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第3話-報道

報道-1

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 金智 京助かねとも けいすけは、板橋区にある某テレビ局へとスポンサー営業で打ち合わせしに来ていた。
 4月から始まる新番組のスポンサーとしてテレビ局に売り込んだ結果、この度めでたくスポンサーとして番組に出資できることとなった。
 担当の京助は昨年末から営業を掛けたおがげで、今日の打ち合わせまでこぎつけたのだった。
「以上が、本番組のターゲット層です」番組ディレクターの真 伸一しん しんいちから番組のターゲット層の説明を受ける。
「分かりました。それで視聴率の方は如何程ですか?」
「はい。初回放送は10.0%を目標としています」
「すいません。それが高い設定なのか、素人の私には分からないんですが・・・・・・」
「そうですね。昨今のテレビ離れが進行する中での10.0ですからね。二桁狙っているので高い方ではないかと・・・・・・」
「それを聞いて安心しました。上司がやたらと数字を気にする人でしてね。なんか、すいません」
「いえ、業界関係者でもないのに視聴率を気にされるとは珍しい方ですね」
「全くその通りです」
 京助はやれやれといった感じな顔をしながら答える。
「こちらも全力全開で頑張らせて頂きますので、安心してください」
「はい。番組楽しみにしています。それと初収録の日には、上司が収録見学に来ますので」
「では、そのようにスタジオに申請しておきます。私も収録に立ち会いますので、上司の方に会えるのが楽しみです。と上司さんに伝えといてください」
「分かりました。伝えておきます、では、失礼します」京助はそう言って、席を立つ。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたぁ~」
 京助は会議室を出て廊下を歩いていると、前方から顔色の悪い高級スーツを着た男性が歩いてきた。
 少し心配になりながらも、変に声をかけて相手を驚かせてはいけないと思い軽い会釈だけして通り過ぎることにした。
 男とすれ違いざまに会釈し、それで無事に事が運ぶはずだった。
 だが、そうはならなかった。
 男とすれ違った瞬間、男が泡を吹いて倒れたのだ。
 勿論、救急車を呼ぶ事となり救急隊が駆けつけた時には男は息を引き取っていた。
 その為、警察が出動する事態にまで発展し、京助は第一発見者として現場に居残る事となったのだ。最寄りの警察署から刑事達が駆けつけ、京助はその中の一人から事情聴取を受けていた。
「それで、急に被害者の方が倒れられたと」
「はい。そうです。これって、事件ですか?」
「さぁ、今のところは何とも言えません」刑事は自分のこめかみを掻きながら京助の質問に答えた。
 そんな時、「本庁の方がお見えになりました」別の刑事が現場の刑事達に伝える。
「失礼しまぁ~す」
 京助は聞き覚えのある声にドキッとし、恐る恐る声の方振り向くとおさげ頭の丸眼鏡を掛け年相応より落ち着いた雰囲気のある二条 薫にじょう かおるが姿を現していた。
「マジか・・・・・・」手で顔を覆い薫から顔を隠す京助。
 薫が京助の横を通り過ぎたのを確認し、「刑事さん、帰っても良いですか?」と目の前に居る刑事に質問した。
「構いませんよ」という回答を聞いた京助は面倒ごとに巻き込まれる前にその場から立ち去ろうとする。
 しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「金智さん」
 背後から声を掛けられた京助は恐る恐る振り向くと、ニコニコ笑顔の薫が真後ろに立っておりこう告げた。
「ちょっと、良いですか?」
 京助はこうして、事件に関わる事となったのだ。
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