俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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後編

やっとこの日が来た(主人公視点)

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  建国宣言から一夜明け、早速アウクスブルクに点在する高札場こうさつばに新興国の概要と人頭税じんとうぜいなどの各種税率は据え置くことなどが記された布告が掲げられた。
  国内各地にも順次領主を通じて同じ布告が掲げられ、国内全土にあまねく新興国の建国を知らせるだろう。
  それと同時に、大公の即位式までの暫定政府が立ち上がり、三公のひとりであるハルト兄様が、いの一番にアウクスブルクに到着した。

「ハルト兄………ゴホン、ハルトヴィヒ殿、先ずは駆け付けてくれたこと感謝する」

  地理的にも一番近いとはいえ、これだけ早く来てくれるとは思っていなかったので正直有難い。

「畏れ入りますヴィクトール様……いえ、大公倪下」

  ハルト兄様にそう呼ばれ、自然と背筋が伸びた。
  聞けばハルト兄様は、暫定的に公爵としての権限を与えられ、領主代行をレオン兄様に任せ、その補佐としてリーン兄様を置いて必要最小限の手勢を連れてやって来たのだそうだ。

「いくら暫定政府とはいえ、何日も大公を独りにさせておく訳にはいかないと思ってな。ひとまず私だけでも、居れば少しは違うだろう?」

  かしずいていたハルト兄様は、顔を上げるとそう言ってにっこり笑ってくれた。
  大違いだよ!
  ハルト兄様が居れば百人力だから!
  と言いたいのを堪えて、

「ありがとう。ハルト兄様」

  と、言うだけに留めた。
  実際、三公が揃うのは俺とティナの婚約・婚姻式に間に合うかどうかってところだろう。
  なにせ一番遠い北部から来るバルツァー家のカルステン殿はどんなに急いでもアウクスブルクまで十日はかかるのだ。

「ひとまず、ヴィルは婚約式と婚姻式を無事終えることを第一に考えたほうがいい。政務の面は全力で補佐するから、なあに、数日中にはヒルシュ家のアンネリース嬢も到着するだろう」

  うん、俺もそう思う、式まであと三週間ほど、じきに到着しだすだろう招待客への対応に、式場や衣装の最終確認と、やることが山積みだ。
  ホントに助かるよ、ハルト兄様ありがとう。

「ティナ、父上と母上もあと三日程で到着される筈だからな」
「はい、ハルト兄様」

  そう言ったハルト兄様の言葉どおり、三日後にはベルおじさんとイリーネおばさんが到着し、一週間以内にはレオン兄様とハルト兄様が到着した。
  そして

「はじめまして、ようこそお越し下さいました。私、ヴィクトール・アードリゲ・ヴァイゼ・コールと申します」
「お、お会いできて光栄でございます……。私……エルヴィン・アーデル・マルクグラーフ・レーンスヘル・シュタルクと申します。こ、こちらは妻のエレオノーラでございます」
「エレオノーラですわ」

  エレナ姉様と、シュタルク辺境伯も式の前日にはなったが、西部から駆けつけてくれた。

「エレナ姉様、ご無沙汰しておりました」

  形式的な挨拶を済ませれば、エレナ姉様とシュタルク辺境伯はゆっくりと立ち上がり、勧められるがままソファに腰掛けた。

「ふふ。本当に久しぶりね、ヴィル」
「エレナ姉様……」

  にこにこと優雅に微笑むエレナ姉様は、昔のお転婆はどこへやら、  辺境伯の妻として恥じない立派な淑女になっていた。
  不意に、その隣に座るシュタルク辺境伯に目を移すとシュタルク辺境伯は、蒼白な顔で震えていた。
  え?

「シュタルク辺境伯?どこかお加減でも……」

  ガッ!

「!!?」

  その様子に、見かねて俺がそう声を掛けると、エレナ姉様は笑みを浮かべたままシュタルク辺境伯の脛を蹴りつけた。
  うわぁ、あれは痛い。
  ヒールは駄目です姉様。

「大丈夫よ、このひとったらあまり領地から出ないものだから緊張しているの、気にしないで頂戴」

  いや、目の前でシュタルク辺境伯が屈み込んで痛みにプルプル震えてるとか気にしないとか無理です、エレナ姉様。

「アナタ。後で少しお話ししましょうね」

  姉様が笑顔のまま小声でそう言ったのを、俺は聞き逃さなかった。
  ああ、姉様はちっとも変わってませんでしたね。
  昔のままの、厳しく強い姉様のままでした。

「お式、楽しみにしてるわ、ヴィル。さ、あなた、もう下がりましょう」
「し、失礼致します…」
「はい……、どうぞごゆるりと」

  姉様は腕を組んで歩きだしたつもりらしいけど、蒼白から青くなったシュタルク辺境伯を半ば引きずる様にして部屋を出て行った。

「失礼致します」

  二人とすれ違う様にクリフが入って来て、この日二組目の来客を告げた。

「どうぞ」

  クリフに付いて応接間に入って来たのは、緑の正装に身を包んだ青年と、同じく緑のドレスに身を包んだ女性だった。

「!」

  その特徴のある緑に、俺は思わず腰を浮かしかけた。
  緑………『拳士ケンプファー』の正装を纏ったそのひとは、がっしりとした大きな体を屈ませると、静かに俺たちの前にかしずいた。

「………ようこそ、私はヴィクトール。ヴィクトール・アードリゲ・ヴァイゼ・コールだ」

  じっと目を伏せるその人に俺がそう声を掛けると、ゆっくりと顔を上げた。
  うわぁ、イケメン。

「御初にお目にかかる、大公倪下。俺は、カルステン・アーデル・ヘルツォーク・ケンプファー・レーンスヘル・バルツァー。これは妻のカサンドラです」

  ぺこりと、横にかしこまった女性は黙礼した。
  っていうか………

「……カルステン殿、カサンドラ殿、遠路はるばるご苦労。ところで……カルステン殿、何故貴方が『公爵ヘルツオーク』を名乗っておられるのか」

  と、俺が素直な質問を投げ掛ければカルステン殿は気まずそうに視線を泳がせた。

「あー、その。二週間ぐれぇ前に親父が帰って来て、突然爵位を譲られました」

  ええ、ちょっ、それフライングじゃん!
  という俺の内心の驚きが顔に出てしまったのか、カルステン殿は申し訳なさそうに頭を掻いた。

「あーー、やっぱりまずかったですか。親父が持って帰ってきた文書を読んで、まずったなぁとは思ったんですが。何しろウチの親父はこうと決めたら突き進むことしか出来ないもんで……。今回も、もう帰って来たら爵位を俺に譲ることしか考えてなくてですね……」
「いや……。まずいということは無いが……、あの文書を読んで勝手に三公は同時に公爵位に就くものだと思い込んでいただけだ」

  そう、俺の勝手な思い込みだ。

「それはそうと、カルステン殿には疲れているところすまないが、早速、三公の一人として私の補佐をしてもらいたい」

  大丈夫、大丈夫、ちょっと執務室からろくに出られてないハルト兄様を助けてあげるだけの簡単なお仕事だから。

「補佐ですか……。微力を尽くしたいと存じますが……、ハルトヴィヒ殿だけですか?アンネリース殿は?」
「うむ、アンネリース殿はまだ到着していないのだ。すまないが、しばらくは二人で協力してくれるか」

  そう、建国宣言からはや二週間あまり、ハルト兄様の次に到着するだろうと思っていたアンネリース嬢は未だ到着していなかった。
  準備に手間取っているにしても、北のセルディア山脈の麓からはるばるやって来たカルステン殿より遅いのはどうしたものか……。

  
  そして、式当日になっても、アンネリース嬢の到着の知らせは無かった。

「おはようございます。お父様、お母様」

  式の朝、俺とティナは正装を着てベルおじさんとイリーネおばさんに挨拶するべく、城内の部屋を尋ねた。
  これは婚姻式にともなう儀式的なもので、嫁ぐ娘が両親に感謝を述べ、迎え入れる夫が挨拶をする。それが一連の流れになっている。

「お父様、お母様。今までありがとうございました……。ティアナはヴィクトール様のもとへ嫁ぎます」
「……ティアナ、しっかりな。ヴィルが即位すればお前も正式に大公妃だ」
「はい」
「もう、あなたったらもう少し気のきいたことを言えませんの?」

  イリーネおばさんはそう言って椅子から立ち上がりティナに近づいて、優しく抱き締めた。

「ティアナ。私の可愛いティナ。ヴィルと幸せにね、貴女が幸せであれば、私も幸せよ」
「ありがとうお母様………」

  その、思わず涙腺が緩みそうな感動の光景にしみじみ見入っていると、

「ヴィクトール」
「!はい」

  ベルおじさんに声をかけられ、慌てておじさんに向き直った。

「改めてというか、今更だが……。ティナをよろしくな」
「もちろんです」
「頼もしい返事だ。さすがは俺の義息 むすこ

  義息むすこと、言われて俺は思わず照れ笑いを浮かべた。

「ヴィル、俺のことは遠慮せず父様と呼ぶといい」
「………と、父様……?」
「そうだ。それがバルトとの交換条件だ」
「交換条件?」

  それは、あのときの、ティナからお父様と呼ばれるのがどうのこうのと言っていた件で、ティナが父さんをお父様と呼ぶ代わりに、俺にベルおじさんを父様と呼ばせるということで決着がついたらしい。
  いつの間に………。

「で、では、父様と……」
「うむ」
「あら、私は?」
「えっ、か、母様……?」
「ふふ」

  にっこりと微笑んだイリーネおばさ………母様に、俺は抱き締められていた。
  俺と一緒に、ティナも腕の中にしっかりと抱きしめられていた。

「私の可愛い子供達。どこへ嫁いでも、とんなときも、いつでもあなた達を見守っていますよ」
「そうだぞ二人とも」

  おじさ……父様も、俺達と母様と俺達を包み込むように抱きしめてきた。

「お前達は、これからもずっと俺達の子供だ。俺達はいつでもお前達の味方だからな」

  じわり、不覚にも目頭が熱くなった。

「………さ、バルトが待っているだろう、行きなさい」
「はい、父様」
「ごきげんよう、お父様、お母様」
「教会で待っているわね」

  俺たちは揃って父様達の前を辞し、部屋で待ってくれている父さんのところに向かった。

「失礼致します」
「入りなさい」

  父さんの執務室に入ると、青の正装を着て父さんが待っていた。
  朝日の差し込む窓を背に立つ父さんの装束に刺繍された銀糸がキラキラと光る。その様子に俺は思わず息を呑んだ。
  俺はティナと一緒に、その前に膝をついた。

「……父上、この度私は、ヒルシュ家のティアナ嬢を妻に迎えることとなりました」

  ヤバい、緊張する。
  テンプレ台詞言ってるだけなのに噛みそう。

「………ティアナでございます。どうぞよしなに」

  ティナがそう言って頭を下げると、慌てて俺も頭を下げる。
  と、そこへ、影が降りた。

「………っ!」

  顔をあげると、父さんが俺たちの前に膝をついていた。

「父さ……」
「ヴィクトール、本当にお前には苦労ばかりさせてすまない……」

  そしてそのまま、俺は気がつくと父さんに抱きしめられていた。

「加えて大公などと………、またお前を困難な道へ………。私は本当に駄目な父親だ……」
「………」

  父さん、そんなに自分を責めないでよ。
  俺は、これからが幸せならそれでいいんだ。
  大公だって、皆の為とか綺麗事言って、結局は自分のエゴの為になるんだ。俺、父さんが思ってるほど、イイコじゃないよ?

「ヴィクトール、どうか、
ティナちゃんと幸せに」
「………はい、父さん」

  父さんは俺から離れると、ティナに向き直って頭を下げた。

「!?お父様!」
「ティナちゃ………いや、ティアナ嬢。これからヴィクトールと歩む道は決して歩き易い道ではないだろう、だがどうか、ヴィクトールを支えてやって欲しい」
「もちろんですわお父様!」

  ティナの食いぎみの肯定に、父さんは驚いたのか弾かれるように顔を上げた。

「私、ヴィルの為ならどんな苦労も厭いません!」
「ティナちゃん………」
「ヴィルと一緒なら、どんな道も歩いていきます!」

  その力強い言葉が、俺の心に深くきざまれた。
  ああもう。
  俺のティナは、どうしてこんなに強いんだろう。
  俺も、もっと強くならないと。

「ありがとうティナちゃん」

  ありがとうティナ。
  一緒にどこまでも歩いて行こう。


「……天にまします我らが主神アレスよ。此処に新たに婚約の誓いをたてる二人を祝福くださいませ」

  午の鐘が鳴った。
  俺とティナは純白の盛装を身に纏い、祭壇の前にかしずいた。
 俺たちの前に立ち、朗々と誓句をそらんじるのは成人式でもお世話になったローゼマリー様。
  え?
  何でローゼマリー様が居るのかって?
  いや、俺も驚いたよ、教会の司祭様に挨拶に行ったら、当たり前のようにローゼマリー様がいて、しかも

「あら、ご存知ありませんでした?私、この教会の司祭の娘ですのよ」

  って言うもんだから。
  と、そこへ

「おお、領主様。おひさしゅうございます……」
「お父さん!もう!奥で休んでてって言ったでしょう!」
「そうかい、そうかい。マリー」

  混乱する俺たちをさらに掻き乱したのは、奥からヒョコヒョコと出てきた司祭様だった。
  司祭様は昔と変わらない優しい笑みを浮かべていたが、俺と父さんを間違えているようだったし、さすがに年を取られた様子だった。

「お恥ずかしいところをお見せしました。父があんな様子でして、若輩ながら私が父に代わりこの度の婚約式と婚姻式の司祭をつとめさせていただきます」

  と、いうやりとりがあったのが数日前。

「主神アレス、並びに四柱の英霊よ、我らヴァイゼ・コールに連なる者、ヴィクトールの婚約をここに奉る。願わくば、ヴィクトールとその婚約者たるフェヒター・ヒルシュの娘、ティアナに、永久のご加護を賜らんことを」

  かしずいたままわずかに俯いたままの俺達の横にはそれぞれ父さん達が。
  婚約は、婚約する子に代わり親が主神アレスと四柱の英霊に婚約を報告するのが習わしだ。
  俺達は、式の間は膝をついたり立ったりを繰り返し、儀礼的な婚約式はさほど時間がかからずに終わった。

「さあ!ヴィクトール様!ティアナ様!お召しかえを!」

  婚約式が終わるや否や俺達はすぐさま着替えて、今度は婚姻式だ。
  同じ日に婚約式と婚姻式をするなんてことはまずない、おそらく俺たちが最初で最後だろう。
  俺達以上に周りが忙しいよ、皆顔が必死だもんな。

「ヴィクトール様!ティアナ様のお支度が整いました!!」

  婚姻式の盛装に一足先に着替え終えた俺のもとへ、そう言ってティナ付きの侍女が飛び込んで来た。

「分かった」

  俺は内心ドキドキしながらも平静を装って部屋を出て、ティナの待つ部屋の扉を開いた。

「ヴィル……?」

  窓から差し込む光を背に振り向いたティナは、純白の婚姻装束を身に纏い、その髪には真珠ペルレの髪飾りがそっと華やかさを添えていた。
  綺麗だ。
  そんな当たり前の感想しかでてこないけど、とにかく綺麗だ。
  やっぱティナは俺の女神だわ、うん。

「ヴィル?」
「!!」

  気がつくと、ティナがすぐそばに来ていた。
  俺の目の前には、さっきの婚約式の露出の少ない装束とは裏腹な肩口までザックリと開いた胸元がなんとも艶っぽい婚姻装束のティナが。
  ユリウスさんグッジョブぅぅぅぅ!!
  とても絶妙な開き具合で!

「ヴィル……」
「!」

  はっ!しまった!あまりの素晴らしさに固まってた!

「やっぱり……、こんなに大胆なの似合わないわよね…………」
「そんなことない!」

  俺はそう言ってティナの肩をがっしりと掴んでいた。
  大きく見開かれたティナの瞳が俺を見上げてくると、途端に声に出しかけていた言葉が詰まった。

「っ………、その………」

  俺が口ごもると、再び不安そうにティナの表情が曇っていく。
  慌てて、ティナを抱き寄せて、詰まっていた言葉をなんとか囁くように吐き出した。

「…綺麗だよティナ。良く似合ってる」
「………!」

  あーもう。
  絶対今顔真っ赤だよ。
ティナは俯いてしまって表情が分からない。
  聞こえた…………よね?

「ティナ……?」

  と、そのとき、教会の鐘楼の鐘が鳴った。
  いつもは鳴らない時刻。
  いつもと違う、音色。
それは俺たちの婚姻式を祝福する特別な鐘だった。

「……行こうか」
「……………うん」

  その音を合図に俺達は腕を組んで式場に向かった。

「………今日のこの良き日に新たに夫婦の契りを交わす二人を、どうぞ皆様もご祝福ください……」

  俺達の婚姻式の式場である大聖堂には、たくさんの人が着席して俺たちを待っていた。基本的には血縁者だけが参列する婚約式とはうって変わって、招待客も列席するため、人が多いのだ。

「………幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることを共に誓いますか」

  この国のというか、概ね人族の婚姻は神前式だ。
さらに我が国では、前世での結婚の誓いを彷彿とさせる聖句を唱えるのが一般的だ。

「はい。私、ヴィクトールは、ティアナを妻とし、今日よりいかなる時も共にあることを誓います」
「はい……。私、ティアナは、ヴィクトール夫とし、生涯変わることなく愛することを誓います」

  俺達は互いにそう誓い、正式に夫婦になった。

「ティナ、これからもずっと、俺の側に居てくれよな」
「もちろんよ、ヴィル。ずっと、一緒よ」
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