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第二章:ベル・ガンドール
26・穏やかな数日間
しおりを挟む「今日は、ギルベルトお父さんの好きな魔黒鳥のシチューを作るからね。あと、タイラーとマディが、森の見回りに行った時に、魔豚を獲ってきてくれたの。ギルベルトお父さんの好きなハムにしておくから」
「それは楽しみだな。そうだ、私も手伝おうか」
「え? 本当? ギルベルトお父さん、料理、できるの?」
「できるさ。ただ、お前のように美味しく作れないだけだ。でも、教えてもらったらできると思うぞ」
「わかったわ、じゃあ、一緒に作ろうね!」
結婚式までの数日間、私はできるだけギルベルトお父さんと一緒に居た。
お父さんも私の望みを聞いてくれて、できるだけ私のそばに居てくれた。
タイラーやマディも、砦に居る仲間全員が協力してくれて、私の願いを叶えてくれたのだ。
穏やかで、泣きたいくらい幸せな数日間だった。
実際、夜になると泣いてしまった。
この幸せの中で、ずっと過ごしていたい。
結婚して王都に行くなんて嫌だ、ずっとここに居たい、と心が揺らいで叫びだしてしまいそうになるのだ。
だけどそのたびに、この砦の人を守るんだと自分に言い聞かせて我慢した。
大好きなギルベルトお父さんは、絶対に私が王都から守るんだ。
そして、とうとう最後の夜になった。
明日は私の結婚式だ。
全く嬉しくない結婚式……顔も知らない相手の元に、私は嫁ぐ事になる。
眠ってしまえば朝がきて、ここから離れなければならない。
そう思うと眠るのが怖くなって、ベッドを抜け出し、慣れ親しんだ厨房に足を向けた。
「ベル、寝ないのか?」
声をかけてきたのは、ギルベルトお父さんだった。
昼間に私と一緒にいるために、ギルベルトお父さんは、夜に砦の見張りをしていたはずだ。
今夜の見張りはどうしたのかと尋ねると、
「ベルと一緒に居られる、最後の夜だからな」
と言って、ギルベルトお父さんは腕を広げ、おいで、と言ってくれた。
私は頷いて、広げられた腕へと飛び込んでいく。
そうだ、今夜は、最後の夜だ。
この優しくて逞しい腕とも、今夜でお別れだ。
「あのね、明日、言おうと思ってたんだけど……」
「何だ?」
「今まで育ててくれて、ありがとう」
私がそう言うと、ギルベルトお父さんは何も言わずに、私を抱きしめる腕に力を込めた。
「本当のお父さんとお母さんはそばにいてくれなかったけど、ギルベルトお父さんがずっとそばに居てくれたから、私、少しも寂しくなかったわ。ここの生活は確かに危険かもしれないけれど、私はここが大好き……。ギルベルトお父さんや、みんながいる、この東の森の第一砦が、大好きだったよ」
「ベル……」
「お父さんって呼ばせてくれて、ありがとう……。忙しいのに、一緒に居てくれてありがとう……」
ギルベルトお父さんの、私を抱きしめる腕が、震えていた。
もしかして泣いているのかもしれないなぁと思う。
ギルベルトお父さんは、結構泣き虫だから。
「最後だから、朝まで一緒に居てほしいな」
腕の中でぽつりと呟くと、
「甘えっ子だな」
と、少し呆れたように言われた。
だけど、
「構わない……。抱えていてやるから、このまま眠りなさい」
とギルベルトお父さんは言ってくれて……私は素直に目を閉じた。
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