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第2章:周央学園
4・入学式
しおりを挟む入学式では、驚いた事が二つもあった。
その一つ目は、理事長の挨拶の時。
壇上で理事長だと挨拶をした男の人を見て、私はとても驚いた。
だって、周央先生に写真を撮ってもらった後、おじいちゃんたちが向かった先に居た優しい笑顔の男の人が、この周央学園の理事長だったからだ。
「みなさん、入学おめでとうございます。私は理事長の、周央崇です」
理事長を見た瞬間、どうして、という気持ちしかなかった。
どうしてこの学校の理事長が、おじいちゃんたちに、あんなに丁寧に頭を下げたのだろう。
おじいちゃんは、ただの定食屋の主人だよ? 一体どうして?
そんな事を考えていると、壇上で話す理事長と目が合った。
不思議なんだけど、理事長と目が合った後は、理事長の話を落ち着いて聞く事ができた。
理事長の話は、簡単にまとめると、入学おめでとうというお祝いの言葉と、とにかくみんな仲良く、楽しんで、というような内容だった。
言っている事はすごく普通の事なんだけど、とても優しい笑顔と声で言ってくれて、その優しい笑顔を見つめながら聞いていると、理事長の話が心に染み込んでいく感じがした。
驚いた事の二つ目は、生徒代表として、ちい兄が挨拶をしたという事だ。
しかも、ちい兄が壇上に立つと、すごい声援が!
それも、女の子だけじゃないの、男の子の声も聞こえるの!
「千隼先輩、素敵ー!」
「千隼先輩、ずっと付いて行くっすー!」
驚きながらも、ちょっと鼻が高かった。だって、あれは私のお兄ちゃんなんだもの。
うちは家族馬鹿だから、多分おじいちゃんたちもすっごく喜んでいるはずだ。
そう思ってちらりと保護者席を見ると、目を輝かせているおじいちゃんと目が合った。うん、て頷いている。
やっぱり、嬉しいよね! ちい兄、カッコいいよね!
「新入生のみなさん、ようこそ、周央学園高等部へ。俺は、三年A組、西園寺千隼です。周央学園高等部への入学、おめでとうございます!」
「キャー! 千隼先輩―!」
「カッコいいー!」
ちい兄はちょっと挨拶をしただけで、またキャーって言われている。
アイドルか、と心の中で突っ込みながらも、生徒代表として何を言ってくれるのだろうと、ドキドキしながら私は壇上のちい兄を見つめた。
「えーっと、三日ほど前にですね、先生たちから入学式で挨拶しろって言われたんですけど、俺、こういうの苦手なんだよね。なので、短めに言いたい事だけ言います。みんなも、あんまり長いスピーチとか、嫌だろ?」
どっと笑いが起きる。確かに長いスピーチとかは嫌だけどさ、何を言ってるのよ、うちのお兄ちゃんは。
「つまり、だな……みなさんのこれからの三年間、俺は、精いっぱい楽しんでもらえたらいいと思います。それで、さっき理事長も言ってましたが、仲良く、楽しんでいこうぜ、て思います。というわけで、これからよろしくな!」
こんなスピーチでいいのかとちょっと思ったけど、とてもちい兄らしいし、多くの声援と拍手を貰えていた。
仲良く、楽しんで。
理事長とちい兄のメッセージを、私は胸に刻む。
偶然かぶっただけなのかもしれないけれど、多分それが一番大切な事なのかもしれなかった。
ただ……もしかしたら過去に、とても仲が悪い学年があったのかな、なんて、ちょっとだけ思ってしまったけど。
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