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第二章:ベル・ガンドール
25・ベルの望み
しおりを挟む「伯父様、私、伯父様の言う通り、結婚します。いろいろと考えて、決心しました」
私がそう言うと、伯父様は安心したように、ほっと息をついた。
「そうか、よく決心してくれたな」
「はい、いっぱい悩みましたけど……」
「そうか」
「癇癪を起して、三日も口をきかなくて、ごめんなさい」
私が謝ると、伯父様は首を横に振った。
「大丈夫だ。私にとってベルの癇癪は、昔からとても可愛いものだった」
「そうなの?」
「あぁ。例えそれがただの我儘からくるものだったとしても、とても可愛いものだった。まぁ、お前は我儘を言うような子ではなかったがな」
苦笑しながら、伯父様は言った。
我儘、か。
確かに、戦場でもあるこの砦に住んでいる事もあって、あまり言った事はなかった気がする。
「じゃあ、伯父様に言われた通り、結婚する事にした私の……最後の望みを、叶えてくれる?」
ふと思いついて、口にした事だった。
伯父様は少し驚いたようだったが、頷いてくれた。
「いいの?」
「あぁ、構わない。今の私に叶えられるようなものであれば、叶えよう。何が望みだ?」
「え、と……」
まさか頷いてくれるとは思わなかった。
「どうした? 何か欲しいものでもあるのか?」
と聞かれ、私は首を横に振った。
欲しいものなんて、なかった。
私の望みは、ずっとここにいる事……だけど、これは口にはできない事だ。
それなら……。
「それなら、これから結婚式までの、四日間……。ずっと伯父様のそばに居てもいい?」
私の願いは、我ながらとてもささやかなものだった。
だけど、ここは魔物が湧き出る東の森の第一砦で、伯父様はここの責任者だから、断られるかもしれない。
「ベル……」
「あ、やっぱり無理よね、ごめんなさい」
やはり無理なのだーーそう思ったけれど、伯父様は首を横に振った。
「いや、お前の願いがそれなら……できるだけ何とかしよう」
「本当?」
「あぁ」
頷いた伯父様に、私は飛びついた。
伯父様は二メートルを軽く超える長身で、がっしりとした体つきをしているから、私が思いきり飛びついてもびくともせずに、簡単に抱き留めてくれた。
「ありがとう、伯父様、とっても嬉しい!」
伯父様は何年経っても、私が成長しても、変わらずとても大きな人だ。
伯父様の腕の中に居ると、安心する。
伯父様は、私が世界で一番信頼している人だ。
伯父様は私のお父さんのお兄さんだから、伯父様なんだけど、私にとってはそれ以上の存在だ。
「あのね、伯父様……。もう一つ、お願いがあるの……」
「なんだ? 私にできる事なら、何だってしてやろう……」
「あのね、今までずっと伯父様って呼んでいたけど、お父さんって呼んでもいい?」
「え?」
伯父様は驚いたようだった。
私は伯父様の腕の中から顔を見上げ、続ける。
「駄目、かな? 本当のお父さんじゃないけど、ずっとお父さんだって思ってた……。お父さんって呼んじゃ駄目?」
私がそう尋ねると、伯父様――お父さんは、固く目をつむり、首を横に振った。
「いや、構わない……。お前がそう呼びたいと思ってくれるのなら、こんなに嬉しい事はない」
「お父さん……」
「ベル……ベル……私の、大切な娘……」
そう言って、私を育ててくれたお父さんは、涙を流しながら私を包み込むように抱きしめてくれて、私も精一杯の力でお父さんを抱き返した。
結婚式まで、あと四日。
残された時間を、私は大好きなお父さんと、できるだけ一緒に居る事にした。
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