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第拾漆話-彼氏

彼氏-16

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「彼と直に話してみて、どうでした?」
 絢巡査長は車を警視庁本部へと走らせながら、長四郎に日向と接触しての感想を聞く。
「そうだな。覚悟を決めたって感じかな」
「覚悟ですか?」
「そう、覚悟。被害者を殺したっていう事から逃れる為の覚悟」
「必要のない覚悟ですね」
「ま、その意見には賛成だが、犯人としては警察にお世話にはなりたくないでしょ」
「それはそうですけど。詐欺にも加担しているようですし、罪の意識はあるんじゃないですか?」
「そんなものはないと思うぜ。どちらかというと、殺人事件で逮捕されて詐欺の事まで自供しちまったら、出てきた時が怖い。だから、是が非でも捕まりたくないでしょ」
「成程。確かにそうですね」
「納得して頂いたみたいで、良かった」
「でも、彼があのマンションへ訪れていたっていう証拠がないので追い詰めるのは難しいですね」
「そんな事は無いんじゃない? 被害者は揉み合った末に刺殺されてたんでしょ?」
「ええ」
「だったら、凶器を見つければ良いんじゃん」
「勿論、他の捜査員が全力を上げて捜索しています」
「捜索か。前に見せてもらった被害者の写真では被害者の服にびっしりと血が付着していたから犯人の服にも相当な返り血が付いていたんじゃないかな」
「では、どこかに服や凶器を捨てた若しくは隠し持っていると?」
「隠し持っているならともかくだが、捨てているなら見つかっていてもおかしくはないだろうな」
「捨てた場所が見つかりにくい場所という事ですかね?」
「それだ!!」
 急に大声を出す長四郎に驚く絢巡査長。
「ビックリしたぁ~急に大声出さないでくださいよ」
「絢ちゃん、被害者宅に行こう」
「え! 今からですか?」
「善は急げ。ゴー! ゴー!!」
「はいっ!!」
 絢巡査長は交差点に差し掛かると、華麗なUターンを決めて事件現場のマンションへと向かった。

 一方、燐はというと学校をサボって、リリと共に日向の素行調査をしていた。
「燐。この格好は気づかれない?」
 リリの言う現在の格好は、マダムが着るようなドレスタイプの服に大きなサングラスを掛け頭には頭巾を巻き、如何にも不審者といった感じの格好であった。
 この格好を2人していた。
「大丈夫よ。私に任せなさい」
 そう答える燐の視線の先には、友人たちと楽しそうに談笑していた。
「何、話しているんだろう?」
「大方、お持ち帰りした女の話よ。イキっている男子大学生のする話なんてそんなものよ」
 燐のものすごい偏見を聞きながら、日向の動向を探るリリ。
 そんな日向は、相変わらず談笑をしている。
「ったく。よくあんな吞気に喋ってられるよね」
 燐がリリに話しかけると、リリは俯いて身体をプルプルと小刻みに揺らしていた。
「リリ、泣いているの?」
 その問いかけに、リリは頷いて返事をする。
「辛いんだったら、帰っても良いよ」
「大丈夫。私の手であいつにとどめを刺したいから」
「分かった」
 リリの怒りに満ち満ちた目を見て、信用することを決めた燐は日向の調査を続行することを決めた。
 そうしていると、日向は友人と別れどこかへと歩き出した。
「行くわよ」燐はリリと共に尾行を開始した。
 日向は大学を出ると、自分の部屋に帰るわけでもなく周囲をやたらと警戒しながら歩いて行く。
 燐達も一生懸命、怪しまれないよう尾行していく。
「どこに向かっているのかな?」
「さぁね。女の所じゃない」
 燐はそう答え、日向を観察していると、日向はいきなり立ち止まる。
「あぶねっ」燐はリリと共に物陰に素早く隠れた。
 日向が立ち止まったのは、とあるマンションの前で辺りを見回し誰もいないことを確認するとマンションの植えこみに手を突っ込み何かを探しているようであった。
「何、探しているのかな?」
「分からないよ。そんな事」
 観察を続けていると、日向は諦めたのか。その場から足早に去っていた。
「終わなきゃ」リリが飛び出そうとするのを止める燐。
「行っちゃだめ」
「どうして?」
 リリの質問に答えず、日向の姿が見えなくなったことを確認した燐は植え込みに駆け寄り日向が探していた物を探し始める。
 1分もかからず、探し物を見つけた燐。
 それはゴミ袋に入った血が付着した服であった。
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