『ヒカリ』

あかつき

文字の大きさ
4 / 4

『言葉の力』

しおりを挟む
 人類の歴史の中で最も偉大な発明は、言葉であると私は考える。人類が発展してきた理由の一つは他の生き物よりも優れた思考力と作り出したものを後の世に伝える技術があったからだと思う。そしてそれは、言葉によって生み出されたものだ。

 私たちが何かを思考するとき、必ず言葉をつかう。ためしに言葉を使わず何かを考えてみてほしい。おそらく言葉なしにはその対象に対する感情が浮かぶだけだろう。例えば欲しいものがあったとして、それをただ欲しがってるだけでは手に入らない。木になっているリンゴを取りたいのなら、手を伸ばすのではなく長いものを使って取るとか、あるいは枝を揺らすなど、知恵を使わなければならない。感情だけでなく、それを満たす理性が必要だ。そして理性を扱うには、やはり思考、すなわち言葉の力が不可欠となる。

 作り出したものを後の世に伝える技術。最も一般的なものは文字だろう。作り出した言葉を記号として表記し、それを一般化することで誰にでも伝わるようにした。先人たちの知恵の積み重ねを現代の私たちは学んでいる。生み出した人たちに私たちが直接会ったわけでもないけれど、私たちはその人たちの創造物を知ることができる。誰かに教わるか、文献を読むか、手段は様々であるけれどそのどれもが言葉を媒介としたものであることは言うまでもない。





 生きていれば、つらいこと、苦しいこと、大変なことがたくさんある。時には逃げ出したくなってしまうこともあるだろう。どうしようもないほどの哀しみを、絶望という。私たちが必要なのは、その人生に幾度も訪れる挫折や困難を乗り越えることだ。この世は理想郷ではない。故に幸せだけに満ちた人生など、ただの一つも存在しない。そんなとき、私たちを支えてくれるのは言葉である。ここでいう言葉というのは、誰かにかけられる励ましの言葉ではなく、自分自身の中にある言葉である。

 どうしようもなくつらく苦しいときは、自らの心情を紙の上に言葉として綴ってみる。言葉として表現するとき、人間は自らの姿を客観的に視ることができる。たとえそれが激しい感情によって書きなぐられたものだとしても、そこには必ず思考が生まれる。自らを言葉によって描くということは、私たちにその現状への理解を与える。文章化することによって、自分がするべき次の行動が、否応なく現われてくる。

 さらに、自らの心情を書くという行為は、自分の感情をコントロールすることにもつながる。つらい現実を誰かに話せば楽になるのは、そのことを言葉として表現するからだ。だれかに見せる必要はない。ただ、行き場のない感情を言葉に託す。それだけで、気持ちをある程度整理することができる。



 絶望を味わった時、負の感情が人間という小さな器の中でどこまでも膨張する。どんなに悲しくとも、どんなにつらくとも、私たちは前を向いて歩いていかなければならない。そのために必要なのは自分の感情の整理と現実の理解だ。それは言葉の力が解決してくれる。

 この世は完璧ではない。故にどんな人生にも悲しみはつきまとう。けれども、完璧でないからこそ、悲しみだけの世界というのもまた存在しない。命ある限り、希望がなかったとしても、歩き続けるしか道はない。

   諦めず進んだ先に、どこかに必ず光はある。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

島猫たちのエピソード2025

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
「Cat nursery Larimar 」は、ひとりでは生きられない仔猫を預かり、保護者&お世話ボランティア達が協力して育てて里親の元へ送り出す「仔猫の保育所」です。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

アルファポリスの禁止事項追加の件

黒いテレキャス
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスガイドライン禁止事項が追加されるんでガクブル

処理中です...