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第6章:不和
7・昌央
しおりを挟むべちべちべち、と、顔を叩かれたような気がした。
目を開けると、昌央が一生懸命私の顔を叩いていた。
べちべちと顔を叩かれるだけでなく、小さな子供の小さな爪で、時々顔を引っかかれる。
痛いよ、昌央。あんた、何してんのよ。
私はまだ、体が痛くて動けないんだぞ。
そんな相手を、べちべちと叩くって、あんた、親にどういう教育を受けているんだよ。
親の顔が見たいぞ! 知ってるけどね!
「こら、昌央!」
私をべちべちと叩き続ける昌央を止めようと、私は腕を伸ばそうとした。
昨日の状態を考えたら、体に激痛が走るだろうと覚悟をしたんだけれど、予想に反して何の痛みもなく腕を動かす事ができた。
「え?」
痛くないってどういう事?
「こはなー? だいじょぶ?」
「え? えーっと……大丈夫、かな?」
だって、どうしてなのかはわからないけれど、体、痛くないし。
試しに体を起こしてみると、起き上がる事ができた。
じゃあ次は、立てるかどうかだ。
ベッドから降りて、足に力を入れて立ち上がる。
「やった、立てた!」
何でかはわからないけれど、嬉しい!
「こはな、げんき?」
「うん、元気みたい!」
良くわからないけれど、痛くないし、立てたし、動けるし、歩ける。
それはつまり、元気だという事だ。
「こはな、よかった!」
「うん、良かった!」
嬉しそうに笑う昌央と二人ではしゃぎながら、ふと思う。
今って、朝だよね?
そして、ここって、周央の寮なんだよね?
なんでここに昌央が居るの?
「どうした、小花、何かあったか!」
私と昌央がはしゃぐ声が聞こえたんだろう、おじいちゃんが部屋に来て――立って動けるようになった私を見て、目を見開いて驚いた。
「小花、お前、動けるようになったんか!」
「うん! 体、全然痛くないの! おじいちゃんのおかげだよね!」
「さぁ、どうじゃろうなぁ。今まで効かなかった治癒の力が、小花が起きた事によって、効き始めたのかもしれないし、もしくは――」
おじいちゃんは私の隣に居た昌央へと腕を伸ばすと、小さな体を抱き上げる。
「もしくは、この子の力かもなぁ」
首を傾げた私に、おじいちゃんは苦笑いし、言った。
昌央、まだ五歳なのに、真中の力に目覚めちゃったんだって!
「血だらけの小花の姿を見て、ショックを受けたんじゃろう、突然覚醒しよったんじゃ。ただ、お前と同じく、力の使い方が問題でな……」
「どういう事?」
「昌央は、別の痛みを与えて、対象を治癒するんじゃ。おかしな力の使い方が癖になったら困るから、止めろと何度も言っておったのに、目を離した隙にお前のところに行って、叩いたりつねったりしとった」
そう言えば、昨日目を覚ました時も今朝も、私は昌央にべちべちと叩かれていたような気がする。
そうか、昌央は私の事を、一生懸命に治そうとしてくれていたんだね。
でも、人を治すのに叩いたりつねったりするのは、あまりよろしくない。
「お前は人を治すために自分を犠牲にするし……お前たち二人には、ちゃんとわしが真中の力の使い方を教えてやるから、しっかり覚えろ」
「うん、ありがと」
それにしても、私と一緒に真中の力の使い方を教えてもらうのが昌央だったとは、意外だなぁ。
ちなみに昌央がどうして周央寮に居るかというと、真中の家には周央学院の敷地内に一瞬で移動できる術式があるらしく、それを使ってこちらに来ているのだそうだ。
寮に住んでる茉莉花たちに毎日遊んでもらって、すっかり味を占めてしまったらしい。
昌央って、五歳で真中の能力に目覚めちゃうし、なかなか大物みだいだ。
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