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第玖話-オニ

オニ-14

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「これからどうするんですか?」
 板金工場の工場長を締め上げて吉良という人物を吐かせた絢巡査長に、齋藤刑事が今後の動きを確認する。
「どうしようかなぁ~」絢巡査長は気だるそうに答えた。
「吉良という人物を追いますか?」
「追って見つかると思っているの?」
「いやでも、探さない事には吉良は見つからないですよ」
「う~ん、吉良が実在するのかなぁ~」
「何を言っているんですか? 工場長が自供したじゃないですか。工場に車の修理を持ち込んだのは、吉良と名乗る女性だって」
「そうねぇ~」
 曖昧な返事だけ返す絢巡査長に腹が立ってくる齋藤刑事。
 そんな時、絢巡査長のスマホにメッセージを受信した着信音が鳴った。
 すぐに確認し「斉藤君、ご飯にしよう」と提案され、渋々了承する齋藤刑事であった。
 絢巡査長に連れて来られたのは、五反田にある定食屋であった。
「いらっしゃいませ。お連れ様お待ちですよ」
 店員は絢巡査長にそう言って、座敷の席に案内する。
 二人が座敷の部屋に入ると、長四郎達が先客として待っていた。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」一川警部に返事をして燐の隣に座る絢巡査長。
 齋藤刑事は一川警部の隣に座ると「そちらはどうだったんですか?」そう話を切り出した。
「事件の話は良いから、食べるもの決めてくれ。モブ刑事」
 長四郎はそう言って、メニューを渡す。
「えーっと、じゃあ、カレーライスを」
「ここはカレーライスじゃなくてハヤシライスの方が美味かよ」一川警部が忠告する。
「ちょっと、一川さん。そういうの若い子は嫌うんですよ。すまんな、モブ刑事」
 一川警部に代わって謝罪する長四郎に「いえ」とだけ返事するのに「だからさ、ハヤシライスを頼めよな。モブ刑事」と長四郎は続けざまに言った。
「あんたも変わらん!」燐は華麗なツッコミを入れる。
「私は、クリームコロッケ定食を」絢巡査長が注文するメニューを決めると「じゃあ、すいませぇーん」と燐が店員を呼び、各々食べたい物を注文する。
「それで、事件の話をしても良いですか?」齋藤刑事が本来の話に戻そうとする。
「次にモブ刑事は「吉良という人物を探しましょう」と言う」長四郎はドヤ顔で齋藤刑事を指差すと「吉良という人物を探しましょう。はっ」と長四郎の言葉通りの台詞を吐き驚愕する。
「お前はジョセフか」ボソッとツッコミを入れる燐。
「まぁ、それはやめた方が良いな。時間の無駄だ」
「どうしてですか?」長四郎に食ってかかる齋藤刑事。
「だって、そんな人物居ないんだもん」
「でも、免許証のコピーはあったんですよ!」
 工場長から押収した吉良の免許証のコピーを長四郎に見せた。
「確かに面影があるなぁ」
 免許証のコピーを見た一番の感想がそれだった。
「はい?」意味が分からず、齋藤刑事は聞き返してしまう。
「吉良っていう女の人と川尻珠美だよ」
「そのことについては、工場長も覚えていました。写真と顔が違うので問いただしたら、整形をしたから少し違うと言っていたそうです」
「モブ刑事。これでも吉良という人物がいるとお思いですかぁ?」杉下右京風に尋ねる長四郎に齋藤刑事は下唇を嚙むだけで反論しなかった。
「お待たせしましたぁ~」
 店員が注文した品を持って来た。
 各々、頼んだ品を自分の前に置き食べ始める。
「あの、結局のところ犯人は誰なんですか?」
 この齋藤刑事の質問に『くぅわぁぢぃりぃひゅふぁい(訳:川尻夫妻)』と残りの四人が食べ物を口に入れながら一斉に答えた。
「川尻夫妻? それって、熱海さん達が聞き込みに行った人物ですよね?」
「うん」長四郎は飲み込むと同時に頷いて返事をした。
「どうだったんですか?」
「どうもこうも。あ、そうだ」と何かを思い出し、燐の方を見てこう続けた。
「あの、ハッキングした子って誰なの?」
 ストレートな質問に燐は口の中に入っていた物を拭きこぼしそうになる。
「急に何言うのよ。私、知らないよ」しらばっくれる燐に「ラモちゃんがハッキングしたと?」と言う一川警部の質問に「私のクラスメイトの地牛って子が。あ」自分があっさりと口にしたことに気づき両手で口元を抑える。
「ふっ、馬鹿が。あっさりと引っ掛かりやがった」
「うるさいわね!」
 燐は長四郎の太ももに拳を叩きつけたつもりが、まさかの股間にクリティカルヒットしてしまい、あまりの痛さに机を蹴飛ばしそうになるが一川警部が抑え込んだおかげで机はひっくり返らずに済み、長四郎は机の上に突っ伏して悶絶する。
「あ、ごめん」
「ごめんで済んだら、警察はいらねぇ。くぅー」目から大粒の涙を流しながら燐を見る長四郎。
「さ、齋藤刑事。頼みがある」まるで、今から殉職する刑事のようなトーンで長四郎は語りかける。
「何でしょうか?」神妙な面持ちで聞く齋藤刑事に「この妖怪・金玉潰し娘を金玉潰し罪で逮捕してくれ。奴を逮捕できるのはお前しかいない。頼んだ・・・・・・・ぞ」
 そこで長四郎は息絶えたように気絶した。
「あ、熱海さん! 熱海さぁぁぁぁぁぁん!!」
 目に薄っすらと涙を浮かべながら天を見上げる齋藤刑事を無視しながら、燐、一川警部、絢巡査長の三人は昼食を黙々と食べる。
「って、何をやらすんですか。熱海さん」
 今になって、自分がした事が恥ずかしくなったのか。齋藤刑事の顔は少し赤くなる。
「やらぁできるじゃねえか。モブ刑事」気絶していたはずの長四郎はすくっと起き上がる。
「で、地牛って子を逮捕するんですか?」
「モブ刑事。どうして、協力者の子を逮捕せにゃあならんの?」
「でも、ハッキングをかけたんですよね?」
「そうなの? ラモちゃん」長四郎が尋ねると「どうだったかな?」ととぼけて見せる燐。
「一川さん!」
「あ、ごめん。聞いいとらんからったけん。なんか、あったと?」
 一川警部に助けを請うも知らぬ存ぜぬと言った感じで齋藤刑事は呆れかえってしまう。
「ま、そんなもんだよ。モブ刑事。じゃ、ラモちゃん。これ食ったらその地牛って子紹介してもらえる?」
「どうするの?」
「次に狙われやすいのって彼じゃない?」
 長四郎の言葉の意味を理解した燐は「分かった。食べ終わったら、連絡してみる」と返事をし、食べるペースを少し早める。
「良いですよね? 一川さん、絢ちゃん」
「良かよ」
「良いですよ」と二人共、返事を返す。
「じゃ、決まり。そういう事になったからモブ刑事も早く食べな」
 長四郎にそう促され、どういう事だ? と思いながら齋藤刑事はハヤシライスをかきこむ。
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