『ヒカリ』

あかつき

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『偽善者の苦悩』

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「所詮自分のしていることなんて、偽善に過ぎない」


 他人に優しくする人に問いかけると、そんな答えが返ってくることがある。言葉には出さずとも、この「偽善」という言葉は、多くの人が感じている。そうやって自分を卑下し、自分という人間を蔑む。ある目的のために人に優しくすることを偽善というが、それは本当に間違ったことだろうか。この問いに答えるためには、人間の本質について議論する必要がある。






 人の行動原理、その核となるものは何か。それは欲望である。将来楽したい、出世してお金を稼ぎたい、友達と仲良くしたい、そのために頑張る、そのために人に優しくする。日常生活の中の何気ない動作でさえ私たちは欲望を糧に生きている。

 例えば、朝起きてご飯を食べるのはお腹がすいたから。歯を磨くのは清潔でいたいから、あるいは人に嫌われたくないから。天気予報を見て傘を持っていくのは雨に濡れたくないから。もっと身近な例でいうと、時間が空いた時にスマートフォンを見たり本を読んだりするのは、暇な時間を少しでも有意義な時間にしたいから。

 一見無意識に見えるその動作も、突き詰めて考えてみるとそれは欲望に従ったものである。では、純粋な親子の絆や夫婦、恋人の間の思いやりはどうか。それすらも、子供がかわいいから力になってあげたい、自分を幸せにしてくれるパートナーの笑顔が見たい、といった欲望によるものだ。

 夢も希望もないようなことを語っているかのように聴こえるかもしれないが、それは大きな間違いだ。欲望は決して汚いものではない。むしろ人間を支えてくれるなくてはならないもの、すなわち水や食べ物のようなものだ。欲望のない人間などこの世に存在しないが、もしいたとしたらそれは言われるままに行動するロボットか、ただ生きているだけの植物のようなものだろう。






 人間の行動原理は欲望である。ならば、本当の善に見えるものにもやはり、それが人間の起こしたものである限りそこに欲望はつきまとう。相手を助けたいと思う気持ちの正体、それはそれぞれ理由は違えど自分が優しい人でありたいと思う欲望だ。

 本当に優しい心だ、温かい心だ。けれども多くの人はそれを「偽善」だと言って自分を蔑み優しくない世界を嘆いている。その心が欲望によるものだと心の中で理解してしまっているから。そういう姿を見ると、私は毎回もったいないと思ってしまう。

 ここで改めて主張する。偽善でいいじゃないか。偽善で何が悪い。その「偽善」で、その欲望で、救われる人がいるのだ。温かな気持ちになれる人がいるのだ。欲望とは、その使い方次第で美しいものにも汚いものにもなる。「偽善」を行うその欲望は、何よりも美しい。この世界のどんなものよりも、だ。





 学生時代のころ、私は人に優しくあろうとした。しかしそれは、誰からも嫌われたくないという「偽善」でもあった。その度に私は自分を責め、真の意味で「優しい人」になることなどできないと苦悩していた。けれども他人の「偽善」を見ていくうちに、「偽善者」の姿を見ていくうちに、その苦悩は自然と消えた。

 私が導き出した答えは、本当の意味で「優しい人」とは、偽善を「偽善」と知りながら、それでもなお優しくあろうとできる人のことをいうのだ。




 現代社会では、「優しい心」をもつ「偽善者」はあまり見られなくなった。やさしさの仮面をかぶり、誰もが相手を利用しようという汚い欲望にとらわれ、弱いものは淘汰されている。そんななかで、もしもあなたが「優しい心」を自分の中に見つけたのならば、迷う必要などない。


   「偽善者」たる人は、誰よりも輝いて見えるだろう。
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