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第拾陸話-愛猫

愛猫-9

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 一川警部達はその頃、事件当夜に怪しい人物が居なかったのか、防犯カメラ映像のチェックと共に聞き込みをする事になった。
 そして今、「CATエモン」周辺で聞き込みを行っていた。
「ありがとうございました」絢巡査長はコンビニ店員に礼を言い、店を出ると「絢ちゃん」と一川警部が声を掛けてきた。
「一川さん。どうです? 成果ありましたか?」
「何の手掛かりも得られんばい。結構、用意周到な犯人なのかもしれんね」
「そうかもですね。かなり土地勘がある人物なんでしょうか?」
「どうやろ。長さんが今さっき連絡くれたんやけど。犯人は身内に居るはずだからそこら辺を視野に捜査してくれ言われとったんやけど、これは手がかかるばい」
「身内ですか。昨日、話を聞いた横乃海さんも候補ということでしょうか?」
「分からんけど、あの店の従業員かその関係者やろ。取り敢えず、それらを知っている人が居ないか調べるしかないよね」
「分かりました。もう一度、確認してきます」
「宜しくぅ~」
 もう一度、コンビニに聞き込みに行った絢巡査長を見送った一川警部は「CATエモン」の方へ向かって歩き出した。
 そんな一川警部の目に、ある一軒の店が目に留まった。「CATエモン」から3軒隣りにあるスナックであった。
 腕時計で時間を確認すると、16時を示していた。一川警部は小窓から店の中を覗くと、店主であろう女性が仕込みの準備を始めていたので、何か聞けると踏んだ一川警部は店に入ることにした。
 ドアを開けようとすると鍵が掛かっていたのでコンコンっとノックすると、ガチャっという音と共にドアが開く。
 中から気だるそうな顔をした女性が「店、まだなんですけど」と一川警部に言うのだが、一川警部は満面の笑みで警察手帳を見せる。
「どーもぉー」
「警察が何の用?」
「いや、そこで起きた殺人事件の聞き込みで来たとです」
「聞き込み? 今になってぇ~私の所には一度だって来たことないじゃない」
「そうでしたか。これは失礼しました」一川警部は店先で頭を下げる。
「ちょっと! こんな所で頭下げないでよ」
「あ、すんません」
「中に入って」
 一川警部は言われるまま店に入って聞き込みを開始した。
「何か飲む?」
「いえ、勤務中なんで」一川警部が断ると女性はムッとしながら、烏龍茶を差し出す。
「こりゃどうも」
「それで、事件の話だっけ?」
「ええ、事件当夜なんですけど怪しい人物は見かけませんでした?」
「怪しいかどうかは分からないけど、新規の客が来たの。それがなんか様子がおかしいというか」
「様子がですか?」
「そ。なんか、慌てた様子で」
 事件当夜、閉店30分前に1人の男が息巻いて店に入ってきた。
「いらっしゃい。そんなに息巻いてどうしたの?」
「何でもないっ! 良いから、そこのウイスキーをロックでくれ!!」
「そんな怒鳴くても」
 そう言いながら男が指差したウイスキーを手に取り、注文のロックを手渡す。
 男はひったくるようにグラスを取り上げ、一気に飲み干した。
 そうすると、落ち着いたのか。男はふぅーっと息を吐き、喋り始めた。
「すいません。取り乱してしまい」
「良いのよ。よくあることだから」と答えるのだが、店を訪れた時に男から酒の匂いがしなかったので不思議ではあった。
「落ち着きました。ありがとうございます」
「何かあったの?」
「ええ、まぁ」男の表情からあまり触れない方が最適解だと踏み「もう一杯飲む?」と問いかけた。
「同じのを下さい」
 男は空になったグラスを差し出してきたので、注文された物を出した。
「ありがとうございます」
 それからもう一杯お代わりをし、退店した。
「そんな客が居ったとですか。大変でしたね」
「そうなの。変な客でしょ」
「すいません。その男の特徴とか分かります」
 メモとペンを取り出した一川警部は、女性の回答を待つ。
「そうねぇ~IT系に勤める会社員みたいな感じだったかな」
「IT系ですか」
「早い話が、ここ最近いるでしょ。カッコつけの意識高い系。あんな感じ」
「成程。それは分かりやすい例えですね」
 一川警部はいそいそとメモを取る。
「すいませんが、またお話を聞くことがあるかもしれませんけど、その時は宜しくお願い致します」
「はい、今度は営業中に来てね。サービスするから。これ、名刺」
「あ、分かりました。では、失礼します」
 一川警部は名刺を受け取ると女性に一礼し、店を出た。
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