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アールグレイとスコーン
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___…ふわりと、アールグレイの華やかな香りが鼻を擽る。あとからワンテンポ遅れて、焼きたてのスコーンの匂いもやってくる。
庭の植物たちはその馨しい空気を纏い快晴の空に向かって伸びている。
いつもと変わらない午後3時のお茶会。
ここは名だたる上級貴族であるアレグリア家。
その令嬢であるセレスティア・アレグリアは超がつくほどの甘党である。その証拠に、たった今彼女は淹れたばかりの紅茶になみなみとミルクを注ぎ、角砂糖を5個放り込んだ。
爽やかな茶葉の香りは段々と薄まり、庭はすぐに濃厚な乳の匂いに包まれた。
「お嬢様、糖分の摂りすぎはお体に触りますよ。」
彼女のメイドであるニルはそう言って肩を竦めた。
「あら、じゃあ最初からミルクや角砂糖をテーブルに置いておかなければ良いじゃないの。それなら私も為す術なくして、ちゃんと本来の紅茶の味を楽しめるわよ。」
「はぁ…。それは先日やりましたわ。結局お嬢様が甘くない、と拗ねてしまって大変だったではありませんか。」
「…忘れてしまったわ。貴方の思い違いではなくて?ニル。」
セレスティアはそう言うとドロドロに甘く魔改造された紅茶を1口啜った。
「大体私は剣術の稽古をしているのだから摂取した糖分くらいちゃんと消費しているわ。」
グチグチと言い訳を零しながらスコーンに手を伸ばした。
片手にバターナイフを持ちクロテッドクリームを大量に掬うと
それをスコーンの頭に満遍なく塗った。
見るに堪えないほど真っ白に染められたスコーンにさらにイチゴジャムを塗りたくっていく。
赤と白のアンバランスなマーブル模様がセレスティアの食欲を増幅させた。
「ニルもこの屋敷に来た時は礼儀作法の一つや二つも分からなかったくせに!」
勢いよくスコーンにかぶりつく。が、しかし流石は令嬢。勢いをつけていながらもクリームを唇につけることはなく、崩れたスコーンのカスさえ零さなかった。
「忘れてしまいましたわ。お嬢様の思い違いではなくて?」
と、言うとニルはわざとらしく首を傾げニコリと微笑んだ。
そして皿に乗ったスコーン全てに適量のクリームとジャムをつけると、そのクリームとジャムが入っていたココットを素早く手に持った。
「私がスコーンにちょうどいい量のクリームとジャムをつけましたので、こちらはお下げしますね。」
ニッコリ微笑んだままニルはスカートを翻しそのまま屋敷の方へと足早に行ってしまった。
「何よ、ニルったら。こんなんじゃちっとも甘くないわよ!」
頬杖をついたまま残りの絶甘スコーンを口に放り込む。
口の中に気だるげな甘さが一瞬で広がり、セレスティアのつくため息を甘くさせた。
「一応、食べておいてあげよ。」
ニルがクリームとジャムの量を調整したスコーンも食べる。
一口目は全く甘くない、と感じたが味わっているうちにスコーン本来の甘さが引き立ってきた。同時にふんわりと優しいミルクの匂いもしてきた。かなり良質のバターを使っているみたいだ。素朴でどこか懐かしい味わいのそれは、ホロホロと優しく口中で崩れていく。
「…悪くないわね。」
暖かな午後の風がセレスティアの頬を撫でる。
それはまるで上質な絹のような滑らかさで。気持ちよくて思わず眠くなってしまう。
「こんなとこで寝たらあの子に叱られちゃうわね。」
ニルの呆れた顔を思い浮かべつつ、セレスティアはテーブルに突っ伏すようにした。
うっすらと遠くの方にニルが見えた。よく見ると呆れたような顔をしている。
___ほら、やっぱりね。
セレスティアは思わず頬が緩んでしまう。
微睡みの中で感じる平和が少し嬉しかった。
庭の植物たちはその馨しい空気を纏い快晴の空に向かって伸びている。
いつもと変わらない午後3時のお茶会。
ここは名だたる上級貴族であるアレグリア家。
その令嬢であるセレスティア・アレグリアは超がつくほどの甘党である。その証拠に、たった今彼女は淹れたばかりの紅茶になみなみとミルクを注ぎ、角砂糖を5個放り込んだ。
爽やかな茶葉の香りは段々と薄まり、庭はすぐに濃厚な乳の匂いに包まれた。
「お嬢様、糖分の摂りすぎはお体に触りますよ。」
彼女のメイドであるニルはそう言って肩を竦めた。
「あら、じゃあ最初からミルクや角砂糖をテーブルに置いておかなければ良いじゃないの。それなら私も為す術なくして、ちゃんと本来の紅茶の味を楽しめるわよ。」
「はぁ…。それは先日やりましたわ。結局お嬢様が甘くない、と拗ねてしまって大変だったではありませんか。」
「…忘れてしまったわ。貴方の思い違いではなくて?ニル。」
セレスティアはそう言うとドロドロに甘く魔改造された紅茶を1口啜った。
「大体私は剣術の稽古をしているのだから摂取した糖分くらいちゃんと消費しているわ。」
グチグチと言い訳を零しながらスコーンに手を伸ばした。
片手にバターナイフを持ちクロテッドクリームを大量に掬うと
それをスコーンの頭に満遍なく塗った。
見るに堪えないほど真っ白に染められたスコーンにさらにイチゴジャムを塗りたくっていく。
赤と白のアンバランスなマーブル模様がセレスティアの食欲を増幅させた。
「ニルもこの屋敷に来た時は礼儀作法の一つや二つも分からなかったくせに!」
勢いよくスコーンにかぶりつく。が、しかし流石は令嬢。勢いをつけていながらもクリームを唇につけることはなく、崩れたスコーンのカスさえ零さなかった。
「忘れてしまいましたわ。お嬢様の思い違いではなくて?」
と、言うとニルはわざとらしく首を傾げニコリと微笑んだ。
そして皿に乗ったスコーン全てに適量のクリームとジャムをつけると、そのクリームとジャムが入っていたココットを素早く手に持った。
「私がスコーンにちょうどいい量のクリームとジャムをつけましたので、こちらはお下げしますね。」
ニッコリ微笑んだままニルはスカートを翻しそのまま屋敷の方へと足早に行ってしまった。
「何よ、ニルったら。こんなんじゃちっとも甘くないわよ!」
頬杖をついたまま残りの絶甘スコーンを口に放り込む。
口の中に気だるげな甘さが一瞬で広がり、セレスティアのつくため息を甘くさせた。
「一応、食べておいてあげよ。」
ニルがクリームとジャムの量を調整したスコーンも食べる。
一口目は全く甘くない、と感じたが味わっているうちにスコーン本来の甘さが引き立ってきた。同時にふんわりと優しいミルクの匂いもしてきた。かなり良質のバターを使っているみたいだ。素朴でどこか懐かしい味わいのそれは、ホロホロと優しく口中で崩れていく。
「…悪くないわね。」
暖かな午後の風がセレスティアの頬を撫でる。
それはまるで上質な絹のような滑らかさで。気持ちよくて思わず眠くなってしまう。
「こんなとこで寝たらあの子に叱られちゃうわね。」
ニルの呆れた顔を思い浮かべつつ、セレスティアはテーブルに突っ伏すようにした。
うっすらと遠くの方にニルが見えた。よく見ると呆れたような顔をしている。
___ほら、やっぱりね。
セレスティアは思わず頬が緩んでしまう。
微睡みの中で感じる平和が少し嬉しかった。
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