達は本縫いに移るからこれで失礼するよ!仕上がりを楽しみにしててね!」

  ユリウスさんは生き生きとした表情になり城を飛び出していった。
  それと入れ替わる様にして、今度はカイさんがやって来た。

「よぉ。久しぶりだな。さっき城の前でユリウスに会ったがやけに機嫌が良かったぜ。なんかあったのか?」

  と、部屋に入って来るやそう言ったカイさんに腕を動かして見せたら、泣かれた挙げ句ぐしゃぐしゃに頭をなでくり回された。
  あわわ。

「そうか……、よかった………。よかったなぁ……」
「カイさん………」

  カイさんは泣きながら俺の肩を撫でてくれた。
  ユリウスさん達もカイさんも、深い事情は聞かずにただただ良かったと涙してくれる。
  ああ、俺は皆に心配されてたんだなぁと、今更ながら思った。 

「ああ、そうだ。忘れるとこだったぜ」

  ひとしきり俺の頭をなでくり回して満足したのか、カイさんは下げていた鞄から木箱を取り出して開けて見せてくれた。

「まぁ……」
「すごい………」

  中には一対の腕輪が。
  俺とカイさんで作った婚約腕輪が、完成したばっかりみたいなピカピカになっていた。

「磨き直して、ヴィルのには長さを足しただけだぞ? 」
「そうなの?」
「そうだぞ?ほら、着けて見せてくれ」

  シャラッ……

  俺たちはカイさんにそれぞれ腕輪を付けてもらいお互いにまじまじと見合ってしまった。
  なんだか懐かしい、初めてプロポーズした時を思い出して、思わず顔が赤くなった。

「よし、丁度いいな。婚姻腕輪はまだ制作中なんだ。式には間に合わせるからよ、楽しみにしててくれ」
「ありがとうカイさん」
「おう、あんまり長居すると後がつかえてるからな。またな」

  後がつかえてる??

「ああ、またね」
 
  カイさんを見送って、俺は思わず扉のそばに控えていたクリフを見やった。

「クリフ、外はどうなっているんだ?」
「はい。実は……、城門の外に目通りを希望する者たちが列を成していまして……」
「なにっ……」

  クリフの言葉通り、婚約式の宝飾品を選んだり、靴を合わせたり、はてまた成人の祝いに訪れた者だったりと、次から次へと来訪者は途切れず、俺たちがやっと息をついたのは、午をまわってしまってからだった。

「はぁ………」
「さすがに……疲れたな……」

  遅めの昼食をとりながら、俺はティナと一緒に思わずため息を吐いていた。
  午の鐘が鳴ったので並んでいた人たちも一旦解散したらしいが、午の時点でまだ並んでいたらしいし………。
  某テーマパークじゃないんだから……。

「……ハンス」
「はい」

  俺はハンスに、午後の来客は断るように頼んだ。その上で明日の明け五刻(朝八時)以降にまた来て貰うように伝えた。

「かしこまりました」
「それと」
「はい」

  午後はティナと二人で母さんの墓参りに行ってこよう。
  叔父上に頼まれたアレも設置しなくちゃだし。

「かしこまりました。では支度を致します」

  食事をしながらハンスにそう頼んでおけば、食べ終わった頃には支度が済んでいて。

「ありがとうハンス、クリフ」
「畏れ入ります。さ、お召しかえを」

  俺たちは服を着替えて、ハンスとクリフを伴って城を出た。
  出掛け際、見送りに出てきてくれたエドガーに、夕食後に領内の現状を報告するように頼んでおいた。

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
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